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いつみちゃんとの会話が終わると、御子野瀬さんは彼女と一緒に教室を出て何やら話をしているようだった。書類を覗き見てやろうと思ったが、持ち歩いたらしくなかった。
三分ほど壁越しの会話を聞きながら、いつみちゃんの項目を埋めていく。田舎者、純朴。そういった、無垢な印象が残った。
戻ってきた御子野瀬さんに、いつみちゃんとの会話の内容を訊ねようとしたが、やめた。僕を外して行われたものなのだから、僕の耳に入るのをはばかるようなものであると推察できる。それを問いただすほど野暮ではない。
彼はまた煙草を吹かし、ちょっと休憩しようか、と言った。僕に断る筋合いはない。
窓辺から、
「今の子は辞退することになるかもしれない」
さらりと言うので、驚いた。
「どうしてですか?」
難しい顔をして煙を吐く。
「微妙なところだが、規約違反、つまり反則にあたる言動があったと言えなくはない」
「反則?」
「微妙なところなんだ。俺は初めてだからその基準線が曖昧でね。ちょっとあとで上の者に聞いてみるが、もしかすると駄目だったかもしれない、そんな具合なんだ」
「どんな反則なんですか?」僕からすれば悩殺笑顔マシーンいちかちゃんのほうが反則技を極めていた気がする。「特に気になるような何かがあったようには思われませんけど」
「それを話すわけにもいかないんだ。まあ、全ては確認してからになる。一応選考の中には留めておいてくれ」
携帯灰皿でもみ消して、服を叩く。
いつみちゃんのどの言動が規約違反になるというのだろうか。
しこりを抱えたまま、しかしこれ以上問うたところでまともな返答は得られないだろうと諦める。
「じゃあ次を呼んで来ようと思うけど、もう少し休むかい?」
「いえ、平気です」
「わかった、待ってて」
そう言って御子野瀬さんは姿を消した。
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