13
四人目は、黒の乱れなきロングヘアをわずかに揺らせながら入ってきた。端整な顔立ちで、正統派美人という印象を与える佇まいである。
席に着くより前、鼻を引くつかせ、
「煙草は、身体に有害ですよ。もちろん、御子野瀬さん、のほうですよね?」
すっかり薄まったと思っていた香りを嗅ぎ取り、思わず僕は隣と顔を見合わせる。
「ああ、失礼。お気遣いありがとう」
御子野瀬さんは腰を落としながら返答した。甘い独特の香りではあったが、十分に時間も置いたはずで、正直彼女が敏感すぎるのか、僕が鈍感すぎるのかとどっち付かずの考えを過ぎらせる。
「いえ。私は構いませんけど。座ってもよろしいですか?」
「ああ」言って、手で示す。「それこそ構わず、どうぞ」
彼の言い草は少々皮肉っぽかった。
着席してなお、ロングヘアに視線が行く。お尻を隠すかどうかという長さで、相当の年数を経たものと思われるが、綺麗だった。手入れが行き届いているのか、ともかく髪一本の先々まで健康そうなイメージが湧き出る。
「四宮しきさんね」書類に目を移し御子野瀬さんが尋ねる。「すぐに始めていいかな」
もしかすると苦手なタイプなのかも知れない。
僕は「四宮しき」の項目を作り、まず頭に「しっかり者」と書き記した。
「私は受験する側ですから、心の準備は待っている時から整えてあります。長嶺さんと御子野瀬さんに問題がないのでしたら、いつ始められても返答に窮することはありません」
「あ、そう」ちらりとこちらを見たのは、救済を求めているのかどうか。「じゃあ長嶺くんが質問を始めたらストップウォッチをスタートさせるよ」
「ええ、構いません。そこから五分、私の中でもきっかり数えます」
僕はなるべく気づかれないように、「やや高圧的」と追記した。
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