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なるほどみさとちゃんという人物は、快活に違いはないのだろうが、そういう人物こそ案外もろいものだ。
「ふう。若い子たちの五分間をかいつまんで見ているだけでも、おっさんには結構来るモノがあるね」
「何が来るんですか?」
「なんだろう、昔日に馳せる思い……。あ、いや、今のはなし」
御子野瀬さん笑い、そして書類に視線を落とした。
そちらを見ようとすると、引いて、内容を隠した。
「それ、なんの資料なんですか?」
「これはー」
言いながら、書類を手元に彼は立ち上がって、窓際に寄ると一つを開き、煙草をくわえて火をつけた。
煙を外に向かって吐き出す。
「長嶺くんに書いてもらっているようなメモだと思っていい」
「つまり、彼女らの特徴が?」
「特徴というよりは、来歴だな。性格、家族構成、血液型。そういう基本情報だよ。もちろん君の分も入っている」
「僕のも?」
「俺からすると長嶺くんも観察対象なんだよ」
「観察対象……」
「結局俺もお役人ってことだね」
「観察対象に、そんなに話していいんですか?」
純粋な疑問をぶつけてみると、彼は煙草の灰を空に散らせ、
「俺は初めてなもんでね。不手際はつきものさ」なにより、と続ける。「バスで話したとおり、正直俺はこんなの、どうかしてると今でも思っているからね」
「こんなの……。お見合いを卒業試験にすることですか?」
「そうだね」こちらに向けて、苦笑いを見せる。「男女は、恋愛から結婚すべきだと思ってる」
「恋愛からですか」
「そう。それが在るべき姿だよ」
「御子野瀬さんはどんな大恋愛を?」
「ばっ」
言って、彼は咳払いをひとつした。それから煙草を携帯灰皿にしまい込むと服を叩いて、
「ちょっと予定より遅れるが、ちゃんと換気しておこう」
そんな下手なごまかしをして、窓際から離れなかった。
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