9

「だいぶ落ち着いて話していたね」御子野瀬さんは怒るでもなく、僕のことをそう言う。「いちかちゃんのときとは大違いだ」

「いい意味で、安らぐような人でした」

 素直な感想を漏らす。

「なによりだよ。一、二番手で調子が出たようだね。いい順番だったのかもしれない」

 態度が変わったことに関しての言及はなく、つまり御子野瀬さんの意見は安定しないようだ。

 もしかして、

「付き添い人は初めてなんですか?」

 と聞いてみると、案の定苦々しそうな顔になり、

「何度か要請は受けていたんだが、いまいち乗り気にならなくてね。たぶん、こうして選ばれる立場にある女の子たちに、自分の娘の姿を重ねてしまうから良くないんだと思うが、引き受けた以上は何も言えんね。君と同じで手探りにこなしていくしかない」

 見るからにと言った愛想笑いを浮かべる。

「御子野瀬さんの娘さんって今」

 と聞こうとしたところで彼は立ち上がった。

「次の子を呼んでくる。二人の印象でも、メモに書き留めておきなよ」

 そうして去っていく。

 僕は言われるままに、長机に用意されていた白紙に鉛筆を立て、

「一ノ瀬いちか。女の子らしい子。声が可愛い。なんでもしたいことさせてくれる。作家をおすすめする」

「二村にぃな。緊張しい。制服の着こなしなど、真面目とまでは言わずとも派手にはしていない。性格は自分と似ているものと思われる。煮物、洋食作る」

 と書いておいた。

 到着早々に試験が始まってしまったため未だ要領を得ないが、そろそろ、何を基準に合否を決めるか、考えておかねばなるまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る