9
「だいぶ落ち着いて話していたね」御子野瀬さんは怒るでもなく、僕のことをそう言う。「いちかちゃんのときとは大違いだ」
「いい意味で、安らぐような人でした」
素直な感想を漏らす。
「なによりだよ。一、二番手で調子が出たようだね。いい順番だったのかもしれない」
態度が変わったことに関しての言及はなく、つまり御子野瀬さんの意見は安定しないようだ。
もしかして、
「付き添い人は初めてなんですか?」
と聞いてみると、案の定苦々しそうな顔になり、
「何度か要請は受けていたんだが、いまいち乗り気にならなくてね。たぶん、こうして選ばれる立場にある女の子たちに、自分の娘の姿を重ねてしまうから良くないんだと思うが、引き受けた以上は何も言えんね。君と同じで手探りにこなしていくしかない」
見るからにと言った愛想笑いを浮かべる。
「御子野瀬さんの娘さんって今」
と聞こうとしたところで彼は立ち上がった。
「次の子を呼んでくる。二人の印象でも、メモに書き留めておきなよ」
そうして去っていく。
僕は言われるままに、長机に用意されていた白紙に鉛筆を立て、
「一ノ瀬いちか。女の子らしい子。声が可愛い。なんでもしたいことさせてくれる。作家をおすすめする」
「二村にぃな。緊張しい。制服の着こなしなど、真面目とまでは言わずとも派手にはしていない。性格は自分と似ているものと思われる。煮物、洋食作る」
と書いておいた。
到着早々に試験が始まってしまったため未だ要領を得ないが、そろそろ、何を基準に合否を決めるか、考えておかねばなるまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます