8
二村にぃなと名乗った少女は、それきり少し黙った。たった五分しかない中、頭がパニックに陥っているのか、目をぐるぐる回して、落ち着きがない。
もしこのまま何も起きず五分間経ってしまっては、流石に彼女が不憫である。
「二村さんはその、家族は?」
当たり障りないであろうところを聞いてみる。
はっとして、にぃなちゃんは僕を見た。
「母と私の二人です」
「そうなんだ」
また、無言。
御子野瀬さんのほうをちらりと見ると、視線を合わせ、それからストップウォッチを見せてきた。やはり五分間というのは、あるようでないような、短い時間だ。
「趣味はなんですか?」
「母に手伝う程度ですが、料理を……」
「僕もやりますよ、料理」
返すと、少し緊張が解けたように見える。
「本当ですか?」
「うん。言っても、得意なのはパスタとか、そういうお手軽系だけど」
「パスタ好きです」
「二村さんは何が得意?」
「そうですね……、煮物は好きでよく作ります」
煮物。僕はあまり手を出さないジャンルだ。
「へえー」
「洋食もたまに。それこそパスタも作ります」
「そうなんですね」
「あと二分」
御子野瀬さんはこのうら若き男女の拙い会話を、無慈悲に分断する。
それを合図にしたわけではないが、
「僕と結婚したら何してくれます?」
いちかちゃんに聞いたものと同様の質問を繰り出す。
にぃなちゃんは身体をぐっと緊張させ、
「結婚……」と繰り返してから、「そうですね、長嶺さんと一緒に、一歩一歩、少しずつでもしっかり前に歩んでいけたらなと思います」
これぞ模範解答と言えようことを、恥じらいながら、一度視線を外してから言った。
「なるほど一緒に」
面接官然とした返事をした。たぶんこれも緊張によるものだった。
「同じものを見て、それぞれのことを感じたとしても、それを共有できる距離感を持ちたいなと、そう思っています」
価値観をともにする、と明言はせず、歩み寄るのだという意思を見せられた。ような気がする。
「はい、タイムアップ。お疲れさま。二村さんは自室待機でよろしく」
「はい」
御子野瀬さんに視線を合わせ、にぃなちゃんは頷いた。
彼女は立ち上がり一度お辞儀をくれてから、教室を出た。
長嶺にぃなかあ、悪くない。
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