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 扉を抜けて御子野瀬さんの後ろから入ってきたのは、セミロングのこげ茶色の髪を揺らした、身長百五十センチ程度の女の子だった。緊張しているのか、前で合わせた手は白くなるほどきつく結ばれている。

「じゃあそっちに、座って」

「は、はい」

 さっそく、御子野瀬さんの言ったような女の子が現れたわけである。

 がたがたと音を立てて着席する。座ってようやく、膝小僧が少し顔を出している。

 僕と同じように、いざとなると硬直するタイプと見え、全体的に強ばっているような印象があった。

 こうして、いかにも自分より緊張しているのではなかろうかという人と対面すると、不思議に心が穏やかになる。変な話だが、こちらの緊張を吸い取ってくれているような心地さえした。

 たぶん、酔っている時に自分より酔っている人間を見ると冷静になる、というやつと同じ原理だろう。

 いや、飲んだことないけれど。

「大丈夫?」御子野瀬さんが質問を飛ばす。「試験とは別に、落ち着くまで時間をとってもいいけど。そこまでこのおっさんも意地悪じゃあないからね」

 女の子はひとつ深呼吸の間をもたせ、

「だ、大丈夫です……」

 答える。

 それを聞いて御子野瀬さんは、

「あ、そう。本当に?」僕のほうを見る。「長嶺くんは?」

「まっかひゃてららさい」

 どうやら、心地だけだった。

 酔ってる時と同じで、身体は意識のように錯覚せず、正直なのである。

 いやいや、飲んだことないけれど。

 御子野瀬さんはいい加減呆れてきたのか、乾いた笑みをくれると、

「うん、まあ、いいか。若い子ってどうしてこう強がりなんだろうね。あれ、今の発言ってなんだか……、俺、年取っちゃったな……」ぶつくさと言いながら、ストップウォッチを構える。「落ち込む前に、それじゃあ二人目、始めよう」

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