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 いちかちゃんが教室を出て三十秒ほどのち、御子野瀬さんはため息をついてストップウォッチをリセットさせる。

「先行き不安だな、長嶺くん。心臓持つか?」

 フランクな物言いに、沈黙。

 持たないかもしれない。

 それを表情から悟ってくれたのか、

「まあ女性に対して免疫がないのは頷けるよ。仕方のないことだと思う。でももう少し試験らしく、公正に判断できる冷静さがないと、後悔することになるかもしれない。君はここで三人を退場させる。この五分間の会話は、要するに第一印象による選別だ。いちかちゃんはうまくやったようだが、他の子もそうとは限らない。向こうだって緊張していて不思議はない。君はあくまでも試験官として彼女たちのそういった内情もさえ視野に入れて判断する必要がある。わかる?」

「えと、なんとなく」

「なんとなくでもいいけどね」御子野瀬さんは小さく笑う。「最終的には夫婦になるんだから、下心で結構だ。だがあと九人、いちかちゃんにその態度で臨んだのならば、変にその感覚を麻痺させないでくれよ」

「善処します、かたじけない……」

 じゃ、と言って御子野瀬さんは席を立った。

「俺は次の子を呼んでくるから、そのまま座って待ってて」

 教室を出ていく。

 御子野瀬さんの言うとおり、僕は女性に対して免疫がない。中学時代から男子校に通っていて、関わる機会がなかった。改めて、どのような顔をして、どのような声音で、どのような接し方をすればいいのか、手探り状態なのである。

 でも同じく彼の言うとおり、これは試験だ。僕は試験監督なのだ。慣れないからと言って最初の女の子に有利に働いてはならない。

 うむ、そうだ。そのとおりだ。

 公正に、かつ厳格に。

 いちかちゃんは過ぎてしまったから仕方ない。なんにせよあんな可愛い子をここで退場させたりはしなかっただろう、うん、そんな気がする。だからここは却ってその感覚を麻痺させ、いっそ上から目線なくらいで、そう、例えば……、

「長嶺くん、次の子だ」

 うへへへ、おんにゃのこだー。

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