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「じゃあ最初はいちかちゃん。長嶺くんと御子野瀬さんと三人で、別室に移動してください」

「よし」と言って御子野瀬さんが僕と、奥にいるいちかちゃんとやらに視線を飛ばす。「行こうか。言わずもがな承知のこととは思うが、一応説明すると俺がついていくのはあくまで不正防止のため、要はただの監視でしかない。俺が割って入ったり、そういう試験自体に関与することはないから安心してくれ。とはいえ少しやりづらくなるかも知れんだろうけど、まあこんなおっさん、壁の一部だと思ってくれていいから」

 口元に蓄えた髭をさすりながら、ぶつくさ言って先に教室を出た。

 後ろでかたんと立ち上がる音。

「行きましょ?」

 僕の横を女の子が通り過ぎ、慌ててそれを追いかける。

 ああ、女の子の声。

 廊下を歩きながら、御子野瀬さんはいちかちゃんとやらに声を掛ける。

「長嶺くんは強がってみてるけど、見てのとおり緊張しいらしい。初っ端に当たったのは、不利かもしれないね。彼の頭に会話の内容が残るかどうか」

 真面目腐って、そんなことを言う。

 ボクガ緊張チイダッテ?

 悠然とした微笑の音がする。

「問題ないですよぉ、むしろ最初でよかったァって思ってます」

 御子野瀬さんが一度、いちかちゃんを振り返る。

「ふうん」そして、「大したもんだ」

 別室というのは二つ隣の教室だった。

 最大限会話の漏れに考慮したものと思われる。

 中に入ると、長机が一つと、向かい合う形でパイプ椅子が一脚置かれている。

「君はそっちで、長嶺くんはこっちね」

 御子野瀬さんの先導で長机のほうに腰掛ける。

 いちかちゃんはスカートの裏返りに気を配った女性特有の座り方で、手を一度腰からするりと下ろして、席についた。

 まるで面接の形である。

「心の準備はいいかい」御子野瀬さんはポケットからストップウォッチを取り出し、いちかちゃんが頷くのを待ってから、「それじゃあ始めようか」

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