4
「じゃあ最初はいちかちゃん。長嶺くんと御子野瀬さんと三人で、別室に移動してください」
「よし」と言って御子野瀬さんが僕と、奥にいるいちかちゃんとやらに視線を飛ばす。「行こうか。言わずもがな承知のこととは思うが、一応説明すると俺がついていくのはあくまで不正防止のため、要はただの監視でしかない。俺が割って入ったり、そういう試験自体に関与することはないから安心してくれ。とはいえ少しやりづらくなるかも知れんだろうけど、まあこんなおっさん、壁の一部だと思ってくれていいから」
口元に蓄えた髭をさすりながら、ぶつくさ言って先に教室を出た。
後ろでかたんと立ち上がる音。
「行きましょ?」
僕の横を女の子が通り過ぎ、慌ててそれを追いかける。
ああ、女の子の声。
廊下を歩きながら、御子野瀬さんはいちかちゃんとやらに声を掛ける。
「長嶺くんは強がってみてるけど、見てのとおり緊張しいらしい。初っ端に当たったのは、不利かもしれないね。彼の頭に会話の内容が残るかどうか」
真面目腐って、そんなことを言う。
ボクガ緊張チイダッテ?
悠然とした微笑の音がする。
「問題ないですよぉ、むしろ最初でよかったァって思ってます」
御子野瀬さんが一度、いちかちゃんを振り返る。
「ふうん」そして、「大したもんだ」
別室というのは二つ隣の教室だった。
最大限会話の漏れに考慮したものと思われる。
中に入ると、長机が一つと、向かい合う形でパイプ椅子が一脚置かれている。
「君はそっちで、長嶺くんはこっちね」
御子野瀬さんの先導で長机のほうに腰掛ける。
いちかちゃんはスカートの裏返りに気を配った女性特有の座り方で、手を一度腰からするりと下ろして、席についた。
まるで面接の形である。
「心の準備はいいかい」御子野瀬さんはポケットからストップウォッチを取り出し、いちかちゃんが頷くのを待ってから、「それじゃあ始めようか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます