涙
「最低だな、お前」
そう羽山に言い捨てて教室を飛び出した。
言う必要も無かったのに、彼奴は無駄に大山を傷付けた。
大山がどこに行ったのか分からないまま、校舎内を走った。
ただ、宛も無く大山を探した。
走っていると、いつもは机やらなんやらで封鎖されている屋上への階段が目についた。
無残に倒れた机や椅子。それらを押し退けてゆっくりと階段を上がった。
「大山、」
そこには大山の姿。
「…笹倉。
適当にうろうろしてたらここに…」
力なく笑う大山。
「お前さ、言う必要も無いのに、馬鹿だな」
大山の隣に腰掛けた。
「…うん」
それでも、と言葉を続ける大山。
「俺、昔から嘘吐けなくて、親にも言わなくて良い事まで言って、軽蔑されて、家追い出されて…」
大山の声は震えていた。
「本当は、言っちゃダメなんだって分かっててもやっぱり言えなくて。
いつか、俺の事分かってくれる人が助けてくれるんじゃないかって、思っちゃって…」
大山は言葉を詰まらせた。
「俺は、その、同性愛とか分からないし、都会じゃなんか認知されてきてるってテレビで見たけど、ここはそんなん無いし、あれだけど。
きっと、お前にとって男を好きになるってのは俺らが女子を好きになる事と同じくらい当たり前の事で、周りからは理解されない事なのかもしれないけど、ああやって素直にうん、って言えるのはすごい事だと思う。だって本当は言いたいけど言えない事なんだろ?」
「…優等生。偽善者」
大山は呟いた。
「って良く言われるでしょう?」
顔を上げた大山の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。でも笑っていた。
「直接は無いけど言われてるかも」
「なんてったって、生徒会長様だもんね」
「なんだそれ」
思わず吹き出す。
「アンタみたいな人初めてだよ。
親友だった子にもさ、気持ち悪いって軽蔑されて、虐められたんだ俺」
大山の涙はすっかりと止まっていて、昔の、前の学校の話をしてくれた。
余りにも残酷で、耳を塞ぎたくなった。
それでも大山は昔の事だから、と笑った。
「大山って強いな」
保健室へ案内する途中、大山に言った。
「…強くないよ。あ、ここが保健室?」
「うん」
「それじゃぁ、ここまで連れてきてくれてありがとう」
また後で、 そう言って大山と別れた。
“また”なんてあるのだろうか。
クラスに知られたという事は学校中、いや、街中に知られる可能性だって。
何も言わずに居なくなったりしてしまったら。
「はぁ」
木漏れ日 天津木 @Satou_kanmi
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