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 途中でガソリンとコーヒーを補給して、到着したのは六時半を少し過ぎた頃だった。真っ赤な太陽が、薄く雲が漂う空を橙に染め上げていた。

「もうすぐ九月だっていうのにやっぱり、まだまだ暑いわねぇ」

「そりゃそうだろ」

 パタパタと手うちわをしながら、車を降りて海沿いの歩道を歩いた。

 母は昔よりも少しだけ小さく見えた。

「運転、疲れなかった?」

「ん、まぁ」

 曖昧な相槌を打つ。疲れなかったわけはない。

「でもまさか、こんなとこまで来るとは思ってなかったでしょ?」

 楽しそうに笑ってみせた。

「当たり前だろ。どこまで来たと思ってるんだよ」

「えへへ」

 何が「えへへ」だ。年甲斐もない。だいたいドライブでこんなとこまで来るかよ。高速飛ばして三時間だぞ。想定の範囲外だ。

「いいじゃない、たまには。あんた全然帰ってこないんだもん」

 なにがいいのか良く分からなかったが、一息つくとどうでもよくなった。

 別にいいか。

「ったく。でも良く道を覚えてたよな。ナビを使わないでこんなとこまで案内するなんて」

「だってナビに入れたらどこに行くのか分かっちゃうじゃない」

 そんなの楽しくないでしょ、と笑った。母はこういう人だ。

「大体、ここってどこなんだ? 絶対ナビに入れたとしても、俺分かんなかったって」

 視線を海に向けると、当たり前だが海水浴に来た人は誰もおらず、シンとした景色があった。歩道の隣の車道にも、車は一台も通らなかった。

「そっか、分かんないわよね」

 いつの間にか前を歩いていた母がポツリと零した。

優陽ゆうひは小さかったもんね」

「え?」

 驚いて声を上げても、その声は小さかったのか母は何も言わず歩みを進めていた。

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