【三題噺】ゆうひ

カゲトモ

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「ねぇ、ドライブ、行かない?」

 昨日からずっと言いたかった言葉を口にできたのは、昼ご飯を食べてからだった。

「え? どうしたの急に」

 母は心底驚いたように目を丸くして訊いた。

「今までそんなこと言ったことなかったじゃない」

「いや、ま、まぁ」

 照れくささを隠すために冷たい麦茶を一気飲みした。

「何となくだよ、今日は何も予定ないし」

 新社会人で入社した職場はほどほどにホワイトだったが、ゴールデンウィークやシルバーウィーク、盆暮れ正月すら帰省したくないと思うほどクタクタになる仕事だった。まぁ、帰省を面倒くさがった自分が悪いのだけれど。

 今回はただ、会社の休みがカレンダーの休日からずれていたから、新幹線も空いているかと思って帰省しただけだった。カレンダー通りの休みなら絶対に帰って来ていない。

「そうなの、それじゃあちょっと待ってね。後片付け済ましちゃうから」

「ん」

 ガチャガチャと食器が擦れる音がする。何年も帰って来ていなかったからだろうか、家の中はとても懐かしく感じていた。


「ふふふ、あんたがドライブなんてねぇ。ちゃんと運転できるの?」

「っさいな、出来るって」

 教習所を卒業したの、いつだと思ってるんだ。俺だってそれなりに車転がしてるし、仕事でだって使うんだ。

 シートベルトをきっちり締めた母は、すっぽりとシートに収まっていた。

「母さんが知らないだけで、ちゃんと運転できるって」

「あら、そうなの?」

 そう言って小さく笑った。

「それは頼もしいわ」

 なんだか少し、照れくさかった。

「で、そ、そんでどこ行く? 俺、何も考えずに走ってるけど」

「え? どこに行くかは考えてなかったの?」

「考えてない」

 本当にノープランだった。ドライブに行こうと誘ってはみたものの、ここは地元。慣れ親しんだ町に連れて行ってやりたいような変わった場所なんてないのだ。だから行き当たりばったりでもいいし、母が行きたい場所でもいい。ドライブと称して、晩飯の買い出しに行ったっていい。

 ただ、母を隣に座らせて車を走らせてみたいだけだった。

「もう、そーゆーところは変わらないわね」

 母は呆れ半分に笑って「それじゃぁ、お母さんの行きたいところでもいいかしら」と楽し気に言った。

「ちょっと遠いけど、良いわよね?」

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