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ぼそぼそと布団の中で呟くと、頭を逆の方向へ向け声の主に背を向けた。
「何時だと思ってんのよ。アンタ新生活に向けて早起きするって言ってたじゃない」
「んん…」
確かにそう言ったけど…今はまだ大学生活も始まってないんだし、今日くらいいいじゃん。荷造りで疲れちゃったんだからさ。
なんて言い訳を口にすることもなく(眠くて口が動かなかっただけだが)、なんで勝手に入って来てんだクソババァと思いながら、固く閉ざした目蓋には少しも隙間を開けなかった。
「ちょっと聞いてんの」
それでも母親は気にせず、息子を起こそうとする。確かに感謝はしている。毎朝毎朝、オレを起こしてくれて感謝はしているし、起こしてくれるその言葉もちゃんと聞いてるけど、今はまだ起きたくない。だってまだ一週間も先だもん。いいじゃん。まだ大丈夫だって。
「もういい加減にしなさいよ。そんなんじゃ遅刻しちゃうわよ」
「…しない」
だって、まだ練習できる日はあるわけだし。オレだってやる時はやるし。いいから、また後で起こしに来てって。ね、お願いだからさ…
「ちょっと、アンタ――」
語尾が、ふにゃんと曲がったように聞こえて、再び眠りの世界の穴へ落ちて行った。
大丈夫だって、オレももう大学生なんだから――
「ほら、ちゃんと出来るし」
真新しい腕時計が光る左手首を見ながらドヤ顔で呟いた。オレだって出来るんだ。いつまでも子供じゃないんだから。
「あと五分したら家を出て、歩いてバス停まで行って乗って向かえば余裕で学校に着くし、むしろ予習だって教室で出来るし」
今日は大学に入学して講義三日目。まだまだ雰囲気も掴み切れていないが、キャンパスライフは楽しそうな気配で一杯だ。友達だってまだまだこれから作って行かなきゃだし、遅刻して目立つようなことは絶対したくないし。
「これで大丈夫」
玄関の鏡の前で前髪を直しながら靴を、トントンと整えていると
ジリリリリ、ジリリリリリ…
古めかしい電話の呼び出し音がポケットからバイブとともに聞こえてきた。電話の着信音はアラームと同じ音に設定してある。どうしてかというと、電話だったら急いで出ないといけないと言う心理が働いて、目覚ましのアラームに設定しておくとパッと目が覚めるからだ。
慣れた手つきでスマホを取り出して画面を見ると、
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