第142話 忘れ去られた者が吠える

 思わぬ話題に話が転び困惑している勇者対策委員会


「ジョージ王様が・・・、男色家!?」


「いやいや待て! 確かに身の回りの世話を女のみで固めた時から妙な噂は有ったが!」


「うかつな事を言いますと不敬罪に問われますぞ!」


 皆が混乱する中、1人貴族が発言する


「しかし…、勇者が召喚された際、彼は全裸だったとか」


「「・・・・」」


 しばらくの沈黙の後、貴族達は口を開き始めた


「あの勇者やる気はあるようだが…、王国を救う使命と王の性癖を優先した結果あの様な人間性が欠落した様な形で召喚されたのでは・・・」


「いやいや! 少なくとも魔物を棒で殴り殺せる程の力は持っているではないか」


「召喚された時点での腕力を計る都合がいい事例を挙げれば、45センチの高さの小振りの15キロの樽の中に少なく見積もって5キロ程の飛行タイプの魔物が入っていたと仮定して、少なくとも20キロの物体を投げられるだけの腕力はあったのは確実でしょうな」


「なんとも心もとない数字だな。農人の子供の方が力があるのではないか?」


「少なく見ての数字ゆえ何とも言えんが、勇者の筋力では無いな。他になにか隠された力が?」


「少なくとも結果だけは出してますからな・・・・。して、勇者も男色家と」


「いや、勇者はむしろそういうのを嫌っている節がある」


「それはつまり・・・、王はそう言う者を堕とすのが趣味だと」


「業が深いな・・・」


「「・・・・・・」」


 良からぬ噂により、ジョージ王のカリスマが15下がった。貴族達は会議を続けた


「勇者の対策と共に、王の跡取りの対策も並行して行うべきではないか?」


「そうだな、無理にでも見合いの席を設けてジョージ王様のお目に敵う女性を・・・」


「ジョージ王様の好みの女性・・・、誰か心当たりは?」


「ジョージ王様の好みの人物と言うと・・・」


 全員の頭の中に勇者の顔が浮かんだ


「あんな人間がもう一人居てたまるか!! と言うよりあんな女性ってなんだ!?」


 貴族の行き場のない怒りが爆発した


「まあまあ落ち着いて! 男の趣味と女の趣味が一致しているとは限りませんぞ!」


 あらぬ方向に話がヒートアップしそうになったその時


「ゴンゴンゴン!」


 扉が勢いよく叩かれてた


「何事だ!?」


「内部調査隊だ!王の署名入りの令状が有る!速やかに扉を開けられよ!」


 急な訪問者に一同は混乱した


「ひぃ! まさかもう王の手が!?」


「貴様が妙な勘繰りをするからだぞ!」


 混乱する中でも訪問者は声を荒げる


「さっさと開けろ! 逃亡者を匿っている様なら容赦しないぞ!」


「「え??」」


         ・

         ・

         ・

         ・


  別の時間、別の場所、一見平和な街の中に潜む、人に化け殺気をみなぎらせる一体の魔物がいた


「フフフ…、フハハハ!! っついに脱獄に成功したぞ!ドッペル様を舐めんじゃねえ! ヒャハハハハ!!」


 人気のない場所でドッペルが吠えていた


「たく!あのメイド共容赦なく拷問しやがって! しかもなんだ?定期的に神の祝福が来やがるし…、さてはあの神父の仕業だなクソッ! ションベンが聖水に変わる苦しみが分かるか?尿道結石なんて目じゃねえぞ!! ホーリーシットがマジでクソッタレだコノヤロォ!!!」


 ドッペルは反応が面白いという理由で神に愛されていた


「はぁはぁ…、あ~くそ、取りあえず町を出ねえと・・・・」


 ドッペルが街を歩いていると人だかりが出来ているのが目に入った。ドッペルは立ち止まり、演説の声を聞こうとした


「これより・・・ト・ピアースを・・・の領主と定め・・・・を…」


「くっ、離れててよく聞こえねぇな」


 ドッペルは人に紛れながらどうにか話を聞こうとしている


「・・・・移民の受け入れを・・・るので希望のあるものは・・・」


「移民だと!何処かの領地が解放されたのか!? 俺が豚箱に入っている間に何が・・・」


 ドッペルは ”まあいい、これで上手く外に出られれば逃げる算段が付くってもんよ” と思い受付に並んだ


「しかし凄い行列だな。貧困層の連中が博打紛いの賭けに出てるのかね? 城壁の外は今だに危険だろうに」


 少しづつではあるが、列が前へと進みドッペルが目にしたのは・・・


「次のかたぁ」


「あ」


 ・・・・面接している勇者の姿だった


「お前かよ・・・・」

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