第131話 勇者の食事事情

 エイブの料理屋で、これから食事というところでダメージを受けてしまった勇者


「ちょッ、大丈夫ですか勇者さん!?」


 そんな勇者を心配してゴードンは声をかけた。勇者は吐血した血を袖で拭きながら返事をする


「大丈夫です。今日は色々あってちょっと経験値が入っちゃっただけですから。さあ食べましょう」


「いや、回復魔法使った方が良いんじゃ・・・」


「目の前に回復アイテムがあるんですから、食べて回復すればいいでしょう」


「飯で回復って・・・、勇者さんがそれで良いなら構いませんけど」


 勇者達がそんな事をしていると奥から店員だ現れた


「なんか変な声が聞こえたが大丈夫で?」


「あ、大丈夫です、ご心配をかけてすみません。あの、このリンゴジュース僕には濃すぎるんで、何かで薄めてもらう事ってできますか?」


「炭酸で割りましょうか? 3ゴールドで」


「はい、お願いします。ゴールドしかないのでお釣りください」


 勇者は店員に3ゴールド払った。勇者はリンゴジュ-スを失った。勇者のリンゴジュースを取った店員はゴードンにも聞いた


「そんじゃ、ちょっとジュースをはいしゃくしますよっと。そちらのお客さんは?」


「自分はこのままで大丈夫です」


「そうですか。それじゃ、他にも注文がありましたら遠慮なく」


 そう言い残して店員は厨房へ消えていった。


「僕の飲み物が来る前に食べちゃいましょうか」


「そうですね、それじゃいただきます」


 勇者はアイスバインを食べた。よくい煮込まれた柔らかい肉質だ。勇者の自然治癒力が上がった。スタミナが少し上がった。


「この付け合わせのキャベツの漬物もいいですね」


 ゴードンはダガーで切ったパンでスープをすくい取りながら、ゆっくり食事している


「良い食べっぷりですね勇者さん。もぐもぐ・・・、う~ん、美味いけど嫁の味付けとは違うな、でもこれはこれで美味い・・・。新兵共には悪いが、やっぱまともな飯は最高だな」


「ムグムグ・・・、独特な食感だな小麦のピラフって。でも味がついてて、これだけでもいいかも」


 勇者はブルグルピラフを食べた。細かく刻まれた玉ねぎが入れられていて、バターで味付けされている。自然治癒力がさらに上がった


「うん、その二品はまだ国が豊かだったころに遠征中に出ましてね、自分もよく食いましたよ。懐かしいなあ」


「遠征中に? あ、塩漬け肉と小麦だから保存が利くんですね」


「ええ、今じゃあんなスープですが、前は遠征中でもまともな・・・、ッてっ勇者さん!?」


「ん? なんですかゴードンさん?」


 ゴードンは突然、驚きの声を上げた


「料理どうしたんですか!?」


 勇者の皿の上の料理は綺麗に消えている


「どうしたって、食べたんですけど?」


「もう食べ終わったんで!? せっかくですからゆっくり食べればいいんじゃ」


「え、勇者の食事時間としては、むしろ遅い位じゃないですか?」


「もっと味わえばいいのに・・・・」


「効果が得られれば、いいでしょ別に」


「食事は燃料と完全に割り切ってるのかこの人・・・」


 勇者は首をかしげながら、ナイフを舐めている


「ナイフ拭くものありませんか? 肉の脂が付いたまま鞘に仕舞ったらマズいでしょうし」


「ああ、このパンを使ってください」


 ゴードンは勇者にパンを一切れ渡した


「ありがとうございます、パンはナイフを拭くのにも使うんですね、覚えとこ。パク」


 勇者はパンでナイフの汚れをふき取り、ナイフを鞘に仕舞った。そしてその拭くのに使ったパンを食べた。そんな勇者を見てゴードンは独り言を言った


「何時でも戦える様に備える為とは言え、ここまで早く食う必要があるのか・・・」


 勇者はゴードンの呟きに反応した


「早く食べれると便利ですよ、特に戦闘中なんか・・・」


「戦闘中!?」


「ええ、何度モンスターの突進に食事を邪魔されたか」


「魔物の目の前で食う必要は無いでしょう!」


 勇者は平然と答えた


「だって事前に食事を済ませても、時間がたてばスタミナが減りますし、回復は必要でしょう」


「戦闘中に食べた物の効果がすぐ出るって、どれだけ丈夫な胃腸してるんです!? ネズミですか貴方は…」


「言われてみればそうですね。キノコ食べた後、身体が大きくなるぐらいですし」


「それ毒キノコの幻覚でそう見えてただけじゃ・・・」


「ああ、あのキノコの柄って有名な毒キノコらしいですからね」


「毒と分かっていて何故手を出したんです!?」


「毒とは分ってます、でも食べたら美味いかもしれないじゃないですか。それに毒で危なくなったらその場で回転して酔いを誘発して吐き出せば問題ありません」


 ゴードンは頭を抱えている


「そんな蘇生法が・・・、たしかにそれだったら炭はいらないですね。回転で毒が身体に回る危険に目をつぶれば」


 勇者は首をかしげた


「炭? 炭を何に使うんです?」


「炭を服用すると吐き気を催すのでそれを利用して吐き出すんです。炭が胃の中の成分を吸ってくれる効果もありますし」


「水の中に炭を入れると、炭が不純物を吸って水を綺麗にしてくれると聞きますが・・・、それを胃袋でやると」


「ええまあ、同じような理屈ですかね? しかし炭を多く取り過ぎると吐き気が止まらず脱水症状になりますから、あまりお勧めの方法ではありませんがね。・・・ところで勇者さん」


「はい、なんですかゴードンさん」


「アイスバインの骨はどうしたんです? 見当たりませんが・・・」


「イアゾアさんの話を聞いて、試しに食べてみました。いやぁ、頑張ればいけるもんですね」


「そうですか・・・」


 ゴードンの胃炎が悪化した。ゴードンはスープを食べながら少しホームシックになった

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