彼方は勇者ですか？「はい」

第130話 勇者の食文化交流

　ゴードンに案内されて、近所の飲食店にむかった勇者

「ここですか、エイブの料理屋って」

「もうちょっと良い店でもよかったんですが、あまり遠くに行くのは避けたかったので・・・・。しかし、ちょっと見ない間に少しさびれてるな。他の店にしますかい勇者さん？」

「いいえ。旅人が集うような雰囲気で良いお店じゃないですか、ここにしましょうよゴードンさん」

「そいつは良かった。じゃあ中に入りましょう」

　勇者達はエイブの料理屋に入ると、店員らしき男が勇者達に話しかけた

「いらっしゃい、適当な席に座ってくれ」

「はい」

　勇者達は適当な席につき、丸テーブルに置いてあったメニュー表を広げて二人で覗き込んだ。しばらくするとゴードンが口を開いた

「う～ん、俺はグヤーシュと黒パンにするかな」

「肉と野菜のスープ（グヤーシュ）ですか、何時もスープなんですからスープ以外のものを頼めばいいのに。美味しいんですか？」

「女房の得意料理で、しばらく家に帰って無いですから懐かしくなりましてね。それに最近どうも胃の調子がちょっと・・・・」

「そうだったんですか、お仕事大変なんですね。ゴードンさんお疲れ様です」

　ゴードンはお腹を押さえながら苦笑いした

「アハハ・・・、どうも。勇者さんは何にします？」

「うーん、翻訳スキルのお陰で大体どんな物かはわかるんですが、字だけだとイメージしづらくて。ちょっと待ってくれますか」

「ん？　ああそうか！　勇者さんこの世界でまともな料理は今回が初めてですかい」

「はい」

「よかったら俺が代わりに選びますよ。どんな物が食べたいんで？」

　勇者はしばらく考えた後、ジェスチャーしながら説明した

「うーん、そうですねぇ・・・。あればで良いんですが、骨付き肉あります？　こう、これくらいの肉の塊の両側から骨が飛び出したような」

　ゴードンはその料理に心当たりがある様だ

「ふむ、それに近い物だとアイスバインですかね。大きさもそれくらいで、豚のスネ肉を塩漬けにした物です」

　勇者は　”え、本物のマンガ肉を食べれれるの！？”　と思い喜びの声を上げた

「あるんですかそんな肉！　はいそれにします！」

「パンも付けますかい、普段はどんな物を食べてるんで？」

「よく食べるパンは食パンとロールパンですけど、できればお米を食べたいですね」

「米ですか・・・、この辺りじゃあまり流通してませんが・・・、やっぱありませんね。代わりに小麦なんてどうです、ブルグルピラフならありますが」

「小麦のピラフですか。食べたことは有りませんが、それにしてみます」

「よし、あと飲み物はビールにでもしますか」

　勇者はゴードンの言葉に少し驚いた

「昼間からお酒ですか。ゴードンさん真面目そうなのに、なんか意外です」

「ここの辺りじゃ珍しくありませんよ、生の水と違ってお腹壊しませんからね」

「アルコールと炭酸で殺菌してるんですか」

「ええ、他だと水をワインで割って出してる店も多いですね。野外に出る時に消毒用の蒸留酒を持ち歩く人も多いですよ」

「へぇー、この世界ではお酒は嗜好品と言うより実用品なんですね」

「勇者さんの故郷は飲み水が豊富だったんですか、それともお茶が主流なんで？」

「お恥ずかしながら、いつもジュースばかり飲んでましたね」

「ジュースですか、リンゴジュースがありますよ。少々値段が張りますが」

「じゃあ飲み物はそれにします。ゴードンさんもどうですか、酔っぱらったらマズいでしょう」

「水代わりのビールですから、そんなに強い酒じゃありませんよ。でもお言葉に甘えていただきます。他に頼みたいものは？」

「いいえ、とりあえずこれくらいで」

「よし、じゃ注文しちゃいますね勇者さん」

　ゴードンは店員を呼んで勇者の代わりに料理を注文した

「注文承りました。料金は先払いだよ」

「はい」

　勇者は86ゴールド支払った。しばらくすると――――

「へいおまち、ご注文はこれで全部ですね」

「はい」

「それじゃ、ごゆっくり。追加の注文もありましたら遠慮なく」

　料理がテーブルに並べられた

「おお、イメージと少し違ったけど、見事な骨付の肉の塊・・・、これがアイスバイン。あの小食恐竜のお肉が僕の目の前にッ」

　勇者は興奮している。ゴードンは冷静にツッコミを入れた

「いや豚のスネ肉ですって」

「上手に焼けますな！」

「煮込み料理ですよそれ！　もしかして焼いた方が良かったですか？」

「あるんですか、こんがり焼いたものも！」

「ええ、焼いたものはシュバインツハクセって言うんですけどね」

「おお！　次はそれ頼んでみます！」

「ええ、まあ喜んでくれてなによりです。取りあえず乾杯しますか」

「はい！　カンパーイ」

「「カーン」」

　勇者はゴードンと乾杯してリンゴジュースを飲んだ

「ごくごく・・・、む！？」

「どうしました勇者さん？」

「何となく予想してたけど、地味に温い」

「そうですか？　冷暗所に入れたあったのか冷えてる方だと思いますけど」

「そして予想以上に甘い！」

「そりゃあ砂糖が入って無いと保存が利きませんからね」

「砂糖って保存料だったの！？　甘いジュースって結構伝統的な物だったのかな・・・」

「もしかして搾りたてのジュースを期待してましたか？」

「いえ、そう言うわけではありませんが、僕がいつも飲んでたジュースより甘くてびっくりして。さて早速お肉で口直しを・・・あれ？」

　勇者はアイスバインを食べようとしたが、食器は木製のスプーンがあるだけだった

「勇者さんもしかしてナイフ忘れたんですか。よかったら俺のを使ってください、パン切るくらいならダガーで間に合いますんで」

　ゴードンはパンを切ったナイフを勇者に差し出した。勇者はそれを戸惑いながら受け取り質問した

「はい・・・、ありがとうございます。え、もしかしてナイフは持参する物なんですか！？」

「ええそうですが・・・。もしかして持ってなかったんですか」

　勇者が周りの他の客を見ると、ペンダントの様に首にかけた鞘に入ったナイフのを身に着けている客が何人か居た。勇者は困惑している

「まさか飲食店で食事用のアイテムが必要になるとは・・・」

「持っていないのならそのナイフあげますよ」

「いいんですか？」

「軍からの支給品ですし、気にしないでください」

「はい、ありがとうございます」

　勇者はゴードンからナイフの鞘も受け取った。勇者はレベル15になった

「ぐぶッ！」

　勇者は経験値に耐えきれず17ダメージを受けた