第127話 勇者の農場での思い出が崩れ去るようです

 真理達がまだ泉でペタランピシュームの戦っていた頃。地下闘技場の勇者達は


「今日はこれくらいにしましょうかな。ルビックさーん! 僕達もうかえりますねー!」


「ワン」


 勇者は向かいのセコンド席にいるルビックに手を振った。ポチィーも尻尾を振っている


「ふむ、もう終わりか。大分回収できた事だし、ここで良しとするべきか・・・」


 ルビックは勇者に手を振り返して安堵している。イアゾアは申し訳なさそうに勇者に言う


「ゴメン、親分。セッカクノ稼ギガ・・・」


 勇者のスロットで稼いだ金額は425万ゴールドがら8000ゴールドになっていた。しかし何でもない様に勇者は言った


「いいえ、いいんですよイアゾアさん。初戦からそんな大金が入ってもつまらないですし、ただの様子見ですから。いやー、KO負けすると寿命減るからと、すぐリセットする人も居ますが、やっぱり負けも含めてゲームは楽しみませんとね。次は勝ちに行きましょう」


「ワン!」


 勇者は様々な戦闘スタイルを見た事により見識が広がった。戦闘センスが8上がった。”調教師:初段”の称号を得た


「ウッ、確カニ、寿命、減ッタカモ・・・。シカシ、部下ヲ躊躇ナク、ボロ雑巾ノ様ニ使イナガラモ…、次ニ繋デル、ソノ姿勢は、流石デス親分!」


 イアゾアの忠誠度が上がった


「さて、チップを換金しに行きましょうか」


「ワンワン!」


 勇者は受付に行き、スキル探知の腕輪を返し、チップを受付にわした。受付は勇者に軽い質問をする


「確かにお預かりしました。換金は銀行振り込みですか?」


「いいえ、口座を持っていないので現金でお願いします」


「ご存知だと思いますが、ただいまミスリル硬貨の受け渡しに規制がかかっており、ゴールドでの換金になってしまいますが、よろしいのですか?」


「ミスリル硬貨? それってゴールドより高いんですか?」


「はい、ゴールドより軽量で価値が有り、国外逃亡の資金に利用されるのを防止する為、ただいまミスリルを使った取引に一部規制が入っております」


「そうなんですか。じゃあゴールドで」


「かしこまりました。サービスで袋もお付けできますがどうされますか」


「あ、袋もください」


「わかりました、少々お待ちください」


 しばらくして、受付が積み上げた金貨を乗せたトレーを運んできた


「8000ゴールドになります、ご確認を」


「はい」


「では袋に詰めさせていただきます・・・」


 受付は金貨を袋に入れた


「どうぞ」


「はい、ありがとうございますッ」


 勇者は金貨の入った袋を手に入れた


「けっこう重いな。お金は重量無視して、いくらでも運べる物じゃ?」


「え、そんなわけないでしょう」


 受付は勇者の言葉に困惑した。イアゾアが勇者に声をかけた


「親分、俺ガ持トウカ?」


「いいんですか?」


「ハイ。力ツイタシ」


「そうですか。ではお願いします」


 勇者は金貨の入った袋をイアゾアに預けた。すると、どこからかルビックが現れ、勇者に話しかけてきた


「勇者様、スロットではよくご健闘されておりましたが、今回の試合はざんねんでしたな。ハハハ」


「あ、ルビックさん、楽しい試合でした。僕達もう帰ります」


「そうなのですか。サロンでゆっくりしていかれればいいのに」


「いいえ、帰ってやりたい事が有るので、また次お願いしますね」


「ええ、何時でもお越しください」


 ルビックは ”二度と来るな” と心の中で思いながら勇者を見送った。そして外に出た勇者は


「さて、これから教会でセーブした後にイアゾアさんの疲労解消の為・・・」


「肉!肉カ!?」


「いいえ、オイル買いましょう」


「オイル!? 何デ、アブラ?」


「え、疲労軽減効果ないんですか?」


「ソンナノ、塗レテモ・・・」


「いえ、食べるんですよ」


「食ベル!? 栄養ハ取レソウダケド・・・、ドコデ買ウ?」


「それはやっぱり、あそこでしょう」


 勇者達は教会に言った後・・・・


「やっぱりアイテムならココ、道具屋です」


 勇者達は道具屋に来ていた。店主は怒りの声を上げる


「なんで食用油を買いにウチに来るんだよ! しかも魔物の疲労軽減目的って、そう言った特殊なもんは専門店に行け!」


「オイルの専門店なんてあるんですね」


「油だけで何種類あると思ってんだ。工業用、食用、アロマ等の嗜好品、細分化して数え上げたらきりがねえぞ」


「それじゃあ、ここには置いてないんすか?」


「武器の手入れや食用にも一応は使える万能油しかないな。疲労が軽減できるような油はウチにはない」


「う~ん、そうか・・・。じゃあビタミンの様な物をください。ストレスの軽減に使いたいので」


 道具屋の店主は怪訝な顔をして言った


「旅の携行用の栄養剤なら確かにあるが・・・、なんかおかしくないか?」


「何がです?」


「アロマオイルでストレス下げて、栄養剤で疲れを取るならわかるが…。油で疲れ取って、栄養剤でストレス取るって効果が逆じゃないか?」


「はッ!!!言われてみれば!!!」


 勇者は強く動揺した


「そんな・・・、クリーチャー農場2のアイテムの説明は誤植!? いや、ちゃんと効果あったし・・・。栄養剤は食べ物枠だったから仕方がないですよね」


「栄養剤が食事って・・・・、ちゃんと飯食わないと身体に悪いぞ?」


 勇者は懐かしむ様に言った


「世の中にはテーブルいっぱいの食材を用意されるのにもかかわらず、毎回チーズと芋焼酎で食事を済ませて狩りに行く猟師を居ますし、それよりはましでしょう」


「どんだけ飲んだくれの猟師なんだよ」


「それが一番、体力とスタミナがつくんです」


「酔っ払いのくだらない戯言を信じるな。アルコールで胃が荒れて食欲が無いだけだぞきっと」


「でも狩場では支給された携帯食料と、自分で焼いたお肉を食べますよ」


「だったら食堂でちゃんと食っとけよ・・・」


「それはまだ良い方でしょう。冒険なんて基本的にはイベントで食事があるか、回復アイテムを使う時以外に基本的に食事しませんし・・・・」


 勇者の言葉に道具屋の店主は動揺した


「まてまて! まさかお前もそうしてんるんじゃないだろうな? 今朝から少し顔色が悪いぞ」


「そんな事ないですよ。ゴードンさんにも食事については注意してもらいましたし・・・・。あ、でも今日はカジノのサンドウィッチしか食べてませんね。ははは、楽しくなるとつい食事忘れちゃうですよね」


「調子悪いなら、ちゃんと飯食って休んでろよ! 飯食え、飯ぃ!」


 道具屋の店主の ”どうせない言っても聞かないよな” っと思いながらも放った叫びが、虚しく店に響くのだった

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