第126話 勇者よ、目覚めなさい

 何もない空間を漂う精神体、そこに一筋の光が差し込んだ


「勇者よ…勇者よ・・・、聞こえますか」


「んッ、なんだ・・・?」


「目覚めましたか勇者よ! 混乱しているのですか?私は大妖精スプラ! 貴方の活躍は魔剣の波動を通して、なんとな~く察していましたよ!」


「な、なんとなく?」


「しかーし! 強敵との戦闘で力尽きてしまったようですね。魔剣に魔力をぶつけて自爆するとは何たる献身!このスプラ感動しましたよ!」


「そうか、俺もついに潮時か・・・」


「フフン♪心配ご無用です! 今魔剣の力で倒れた貴方をお助け致しましょう!」


「本当か!」


「ええ、これぞ魔剣スコールの隠されし能力! その気になれば植物以外の生命にも干渉できるのです! さあ!さっさと目覚めてスコールの伝説を作り・・・」


「ちょっと待て。さっき俺の事を勇者と呼んでなかったか?」


「ええ、そうですけど・・・・。まさか、また別の人間!?」


「いや、魔物だが?」


 スプラはボランの言葉に混乱し固まったが、しばらくして戸惑いながらも口を開いた


「え、えっと・・・、なんで魔物からも勇者の気配がするんです? 何度もやり合った宿敵とか?」


「いや、ユートは俺達ハイエナのボスだ」


「その勇者は人間なんですよね!?」


「見た目はそうだな、でもアンデットだろあれは。試しに棺桶をベットとして用意したら躊躇ちゅうちょなく使ってたようだしよ」


「な!? 勇者ユート…、女神は一体どんな勇者を選んだと言うのです」


 ボランは戸惑うスプラに尋ねた


「おう、銀バエの大将。俺を生き返らせる話はどうなった?」


「貴方のが勇者でないのなら話は別です。そのまま野垂れ死んでください」


 スプラの素っ気ない返事にボランは応えた


「ほう…、そうかいって、こっから逝こうってヤツの邪魔してタダで帰れると思うなよ!」


「そんな横暴な・・・」


「やかましい! なんか腹立つから一発殴らせろ!」


 ボランの攻撃! 拳がスプラに届こうとしたその時!


「バシン!」

   「んっが! なんで・・・」


 しぶといハイエナに拳が命中した。14ダメージを受け、しぶといハイエナは気絶した


「ん?ああ? どうなってんだ?」


 突然の状況の変化にボランは混乱した。そんなボランに真理は話しかけた


「いやぁ、死んだかと思ったんだけど生きててよかったわ。回復魔法かけた後にうなされてたけど大丈夫ぅ?」


 ボランは状況を理解し、真理に話しかけた


「そうか…、あの魚野郎の爆発に巻き込まれてちまったんだったな・・・。うう、変な夢見ちまったぜ」


「お迎えでも来たの?」


「そんな感じだった気がする・・・、よく覚えてねぇが」


「そう。なんか嫌そうな顔してたし、ろくなお迎えじゃなかったんでしょうね」


「きっとそうだったが、なんかベクトルの違うモンが現れた気が・・・」


「それはそうと、もう抜いていいそれ?」


「あ?」


 ボランの身体に魔剣が刺さっていた


「なんじゃこりゃ!? ってささと抜けこんなもん!」


「わかったわ♪ トーマス、お願い」


「了解! 一気にいくぞ」


 トーマスはボランの身体から一気に魔剣を引き抜いた


「ジュボッ」


「痛って!」


 ボランは1ダメージ受けた。真理は立ち上がって指令を出す


「よし、じゃあダンジョンの攻略に向かいますか。あの亀の話だとこの先に入口があるみたいだし」


「さっさと戻りましょう。先に帰らせたアッシュが心配だ」


 トーマスの言葉に真理は悶えながら言った┌(┌^o^)┐


「ぐふふ、そうよね♪ 帰ったら2人っきりで看病できる場所を確保させるわ」


「いえ、そこまでしてくれなくても・・・」


「いいじゃない、今回頑張ったご褒美にぃ♪」


「え、えっと…、まあ魔物の中で寝るより、アイツも個室の中で療養してもらった方が安心できる・・・のか?」


「決まりね! 帰ったら直ぐ用意させましょう! 三食昼寝、覗き穴付きで!」


「覗き穴!?」


「しまった!つい本音が…┌(┌^o^)┐じゅるり」


「あ、いや、病室なんだから中の様子を確認できるようにするのは当然ですよね。変な言い方しないでくださいよマリー隊長」


 トーマスは真理の言う事を運よく理解できなかった。ボランは立ち上がり、真理に言った


「俺はもう大丈夫だ、くっちゃべってないで行こうぜ」


「あ、ごめん。じゅる・・・。じゃあみんな出発よー」


「「御意」」


 真理は口元のよだれを拭いて、ハイエナ達を引き連れ出発した


          ・

          ・

          ・


「ここね、上手くカモフラージュしてるけど」


 真理はダンジョンの入口を被っていた大きな軽石を退かして中に入った


「おじゃましまーす♪」


「・・・・・」


 真理の呼びかけに返事はなかった


「居ないの~? 返事しなさい!」


「・・・・・」


 再び呼びかけたが返事は無い


「いい加減にしないと毒ガス流し込むわよ亀公! どこまで息を止められるか試してみるぅ?」


「まっ、待ってくれ! 子供も居るんだ!」


 真理の言葉を聞いて、奥から亀型のモンスター達が現れた


「来た来た。さ~て、ウチのバカのせいで連れてきた亀とはぐれちゃったったんだけど、もしかしてここに来てたりしない?」


「じゃあ何の用かはわかってるわね? 話聞いてるでしょ」


「は、はい! 我らババル一家一同!ユートさまの傘下に加わります!」


 亀達は跪いた。真理は満足そうに微笑む


「よろしい。で、さっそくで悪いんだけど、このダンジョン大改装するから外に出ててもらえる」


「大改装…ですか?」


 真理は不敵に笑って囁いた


「さっきの魚を倒して手に入れた紋章の力、試してみたくって疼いちゃってるのよねぇ・・・・」

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