第120話 あなたは勇者ですか? 「へい?」

 泉での戦闘により吹き飛ばされてしまったアッシュ


「うわあ!? っと!!」


 アッシュは地面に叩きつけられながらも受け身をしてダメージを軽減した。


「うっと!」


 アッシュは1ダメージ受けた。受け身のさい、剣を放してしまった


「ああ、クソ。剣が!!」


 剣を追いかけて行くと見覚えが無い洞穴を見つけた。剣はその中を音を立てながら落ちて行った


「カンッカッ・・・」


「ああクソクソ!!剣が!! 諦めて仲間と合流するか?」


 アッシュは遠くから聞こえる戦闘音を頼りに戻る事を考えたが、仲間の陣地に戻れるとは限らず、敵のど真ん中に出てしまう危険を考えて思いとどまった


「せめて太陽でも見れれば方角は分かるんだが」


 森の木々は背が高く、太陽光があまり届かず太陽から方角を知るのは困難で南の街に向かう事も難しいと判断したアッシュは


「・・・・どうにか下りれそうか、ちゃんとした武器も必要だし、洞穴でやり過ごすしかないか」


 アッシュはデコボコした岩壁を足場にしながら洞穴を潜って行った


「けっこう深いな、どこまで落ちたんだよ剣・・・。あれ?」


 アッシュは岩壁を降りてる途中で横穴を発見し、首をかしげた


「日の光が届いてないのに妙に明るい・・・魔物のダンジョンか?」


 見るからに怪しいものを発見し、アッシュの頭にプランが三つ上がった




A.敵の可能性大、早急に撤退し他の隠れる場所を探す


B.現在この近くに魔物が集まって戦闘中。加えて見張りの気配もない。よってダンジョンが留守の可能性大、中を探索し装備を探す


C.穴の外も敵がいっぱい、この横穴の中にも敵が潜んでる可能性が大きい。よって横穴には入らずこの洞穴で暗くなるまでやり過ごす




「もしこの横穴に魔物が居て俺に気付かないフリをしていたら、上に戻る時に背中をやられる。隠れるながら行動するために暗くなるのを待つにしても、俺はまだそう言った訓練はしていないし自信もない。・・・・イチかバチか入ってやるか!」


 アッシュはプランBを選択た。横穴に入り坂道を下って行く


「わずかだが魔力の流れを感じる・・・属性は地と風か。魔法で岩石をわずかに発光させ風を操り空気を入れ替えてる・・・?」


 アッシュは壁に手を触れて武器屋時代に習得したスキル ”魔力判定” を使用し分析した。本来は客の性質を分析する為に使用する


「魔力の流れから術者の位置を特定するのは無理か。見なきゃいけない範囲が広すぎる。・・・んッ?」


 奥に明らかに明るくなってる場所を見つけた


「この洞窟の主の住処か・・・。どれどれ…っ!?」


 アッシュが壁に隠れながら中の様子を見るとそこには


「あはは」

    「うふふふ」


 アッシュは笑いながら飛ぶ複数の物体を見て ”発光する大きなトンボ?・・・いや妖精か!? 奥に誰かいるな?” と思った直後に奥に居た人物が言った


「隠れなくてもいいですよ。安心して出て来なさい」


「ッ!?」


 アッシュは言われるがまま隠れるのを止め、その人物に話しかけた


「何者なんだ、アンタは?」


「この土地が穢れてからずっと待っていました・・・」


 そして謎の人物はゆっくりと振り向いてこう言った


「よくぞまいられた・・・・勇者よ!」


 アッシュは即答した


「違いますよ」


 謎の人物はそのまま語り出した


「ふふ、隠す必要はありません。ここは知覚制御の結界が張られていて普通の人間では見つけることは出来ないのですよ!」


 アッシュは即答する


「たぶん吹き飛ばされたから知覚とか関係なく結界内に入っちゃったんだと・・・」


「ふっ、私を試しても無駄です! アナタからは微かにこの世界でない者の気配が!」


「それたぶん・・・、勇者さんから借りたこの棒と鍋の蓋からしてるんじゃ・・・」


「え?」


「これですけど」


 アッシュは棒と鍋の蓋を謎の人物に近づけた、すると謎の人物はまじまじとそれを見て


「確かにそのガラクタから気配がしますね・・・。本当に勇者ではないのですか?」


「へい」


「・・・・・」


 アッシュの答えを聞いて謎の人物はしばらく沈黙し、こう言った


「もう勇者って事にしちゃいましょう!」


「いやダメでしょそんなの! 何なら本人に言ってきますから、ここでしばらく待っていてください!」


「そ、そうですか? じゃあお願いします」


 アッシュの言葉を聞いてしどろもどろになり目を泳がす謎の人物を見て ”面倒くさい” と判断し、アッシュは軽く挨拶して帰ろうとした


「へい・・・。じゃあオレは失礼します。あ、勝手にお宅にお邪魔してすみません」


「いえいえ、お気になさらず」


 そしてアッシュが背中を見せると


「・・・・あ! 待ちなさい!」


「今度は何だ!?」


 謎の人物に呼び止められた


「偶然とはいえ、ここまで無事にたどり着いたのですから。そのような英雄に記念の贈り物をしたいのです」


「そんな、いいですよ」


「まあまあ、そうおっしゃらず。貴方、ここに剣を落しませんでしたか?」


 謎の人物の言葉を聞いて、アッシュはここに入り込んだ理由を思い出し答えた


「へい!そうです!」


「それでは・・・よいしょっと」


 謎の人物はいくつか剣の様な物を取り出してアッシュに質問した


「あなたが落としたのはこの金の剣ですか?」


「いいえ? 誰が落としたんだそんなの」


「ではこの銀の剣?」


「いいえ、違います。対アンデット用・・・じゃないよな。祝福されてないし、その剣」


「ではこの爬虫類のはらわたから取り出したような生臭い鉄の剣?」


「へい!それです! 間違いありません!」


 アッシュの答えを聞いて謎の人物はこう言った


「貴方は正直な人間ですね。褒美にこの金の剣をあげましょう」


「あ、どうも・・・」


 アッシュは流れに任せて金の剣を受け取ってしまった。が、次の謎の人物の言葉に正気に戻る


「じゃあこの汚物は捨てちゃいますね。妖精にとって鉄など汚らわしいし更に臭いとかホントあり得ませんから・・・」


「ちょっと待てぇーーー!!」


 アッシュは謎の人物に組み付いた


「な、なんです!?」


「金の剣なんていらんわ! お前は穴倉の中で知らないだろうが外は魔物だらけなんだぞ!」


 謎の人物は必死に抵抗し、言った


「ならそれ売って、良い武器を買えば良いじゃないですか!」


「バカか! こんな目立つ上にクソ重いのかついで街まで戻れるか! 13.7キロはあるぞこの剣!! 造りも雑だ!元職人としても許せん!!! この金のハリボテなんぞ本気でいらんわ!」


「ひどい!がんばって作ったのに! それに小数点以下まで重量言い当てるとか細か!? 良いじゃないですか様式美なんですから、一度やってみたかったんですよ!」


「これって異世界伝来のおとぎ話だろ! その世界じゃ金は貴重かもしれないが、この世界じゃアンデット軍団が荒らしまわった時に、銀が金の価値を上回るほどの価値しかないわ!」


「じゃあ銀にします?」


「銀のハリボテもいらん! まともなボロくても武器をよこせ!!」


 そして二人はしばらく言い争ったのだった

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