第112話 ところでヤツはどこに?

 ルビックに勧められた高難易度スロットマシンをプレイし、久しぶりのゲームマシンと言う事も有り勇者は熱中してしまい・・・・


「うっ…うぷっ・・・徹夜で携帯ゲーム機をプレイした後にVRを夕方までぶっ続けでやった後より気持ち悪い・・・」


 勇者は倒れ、ソファーで介抱されていた


「勇者さま・・・、チップの数が多いので一度こちらで責任をもって預からさていただきます。よろしいですね?」


「はい」


 ルビックは死んだ魚のような目で勇者を見つめて ”大損害だ、見物人が多すぎて後に引けんし・・・。ここからどう搾り取って損害を抑えるか…。この様子ではまたゲームしてくれる訳がないし、次来た時までにどうにか対策を練るか” と思いながらそう言った


「ウィンウィン…」


 勇者に遊びつかされたチップを無くしたスロットマシンは白旗をパタパタと振っている。そのスロットの様子を見て周りのギャラリーが騒ぎも落ち着いてきていた


「あのスロットって全部吐き出すとああなるんだな」


「おーい、なんか奢ってくれよ兄ちゃん」


 ルビックはその声に反応し勇者に提案した


「勇者様、勝利の記念に皆様に応援してくださったギャラリーの方々に一杯振る舞われたらどうでしょうか?」


 そのルビックの話にギャラリーの1人がヤジを飛ばした


「俺達の事を邪魔だって言って無かったかぁ?」


「「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」」


 ギャラリーの笑いの声にルビックは ”黙ってろ愚民どもが” と思いながらも少し引きつった笑顔で勇者に聞いた


「いかがなさいますか?」


「はい、いいですよ。映画とかで良くあるシュチュエーションですし」


 勇者の答えにギャラリーは賑わった


「お、マジでいいのか?」


「有難くいただくよ!」


「ところで勇者って何だ?あだ名か?」


「何でもいいじゃないか。勇者様に乾杯!」



 酒が振る舞われ、平民達の勇者に対する好感度が上がった



「よし・・・」


 ルビックは ”これで少しは金を回収できるか” と考えていると、勇者が語り掛けて来た


「あのルビックさん、僕にも何か飲み物と、適当な食べ物はありませんか?」


「食べ物ですか? 一応ありますが…当店はカジノですので味は保証しませんよ」


「何でもいいです。とりあえず体力を回復させたいので・・・」


「わかりました。おい、この方にサンドウィッチと紅茶を」


 勇者の前にサンドウィッチセットが運ばれてきた


「お待たせしました」


「どうも。ではいただきます」


 勇者はカジノ店員からサンドウィッチを受け取り口に運ぶ


「パクッ、もぐもぐ・・・ぐふ!?!?」


 勇者は精神にダメージ受けた


「おい!あの兄さんの様子がおかしいぞ!」


「毒盛ったんじゃないだろうな!?」


 ギャラリーは勇者の様子を見て怒り、現場は混乱した。勇者はその騒ぎに反応し直ぐに訂正した


「だ、だいじょうぶですッ…! ただ想像以上に不味かったので」


「「あ~」」


 ギャラリーは勇者の言葉に納得したようだった。勇者はルビックに謝罪する


「すみません失礼な事してしまって。えっと、その、素材の味が生かされ過ぎと言うか何と言うか・・・・。この世界にはマーガリンはないんですか?」


 ルビックは笑って答えた


「はははは。カジノの食事は初めてですか? カジノの食事は毒を混入される危険を警戒するお客様に配慮して調味料は使わないのですよ」


「毒物対策で味付け無し!? そう言えばサンドウィッチってポーカー中に食べる物だったんでしたっけ・・・・。お金が絡むと確かに毒くらい盛ってくるでしょうね」


「はいその通りです。ですから胡椒などの調味料を持参している方が多いですよ」


 勇者はしみじみとしながら語り始めた


「味が無いのが本来のサンドウィッチなんですね・・・・。弱った少女がサンドウィッチを食べて数日後に衰弱死したのも納得です。パンケーキ食べたがるはずだ」


「サンドウィッチで少女が衰弱死!? そんな事聞いたことありませんよ!」


「よっぽど酷い生活をおくってたそうですからサンドウィッチでも致命傷になったんでしょう。後に改善された様ですが」


 ルビックは ”何だその与太話。一応は悲劇なのか?” と思いながらも悲しむふりをして対応する事にした


「その少女も、せめて医者に診てもらえればそんな事にならなかったでしょうね・・・」


「いえ、そのサンドウィッチを食べさせたのが町医者です」


 ルビックは勇者の答えに思わず本心で話してしまった


「だったら療養食でも食べさせろよヤブ医者が!」


「ですよね、僕もそう思います。あんな酷い傷跡あったのに診察すらしないのはどう考えても・・・」


 ルビックは ”この勇者の言葉にまともに対応しちゃだめだ” とこもちを改めた。勇者はマズそうに口にふくんだサンドウィッチを飲み込むと紅茶を飲もうとした


「あれ、紅茶にはミルクが付いてるんですね」


「青酸系の毒物はミルクに反応しますから、その毒見用です…」


「へぇ~そうなんですか。ちなみにどう反応するんです?」


「紅茶に入れた時にミルクが粒状に散る様に広がるんですよ。ミルクの油分が固まってしまうからだとか」


「なるほど、役に立ちそうな話ですね。ありがとうございます。ゴクゴク・・・モグモグ…」


 勇者はサンドイッチを食べながら辺りをキョロキョロと見渡した。ルビックはそんな勇者の様子を不審に思い質問した


「どうかされましたか?」


「いいえ、僕の連れの姿が見当たらなくてさっきから見当たらなくて。その辺に居ると思うんですが」


「お連れの方が?」


「はい、ハイエナ型の魔物とこれくらいの大きさの犬なんですが・・・・」


 勇者の言葉にギャラリーの1人が反応した


「ソイツってあのカタゴトの奴かな?」


「多分その人?です。今どこに居ますか?」


 勇者の言葉にギャラリーは答える


「さっき大負けして闘技場送りにされたよ。そう言えば地下がさっきから騒がしいな・・・」


 耳をすますとどこからか歓声のような声が聞こえる


「闘技場・・・どこなんですかルビックさん。・・・ルビックさん?」

 

 ルビックの耳に勇者の声は届かず、じっと歓声のような声に耳をすましていた。そして突然立ち上がって叫んだ


「しまった!勇者は囮か!?」


「え?」

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