第109話 回る回る

 小銭を稼ぐためカジノに来た勇者達。彼らの前にカジノのオーナー、ルビックが現れた


「よろしければ、わたくしがご案内しましょうか」


「はい。じゃあ、あのスロットの使い方を教えてもらえますか?」


 ルビックは ”警戒して対人戦を避け、機械を選んだか。こちらの出方をうかがう気つもりか?” と警戒しながら勇者を案内した


「ええ、ではまずあちらの受付でゴールドをチップに変えて、腕輪をお付けください」


「腕輪?」


「カジノ内ではスキルや魔法の使用は禁止しています。フェアではありませんからねぇ。ですからスキル使用を判別できる腕輪を着用を義務付けているのですよ」


「なるほど。じゃあ行ってきますね」


 勇者は強面の受付のもとに行きゴールドを交換した


「いくら分欲しい?」


「取りあえず100ゴールド分お願いします」


「はいよ、楽しいんで行きな。あ」


 受付はルビックと目が合い話しかけた


「オーナーお疲れ様です。会議はもう終わったんで?」


「会議?何の事かな?ハハハ・・・」


 ルビックは ”余計な事を言うな馬鹿者!” と焦ったが勇者は全く気にしていなかった


「これが腕輪か。ルビックさーん、ここにチップを入れればいいんですか?」


 ルビックはスロットの前で嬉しそうに座る勇者の様子を見て ”子供か” と思いながら説明した


「はいそうです、そこに決められて額のチップを入れてから、横のレバーを下げてください」


「10って書いてあるから10ゴールドか。えい」


 勇者は固いレバーを下まで引くと


「ガシャン」


 スロットの中のバネが外れる様な気配がして、スロットは勢いよく回り出し手を離したレバーはゆっくりと元の位置に戻る


「意外とアナログだな、電動じゃないとは思ったけど・・・」


「7秒の制限時間がありますから、急いでボタンを押してください」


「先に言ってくださいよそれ!横のメータが制限時間かッ!」


「タンタンッタン!」


 勇者は急いでスロットの下の三つのボタンを押して絵を揃えた


「ジャララ…」


 するとスロットからチップが5枚吐き出された


「ふう、間に合った。酷いですよ」


「はは、ちょっとからかってみただけですよ」


 ルビックは ”ちっ、外せばいいものを” と心の中で思いながら笑って答える


「よし、じゃあ次」

 

 勇者は何事無かったように再びスロットをにチップを入れてプレイしようとしたところをルビックに呼び止められた


「ああ、その台は5枚までチップを入れられますよ」


「そうなんですか。でもしばらく機械の調子みたいで1枚にします」


「流石に警戒したか・・・」


「ん?ルビックさん何か言いました?」


「いえ!なにも言ってませんよ!」


「そうですか」


「ガシャン」


 勇者がスロットを始めたのを見てルビックはホッとして ”コイツに全く緊張感が無いから油断してしまった。気を付けなければ” と考えながらボーとしていると


「ジャラララ・・・」


 勇者はまた絵柄をそろえてチップを出した


「また当たりですか、お上手ですね」


「はい、慣れてますから」


 それからも勇者はスロットマシンよりも機械らしくひたすら回して・・・


「ジャララ」


 チップを吐き出させる


「ジャラ」


 出す


「ジャララ」


 出す!


「ジャラララ」


 スロットは吐き出す!!


「ジャッララララッ」


「ふう、これぐらいでいいか。景品と交換しよう」


 勇者が席を立とうとした時にルビックは流石に突っ込んだ


「待てぇい!」


「なんです?」


「なんですっておま…、なんで当たりばかり出るんだ!運が特別高いのか!?」


 勇者は苦笑いして答えた


「僕の運が良かったら今頃こうなってませんよ・・・。スロットはやり慣れてるだけです」


「慣れてる?」


「ええ…。あの国民的ゲームのポシェモン赤緑で、限定アイテムと金欲しさにひたすらスロットを回し続けましたからね。アレは地獄でしたよ」


「聞いたこと無いゲームで、どういった経緯でそうなったか予想できませんが・・・。働けよ」


 カジノのオーナーにもかかわらず、ルビックはそんな事を思わず勇者に言ってしまった。勇者は苦笑いしながら答える


「いやー、僕も初めは対戦者からお金を巻き上げてたんですが、狩り尽して資金源がなくなってしまって、渋々やってたんですよ」


「対戦者から巻き上げ狩り尽した!? そんな事やっていれば誰も近づかなくなるわ!」


 ルビックの言葉に勇者は何でもない様に答えた


「そんな僕が悪者みたいに。こう、襲い掛かってきそうな相手の視界の前を通り過ぎて、対戦して来た相手を返り討ちにしてただけですよ」


「自分から誘ってるじゃないか! 自ら狩ってるも同じだろ!」


「ハハ、そう言われればそうですね」


 ルビックは ”なるほど、コイツの無害そうな外見が相手を油断させる武器か。まんまとやられた!” と思い拳を握り締めてると


「じゃあ、僕はこれで失礼しま・・・」


「お待ちください! こちらにもっと高レートのゲームに挑戦できる台があります! ぜひそちらを!!」


 ルビックは帰ろうとする勇者の前に立ちふさがった


「いいえ、もう帰りた・・・」


「ぜひ!」


「いいえ・・・」


「ぜひ!!」


「いいえ」


「ぜひぃ!!!」


「はい」


 勇者はルビックの提案を受け入れてしまった


「ありがとうございます。ではこちらへ」


 ルビックは歩きながら思考する ”真のギャンブラーは負け上手、相手をゲームに引きずり込み勝負させる手腕に長けているもの、だが私はまだコイツの勝ちしか見ていない。ここでさらけ出してもらうぞ、キサマの本性を! 刈り取るのはそれからだ” 

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