第107話 武器屋、勇者のえじきになる

 銅剣の調整の為、武器屋に立ち寄った勇者達。勇者は道具屋の店主が去った後、親方に話しかけた


「親方さん、道具屋さんとお知り合いだったんですね」


「おう、ちょっと素材が足らないって時によく利用してたんだよ。普段は専門の業者から仕入れてるがな」


「へー・・・。ハイエナさんさっきから何を悩んでいるんです?」


 勇者は何やら悩んでいるハイエナに話しかけた。ハイエナは気まずそうに勇者に聞いた


「ウーン・・・オレも瀕死の時に、親分ニ叩カレタラ、立チ上ガレルカナ?」


「きっと大丈夫ですよ。逆に僕が危なくなった時はお願いします」


「ハイ!親分ト、ソンナ強イ信頼関係ヲキズケルヨウ、ガンバル」


 元気に返事をするハイエナに親方は不安そうに言った


「コイツの言う事をあんま真に受けない方が良いと思うぞ」


「ところで親方さん、何かお金になるクエストはありませんか?パーティが急に大きくなってしまって」


 親方は目が点になっている・・・そして口を開いた


「金?さっきの銅剣売って普通の剣を買ったらどうだ?どっから手に入れたもんだか知らないが言い値で買い取るぞ」


「いいえ、それは出来ません。初心の勇者の必需品ですし、北の森の領主になった記念に王様から貰ったものですから」


「えっ…あ、うん・・・・。今なんつった!?」


 親方は混乱している


「ですから王様にもらいました」


「そっちもそうだがそうじゃない!領主って事は貴族か!?」


「はい、昨日なりました」


「昨日って・・・新たに貴族が増えたんなら国から発表があるはずだぞ。式典は今日か!?」


「いいえ。数日中に部隊を再編成して森に送るとかで、その時発表するとシンシアさんが」


 親方は口ひげを撫でながら考え込んでしまった


「ここれは狂言か?・・・・いや、シンシアの名前を知っているし・・・・。お前、勇者って自称じゃなくて本物か!?」


「はい、そうですよ」


「じゃあ、国からもっと上等な装備をもらえるはずだろ!ウチで買う事はなかろうではないでありましょうか!?」


 混乱する親方を勇者はなだめた


「親方さんいつもの口調で良いですよ、敬語を無理に使おうとしてなんか色々おかしくなってるし」


「あ、うん、すまん」


 冷静になった親方に勇者は更に言い放った


「それに王様がそんな初めから銅剣より良い装備をくれるわけないじゃないですか。王様って言うのは勇者に初期装備と小銭わたして魔王倒してこい!と言ってエンディングまで玉座にふんぞり返っている者だと決まっています」


「そんな王様居るわけないだろ!勇者に国を救ってもらう態度じゃねぇ!そんな余裕があるなら自分達でなんとかしろって話だろうが!」


 再び興奮する親方に勇者は言う


「僕も毎度思いますが・・・それが出来ないから勇者に頼むんでしょう?」


 親方は絶望し、膝をついて小さな声でつぶやいた


「つまり・・・もうこの国は・・・・それほどヤバいって事かッ・・・・」


 勇者はそんな親方に再び質問した


「あの、親方何かクエストは?」


「矢だ・・・」


「え、何ですって?」


 小さな声で喋る親方に勇者は聞き返すと、親方は力強く立ち上がった


「矢の素材になる木材をあるだけ持ってこい!矢の供給不足でエルフ弓兵隊がまともに機能してねえんだ!十分な矢を供給できればまだまだ戦える!」


 勇者は親方の気迫に押されながらも返事した


「は、はい、矢の素材ですね。じゃあ鳥の羽とかも・・・」


「あるなら持ってこい!だが一番重要なのは芯になる木材だ、他は代用が効く」


「はい、わかりました。木材は何とかなるかと思います、また切り倒せばいいですから」


 勇者の言葉にハイエナは怯えている


「マタ、ヤルノアレ?・・・」


 勇者は親方に再び質問した


「木材はなんとかなるとして…。街中で直ぐにお金を稼げる場所ってありますかね?」


「ん、無いんじゃないか?貴族連中が入って来たせいで仕事がなくてな、多くの連中が職を失って路頭に迷ってる状態だし・・・・稼げるとしたらカジノくらいだろう」


 勇者は不敵な笑みを浮かべている


「カジノかぁ、いいですね得意なミニゲームです。どこにあるんですか」


「店を出て左に進んだ先にある大道りを西に進むと目立つ看板があるが、行くのかい?」


「はい、さっそく今から行ってきます」


 勇者は店を出ようとしたが、親方に止められた


「待て、代用の武器を貸してやる!護身用に必要だろう」


「レンタル出来るんですか、いいですね貸してください」


「取りあえず…ほれ」


 親方はロングソードを貸そうとしたが勇者は拒んだ


「銅剣より強いのはちょっと・・・楽しみが減っちゃうので」


「ええい、めんどくさい!この杖ならどうだ」


 親方は杖を勇者に渡した


「武器屋の杖・・・仕込み杖ですか?」


「いや、一本の丈夫な鉄木で作られてる。仕込み杖の刀身は強度が低くて扱いが難しいんだ。その杖なら棍棒の要領で扱えるだろう」


「なるほど、ありがとうございます」


「行く前に一つ聞かせてくれ」


「はい?」


 親方は真剣なまなざしで聞いた


「さっき魔王がどうとか言っていたが、魔王とも戦う気なのか?」


 勇者は何時もの調子で答えた


「はい、いつか倒そうかと思っています。まずはここを攻略しないとですが」


「オヤブン・・・ドコマデモ、オトモシマス!」


「ワン!」


 勇者達は去って行った


「ふむ・・・」


 ――――それからしばらく経ち、買い出しに行っていたブルーノが帰った時


「ただいま帰りました親方。どうしたんですかその格好?それって昔親方が修行の旅で使ってたやつですよね」


「おう、ちょっと気を引き締めようかと思ってな」


 装備を固めた親方はブルーノに真剣なまなざしでこう言った


「小僧…いやブルーノ、お前も常に武器を腰に下げておけ、寝る時も武器が手に届く場所において戦闘に備えろ!必要な荷物もまとめておけ!!」


「親方ッ!?・・・・わかりました。また混乱が起きるのですね」


「ああ・・・いや、それで済まないかもな・・・」


「なんですって!?」


 親方はどこか遠くを見つめ言った


「国を救う為に召喚された勇者が魔王を倒すと言った・・・つまり、この国だけじゃなく世界が・・・・危険なのかもしれん!」


 勇者は親方にいらぬ誤解を与えたことも知らず、意気揚々をカジノへ遊びに行っていた

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