第106話 勇者達と+1人が武器屋へ行く
武器屋の親方は客からの調整の依頼を頼まれ、依頼品をかざして見ていた
「ふむ・・・本当にただの銅だな、こりゃ」
「はい、調整できますかね?」
客・・・つまり勇者の言葉に親方は頭を抱えた
「剣の見た目をしてるが武器ですらねぇよ、こんなもんは。魔術処理すらされてねぇし鋳潰して青銅にしちまうか?」
「いいえ、青銅の剣じゃなくて銅剣が欲しいんです」
親方は視線を銅剣に合わせたまま悩んでいる
「しかしなぁ・・・どう考えても強度が足らねぇ。それに重いだろ?」
「確かに重いですけど、気になる程じゃありませんし」
「棍棒を使ってたんだったな。剣を持ったことが無いのか?こいつを持ってみろ、王国軍が正式採用してるロングソードのサンプルだ」
親方は勇者にロングソードを渡した
「お、軽い!もっと重い物だと思ってたのに。それに振りやすいですね」
勇者はロングソードを軽く振りながら喜んでいる。そんな勇者を見ながら親方は説明した
「そんだけ鍛えてれば軽く感じるだろうよ、重心バランスもバーバリアン・クラブと違って手元に近いから振りやすい。見た目だけのその銅剣じとじゃ比較にならんだろ、重量も4kgはあるしバランスも悪いからな」
「ちなみにこの剣の重量は?」
「1.3kg、両手片手両用のバスタードソードに部類されるロングソードの一般的な的な重さだ。両手用のロングソードは2kgを超えるがな」
勇者は渡された剣と銅剣を交互に見ながら呟いた
「両手剣の2倍の重量があるのか・・・・・王様は片手で扱っていたのに」
―――――その頃、ジョージアは薄暗い秘密の部屋で汗を滴らせ喘いでいた・・・・
「11…12・・・13ッ・・・・14ッ!」
「ジョージアあと1回、あと1回がんばって!」
ジョージアはシンシアの指導の下、筋力トレーニングを行っていた
「じゅうッ・・・ごぉ!!ふぅ…」
「ドスン!」
ジョージアは両手に1つづつ握って持ち上げていた20kgの岩を床に置かれたクッションの上に落とした(現代のダンベルトレーニングの様な物で、この世界では珍しいものではありません)。シンシアは重りを下ろしたジョージアの汗を拭きながら会話した
「はい、息を整えて」
「はぁはぁ…男のふりをするためとはいえ・・・・少々辛くなってきましたわ」
「このところ多忙でしたからね。そう言えばジョージア、最近あまり食欲が無いみたですけど大丈夫?」
「ええ、心配ないわ」
シンシアは意地の悪そうな表情になってジョージアに言った
「ふーん、勇者様の為にダイエットしているのなら逆効果ですよ。これ以上脂肪を落としたら腹筋が割れるでしょうから」
「はう!?」
ジョージアは狼狽えた
「嫌ですわ!ユート様に6つに割れた腹筋をさらすなんて!」
「いえいえ、私の見立てでは恐らくジョージアの腹筋は左右のバランスの整った見事な8パック、腹筋の形は生まれつきの物で決ってしまいますが、恵まれましたね」
「そんな所を褒められても嬉しくありませんッ」
ジョージアは頬を膨らましそっぽを向いた
「ふふふ・・・昼食は精の付くものにしましょうか」
――――――ジョージアが陰ながら努力している頃、武器屋では銅剣をどうするか話がまとまろうとしていた
「それじゃあ、刀身が短くなるが鋳潰してデザインを丸々変えちまってもいいって事でいいか?せめて幅を出して強度を上げたいからよ」
「はい、それならいいですよ」
「よし、鞘が無いが作っておくか?」
「はい」
「じゃあ、320ゴールドいただくぜ。出来上がるのは2日後だ」
「はい、お願いします」
勇者は320ゴールド支払った。親方は続けて勇者に聞いた
「それと・・・・なんだがな」
「はい?なんでしょう」
「なんでジョナサンが犬抱えて走って来たんだ?お前に用があるみたいだが」
「ぜぇッ…ぜえ・・・ぜぇ…」
武器屋の席て道具屋の主人が息を切らして座って休んでいた。勇者の横では道具屋の主人が抱えて来た犬が尻尾を振っている
「ワン!」
「ああ、道具屋さんにポチィーを置いて来てしまったみたいで、届けてくれたんですよ。ホントに良い人ですね」
道具屋の主人が勇者にぶっきらぼうに言った
「はぁはぁ…そいつは・・・ありがとよッ!」
勇者は道具屋の主人の話を聞いてるのか聞いてないのか話を続けた
「いやぁ、仲間を置いていくなんて盲点でしたよ。パーティメンバーは常に後ろを一列に付いて来るものだとばかり・・・」
道具屋の主人は勇者にツッコミを入れた
「そりゃいつだって陣形を崩さないのは理想だろうよ!でも現実はそう甘く無え!仲間をおいていったりはぐれたりした事は無いのか!?」
勇者は堂々と答えた
「ありますよ」
「ほれ、やっぱり・・・」
勇者は続けてその時の様子を語った
「ダンジョンで仕掛けを解かないと進めない道の途中で仲間を引っかけてワザとおいていったのですが・・・」
「今、外道な事をサラッと言ったな」
道具屋の主人のセリフに構わず勇者は話を続けた
「・・・先に進んだ扉を開くと、何故かおいて来たその仲間が居たんです」
道具屋の主人は混乱した
「なんだそれ!?何もんだソイツ!」
「あ、いつの間にか隣に居る事の方が多かったですね」
「多かった!?って事は何度もやったのか!仲間をもっと大切にしろ!!」
「手分けしないと解けない仕掛けもあるのでもちろん大切ですよ。瀕死になって倒れた時にはタッチして起こしてあげます」
親方も困惑している
「タッチするだけ?回復魔法か?」
「いいえ、ある時は使いますがタッチするだけです。その場合は少し回復されるだけですが」
道具屋の主人はさらに混乱した
「なんだそれ!どんな蘇生術だ!?瀕死の人間に・・・おい、起きろ、と言った感じでタッチして起こすとか酷過ぎるだろ!絶対やせ我慢して立ってるだけだぞソイツ」
「え?タッチされれば僕も回復しますよ」
道具屋は吠えた
「その仲間とはどんな信頼関係なんだ!?絆や信仰を超えて、もはや狂気の沙汰だよ!」
勇者は思い出したかのように道具屋の主人に聞いた
「そういえばスプレータイプの回復薬って無いんですか?拾った三色の薬草をその場で調合して仲間にシューっとかけたいんですが」
道具屋の主人は怒号を上げた
「そんな便利極まりない物は無え!!液状の蘇生薬はあるが空気に触れると直ぐに蒸発しちまうんだ、スプレータイプなんてない!しかも薬草をその場でスプレーにするだと!?!?」
勇者はそれを聞いて考え込んでしまった
「シンシアさんが使ったヤツか、確かに直ぐに乾いたな。しっかりと密閉する容器に入れないと・・・・」
「こんな奴とこれ以上話していられるか!俺は返らせてもらう!!」
帰ろうとする道具屋の主人に武器屋の親方が声をかけた
「なんかよく分からんが大変そうだな。今夜久し振りに飲みに行こうぜ、一杯奢ってやるからよ」
「ああ悪いなクレイ、じゃああの店でな。またな」
「バタン」
道具屋の主人は帰って行った
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