第101話 勇者、身の振り方を寝ながら考える

 領主の地位を得て、自室で眠りについた勇者は・・・


「起きるのです勇者よ、目を覚ましなさい」


 女神空間に呼び出されていた。勇者は直ぐに目を覚ました


「女神様おはようございます」


「起きましたね勇者よ。町作りの特別報酬の事は覚えていますね」


「はい、条件クリアできましたか?」


 勇者はそわそわしている


「そう興奮しないでください勇者よ、審査結果を順を追って説明します」


「パッパラパー♪」


 ラッパの音色と共に、女神の後ろから派手な舞台装置が煙を噴き出しながらドドドっと現れた。それを見た勇者は一言で答える


「スキップで」


「このイベントは飛ばせません。大人しく聞きなさい勇者よ」


「はい」


 勇者に選択肢は無かったようだ。女神は電飾で飾られたモニターを操りながら勇者に審査結果を発表した


「評価その1!食糧の確保。小規模な畑及び魔物を捕らえた事によりプラス16ポイント!」


「ババルさん達って食糧扱いなんですか?確かに良い出汁でしたけど」


「かなり有用ですよ、ですがどう扱うかは慎重に判断してください。では続いて評価その2は!」


 モニターに新たな項目が追加された


「デデン♪」


「水の確保です!井戸があるからと言って過信は禁物です、これがまったく成されてなかったのでマイナス12ポイント、別の水場を確保してください」


「あー、すっかり忘れてました」


 頭を抱える勇者に、女神はイメージ映像を流しながら説明した


「勇者よ、ゲームなのでは水源から無限に水を使える事なんてざらですが現実はそうはいきません、食糧の確保より優先度は上ですよ。いわゆる無人島と呼ばれている島のほとんどは十分な生活用水が確保できない為に無人になっている程ですから。周りが海で囲まれ魚が泳ぎ、島の自然からフルーツが取れたとしても飲み水がなかったらそこは塩水で囲まれた緑の砂漠も同然です」


「水か・・・確かにゲームだと簡単に手に入るから失念してました。目覚めたらさっそく亀モンスター達に聞いてみます、何か知っているでしょうし」


 勇者が納得したのを見て、女神は次の項目を発表した


「それがいいでしょう。では評価その3!人材の確保、まだまだ少ないですが特殊技能をもった人材が多いのでプラス9ポイント!人が居なければ町ではありません、今の規模では村とも言い難い状況です」


 勇者は女神に質問した


「貴族から失業者を送ってもらえるという話ですが、それは審査基準にならないんですか?」


「勇者よ、過度にその世界の権力者をあてにしてはなりません。人材は出来るだけ自分の足と目で探し出してください。でないと後々後悔しますよ」


「どういうことです女神様?」


 女神は照明を暗くし下からライトが当たるような演出をして勇者に言った


「勇者よ、今は魔物の危機にさらされていますが、危機から救った後の勇者が権力者からどう思われると思いますか?」


「エンディング後の話になりますから良くわかりませんけど、あまりいい予感はしませんね」


「その通りです勇者よ、自分達がどうにもできなかった問題を解決してしまう力を持った一個人をこころよく思わないでしょう、自分達の立場が危うくなりますからね。プロパガンダに良い様に扱われた後にポイでしょう」


「ゲームをクリアしたと思ったら人生ゲームオーバーにされかねないのか」


「ええ、今からでもそう言った暗躍には気を付けた方がいいですよ」


 女神は照明を元に戻した。勇者は思う事が有り女神に質問する


「女神様、聞いていいですか?」


「なんでしょう?」


「女神様って僕の他にも勇者として転生させてるんですよね?他の方の勇者の最後もその・・・」


 女神は暗い雰囲気に勇者とは対照的に明るく答えた


「ああ、そう言う事ですか。安心してください勇者よ、私は信者からの依頼を受けて仕事をするプロフェッショナル、世界を救った後も安心な人材を選びでアフターケアもばっちりです」


「神がプロフェッショナルって・・・・安心な人材ってなんです?」


「ズバリ…ダメ人間です!」


「ダメ人間!?」


 困惑する勇者を無視する様に女神は説明を続けた


「そうです、特別な力を与えなければ何もできないようなダメ人間、そのダメ人間に実際に力を与えて異世界に解き放ちます!さらに適当なヒロインをくっ付ければ、野心もなく余生を鼻の下を伸ばしてダラダラと過ごすタイプです。女性関係・・・というより人間関係を構築するのが苦手なヘタレですので種がまき散らされる心配もありません!将来勇者一族が反乱を起こす危険性など皆無!」


 勇者はもう呆れている


「ぶっちゃけましたね」


「後は妙な自尊心を持ってるタイプですね。世界を亡ぼせる力を持ちながら魔王倒したら自分の住処に籠る根暗。力は持ってますがスイッチを押さなければ発射されない核ミサイルみたいな人なので実質無害です。適当に距離を保って付き合えば良いので権力者も安心です、プロパガンダに使いやすいのでむしろ美味しい事も」


「うわー・・・…女神様それでいいんですか?」


「結果救ってもらえれば勇者なのです!例え民家のタンスを漁ったり、箱から平然と物を盗もうが、女はべらせようが、殺戮の限りを尽くそうが、どんな馬鹿らしい非道な手段で有ろうと最後に世界をを救ってしまえば勇者なのです!」


 あまりにもオープンに話す女神に、思わず勇者は聞いてしまった


「ええと・・・じゃあ僕は?」


「聞きたいですか?自分が何者か・・・」


 勇者は怪しく微笑む女神を見て、慌てて否定した


「いいえ!言わなくて良いです怖いから!」


 女神は無邪気に微笑んでいる


「ふふ…、それがいいかもしれませんね。細かい説明は省きましょう、今の状態では特別報酬は渡せません」


「ええ!そんな・・・というかスキップできないって言ってたのに!」


「私ももっと話していたかったですが勇者よ、もう目覚めの時なのです。詳しい話は後日にしましょう、それまでに町を発展さたのであれば報酬を考えますから」


「約束ですからね女神様!」


「ではさらばです勇者よ、ご健闘を」


「ッ・・・・・、ッッン・・・・!グ・・・・・・……」


 派手な舞台装置が崩れていき、世界は闇に閉ざされた

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