第99話 勇者よ、そんな物が欲しいのですか?

 泣きわめくアレクシスをなだめていた勇者だったが、もうめんどくさくなってアレクシスの襟首をつかんで引きずって変えることにした勇者


「いい加減帰りますよアレクシスさん」


「次こそは食材と、絶ッ対に心を通わせてみせますよ!ユート様!!」


「凄い意気込みですね・・・おや」


 前から真理が手を振りながら勇者に呼びかけて来た


「ゆうとぉ~、王国軍がアンタに用があるんだって。来てくれる~ぅ」


「はい、今行きます」


 勇者に引きずられていたアレクシスは急に立ちあがって勇者にひと声かけて去って行った


「それではユート様、ボクは下ごしらえをしてきます」


「は、はい?」


 勇者は ”下ごしらえ?なんの??” と疑問に思いながらもアレクシスを見送った


「テクテクテク」


 勇者は王国軍兵士達がテントを張り集まっている場所にテクテクと歩いて行った。すると衛兵の一人が勇者に話しかけて来た


「勇者ユート様、お待ちしておりました!ジョージ王様があのテントでお待ちです、どうぞ中へ」


「いいえ」


 勇者の答えに兵士は戸惑っている


「あの…いいえとは?」


「中に入るとイベントが始まりそうなので、その前に…よいしょっと」


 勇者は樽を持ち上げ投げようとした


「お止めください!!」


 兵士は勇者を止めた。羽交い絞めにされた勇者は兵士に素っ気なく言った


「僕はただ中にアイテムが入っているか確かめようと・・・」


「入ってますよ!大事な軍事物資が!!今着いたばかりなんですから空の樽なんてありません」


「そうなんですか、じゃあこの中身は?」


「葡萄酒です!それを壊して酒を無駄にしたら勇者様といえど、ドワーフ共に殺され・・・」


「ガバン!」


 勇者が持っているものとは別の樽の蓋がガバッと開き、それに合わせる様に物陰から小柄な人影が躍り出て、けたたましい声を上げた


「なに!イベントだと!?戦勝祝いか!」

    「ひと樽開けようってのか!?俺達にだまってよう」

          「それは見過ごせねぇな、俺達にも飲ませろ!」


 ドワーフ三兄弟があらわれた!


「あの、兵士さん?」


 勇者は自分を取り押さえる兵士に質問した


「なんです?」


「空の樽はないんですよね?」


「はい・・・あ」


「あの人、樽の中から出てきましたけど」


 樽の中のドワーフは頬を赤らめ下をペロッと出した、他の二人も頬が赤い


「てへ、バレチッた」

   「ちがう!俺達には水みたいのもんだ!」

           「そうだ!だから安心しろ」


 ドワーフ三兄弟の言葉に兵士はキレた


「物資横領だぞ貴様らぁぁぁ!!」


 ドワーフ二人はリーダ格のドワーフを樽の中に入れたまま横に倒し、転がしながら逃亡した。逃亡中もうるさく何か話している


「オロロロ!待て!酔いと一緒に胃袋が回る!!」

      「我慢しろ兄者!我らは生まれた日は違えど酔い潰れる日は同じ!」

           「そう、先に酔い果てる事は許さぬぞ!」


「待てえぇえ!!!!」


 兵士はドワーフ達を追いかけて行ってしまった。取り残された勇者は樽を置き ”下手にいじると別のイベントが始まりそうだな” と判断し大人しくテントの中に入った


「よく来た勇者殿!待っていたぞ」


 ジョージ王は入って来た勇者を歓迎し、続けて言う


「余にも聞こえたぞ。横領犯が潜んでいると見破って仕舞うとは流石!カンは衰えておらぬな。初めて会った日を思い出す」


 熱弁する王をシンシアが止めた


「ジョージ王様、そろそろ本題を」


「そうであった。勇者殿、この度、この土地を見事解放した功績を称え、お主を貴族として迎え入れ、この土地の領主に任命することにした。異存は無いな?」


「はい」


「ではここで誓いの儀式を行う。そこに跪くがよい」


「はい、えーと教会の様に正座ですか?」


 シンシアが勇者に説明をする


「勇者様、私に合わせてください。まず右手を握り胸に当て、左手を腰に、左膝を立て跪き、頭を少し下げてください」


 勇者はシンシアの真似をして跪いた後質問する


「黒い服を着なくていいんですか?」


「いえ、黒い服を着る風習はありませんのでそのままで構いませんよ。勇者様の世界では黒が正装なのですか?」


「いいえ、必ず黒って訳でもないのですが、グリフォン戦の後なので何となく思い出したのかもしれません」


「というと?」


「あ、気にしないで続けてください」


 王は勇者の肩に剣を当て、儀式を開始した


「ではユートよ、汝は貴族として民を守り、王国に忠誠を誓うか?」


 勇者は ”ここでいいえを選ぶとゲームオーバーになりそうだ” と考え、はいと答えた


「はい」


「ユートよ、汝をクプウルム王国、第37代目国王ジョージ・クプウルムの名において、ピアースと名を与え貴族と認めよう。ユート・ピアースと名乗るがよい」


 勇者は ”自分で苗字選べないのか。後で変えられたりしないかな?” と思いつつ返事した


「はい」


「では続いて領主の任につくにあたって宣誓を。汝ユート・ピアースはこの土地とそこに生きる民の生活を豊かにし、守っていく事を誓うか」


「はい誓います」


 勇者はハイスコアを狙う気マンマンだ


「この土地を汝に託す事を王の名のもとに宣言する」


「もう立っていいですよ勇者様」


 勇者はシンシアに言われて立ち上がった


「ふう、終わりましたか・・・ん!ジョージ王様、それは!?」


 勇者は王が持っている物を見て動揺している


「この剣が気になるのか?これは初代国王が使ったとされるオリハルコンの剣を真似た銅製の模造品よ。本物は失われてしまったが、大事な儀式には代々この剣を使うのが習わしでな」


「銅の剣・・・本物だ」


 勇者は銅の剣に目を奪われた

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