第89話 狩猟は貴族の嗜み

 大荒くれヒツジの突進!この様な大型の魔物の突進は、本来なら槍兵が槍を突きだして止めるが、力量差があり過ぎるので止められないだろう


「フオォォォォウ!!」


 雄叫びを上げ迫ってくる大荒くれヒツジは、頭を下げてこのまま兵士達に角を直撃・・・


「開けぇい!」


 させようとしたが、前衛の兵士達は左右に分かれて魔物を避ける様に退いてしまった


「うっし!来い!」


「ガシッ」


 待ち構えていたガウェンが、突進して来る魔物の角を掴んで止めた。ガウェンは魔物との体格差をもろともせず突進を止めてしまう。魔物はどうにか押し返そうとするが、角をガッチリと掴まれたまま動けない


「ぐぬぅッつ、貴様ッ!?」


「文字道理、俺様は貴族様よ!ぐぐう!」


 ガウェンの後ろから二人の騎乗した貴族が武器をに来ながら大荒くれヒツジに迫る


「では合わせますかな」


「行きますぞ伯爵」


 二人の貴族の得物・・・ゴードンは幅広で厚みのある斬突両用の片手剣”カッツバンゲル”の大小を両手に持ち、エドワルズは馬上用の盾、カイトシールドを構えながら、切っ先がイチョウの葉の様に広がり、刺突を捨て斬撃に特化させた両刃の片手剣”イルウーン”を構えた。タイミングを合わせた二人は踏ん張っている大荒くれヒツジの両膝を同時に叩き切った


「「ガシュン」」


「うっ!」


 その攻撃で魔物は膝をつく、そのタイミングに合わせアウェンは魔物の首をねじ斬らんばかりに大きく後ろに反らさせ、魔物が立ち上がれないようにした


「そんまま跪いてろ!」


「その巨体、借りるぞ」


 後から来た騎乗したルーファの得物は刃渡り15cm程の小さな穂先ほさきを持った細いウネウネと曲がったを持った異様な槍だった。それを槍の穂先から柄に巻き付いている紐をほどきながら、魔物の脇腹に突き刺し大きくしならせる


「ザクリ」


 しなった槍の末端の石突きの部分に、ほどいた紐の先の輪を引っかけて魔物から穂先を引き抜いた、と同時にガウェンが魔物の額に頭突きを入れて止めを刺した


「ふんっ!」


「ガッ」


 大荒くれヒツジは倒され塵になった。ルーファの弦が掛けたれていなかった為に槍に見えた獲物はハズヤリの付いた大弓、槍としては細く、弓としては太い大弓に矢をかけ、引き、逃げている魔物に矢を放った


「ギギギギィ・・・シュパン!」


「みぎゃあ!」


「この暗さで当てるかぁ!?とう!」


 仲間を狙撃され、荒くれヒツジの一人が木の後ろに隠れてしまった


「これで大丈夫だ・・・あれ?」


 荒くれヒツジが胸に違和感を感じ、胸元を見ると矢の先が飛び出ていた


「パキッン!」


 射貫かれ、矢を強引にねじ込まれた木に大きく亀裂が入りパキっと大きく音が鳴ったと同時に、その木に隠れていた荒くれヒツジが塵になった


「走り回っていれば、まだ生存率は高かっただろうに・・・む?」


 ひと息ついたルーファの視界に新たな魔物が入った


「おい羊共、どうしたんだ?」


「あ、ヤギ野郎!」


「はぁ?」


 ルーファは大声で新たな魔物の存在を知らせ、射貫いた


「新たな大型種を確認!先制する!」


「ギギギギィ・・・シュパン!」


「ガリン!」


「くっ!」


 ルーファはスケイルゴートに矢を放ったが、鱗で弾かれてしまい、ルーファは舌打ちした


「ちっ、固いな」


 スケイルゴートは慌てて、ヒツジ達に事情を聞こうとしたが、みんな走り去ってしまう


「おい!これはどういう事だ!?」


「後は頼んだぜ~ぇ」


「ヤロウ!俺をスケープゴートにする気か!?」


「ルーファ卿、援護いたしますぞ!」


 エドワルズのスキル”音太刀”で空を切り自分の周囲の音を断ち、消しさった。そのまま馬ごと気配を消し姿勢を低くしながらスケイルゴートに迫る


「ガキン!」


 エドワルズはスケイルゴートの膝裏を引っかける様に斬り付けたが効果は無かった


「効くかよジジイ!」


「であろうな、ふん!」


 エドワルズのシールドバッシュ!斬り付けた剣の裏を盾で叩き、そのまま押し上げた


「うわ!」


「感謝!」


 足を持ち上げられ後ろに大きくのけ反ったスケイルゴートを、防御が薄い顎の下からルーファは射貫いた


「パシュン!」


「っ!」


 それに合わせる様にゴードン伯爵が馬からジャンプし・・・


「ほう、鎧を相手にするのと大差ありませんな」


「ガシュ!ガシュ!」


 鱗の薄い脇の下に剣の大きい方を深々と突き刺し、そのままその剣を足場にして魔物の肩に飛び移り、目玉に短い方の剣を突き刺してスケイルゴートに止めを刺した


「が・・・あ…」


 ゴードン伯爵は塵になって崩れる魔物の上から、突き刺した剣を回収しながら馬の上に飛び降りた


「くそう!なんて奴らだ!森の中に逃げたいが他の群れと出くわすのは避けたいし・・・どうすれば」


 そんな事を考えながら、どうにか逃げ延びた荒くれヒツジ数匹が道沿いに走っていると


「おい、あいつら明かりの方へ走っていくぜ」


「まさか、あの人数で攻める気か!?」


「こうしちゃいらんねぇ、俺達も行くぞ!」


「ヒャッハー!略奪タイムだ!」


 辺りに身を潜めていた魔物達は、農村跡地の明かりを見て人の気配を感じていたにもかかわらず、攻めたい思いを抑え警戒して近づかなかったが・・・今そのタガが外れた


「……・・・ドドドドドドドドドッ」


「何だ騒がしい・・・へぇ!?」


 荒くれヒツジが後ろを向くと、他の群れの魔物達が追いかけてきていた


「うわわ!何かいっぱい寄って来たぁ~!?」


「どけ!どけぇい!オレが先だぁ!踏み潰すぞ!」


「ひぃ~!?どうしてこうなったぁ!?」

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