第87話 総員出撃!・・・の前に

 クプウルム王国、北門。ここに各貴族の兵士と王国軍を合わせた勇者救出部隊が編成されていた


「ドワーフ重装歩兵隊!準備出来たぞ」


「槍兵隊配置につきました」


「エルフ弓騎兵隊及び魔道部隊、配置についた」


「王国親衛隊、準備完了。総員、出陣の用意が整いました!」


 兵士たちの指揮は高く、劣勢に立たされていることを忘れる程に気迫に満ちていた


「うむ、では行くとするか」


 王が意気揚々と馬に乗ろうとしたところ、シンシアが王の肩を掴み止めた


「お待ちください、ジョージ王様」


「どうした?シンシア」


「どうした、じゃありません!式典用の馬じゃありませんかそれ」


「ヒヒーン」


 王が乗ろうとしていたのは、長く細い足をもった背の高く、純白の艶のある毛並の見事な白馬だった


「そうだ!優雅で勇ましいで有ろう」


「何が優雅ですか!その様な背の高くて足の細い馬は戦場には適さないと兵法で学んだはずです!こちらの馬をお使いください」


「ブルルゥ・・・」


 シンシアがすすめたのは、足が短く太い馬だった。他の兵士たちが使っているのも同じような品種である


「し、しかしだな、この馬は見た目だけでなく足の速さは正に疾風!前回の競馬大会で見事優勝を・・・」


「いくら足が速くても足を怪我をされたら終わりですよ馬なんて!それに背が高いと言う事は頭を狙われやすいと言う事ですよ、額を射貫かれたいんですか!?こちらの!足回りが丈夫な馬をお使いください!」


「その様な牛より少し大きい程のずんぐりとした馬などッ」


「ジョージ様は貴族達が使っている高級品種の馬車馬や競走馬の方が見慣れているかもしれませんが、戦場ではこちらの馬の方が適しています!ほら、エドワルズ卿やゴードン伯爵、他の方達も今回は違う馬に騎乗なさっているでしょう」


 確かに他の貴族も背の低い馬を使っていた。一人を除いて


「オーホホホホ!」


 ベルモッド嬢は金の象嵌が彫り込まれた鋼と細かな刺繍の入った赤い生地で出来たドレスの様な鎧をまとった栗毛色の背の高い馬に乗っていた。自身も馬と同じ・・・と言うより、馬の方を自分と合わせているのだろう。真紅のドレスに無骨な鉄の肌のアーマーを取り付けた異様な格好だった。兜にも羽飾りがついており、フェイスガードは謝肉祭のマスケラの様な豪華さだ。馬の鞍もまたがって乗るタイプではなく、横から腰かける様に乗る婦人用の横乗り鞍だ。王はそれを指さしてシンシアに抗議した


「あれは!アレは良いのか!?」


「ベルモッド嬢は良いんです!着飾る為ならいつ戦場で散っても良いと公言しているような人なんですから!それに、あの方のドレスは裏地に金属プレートを鱗の様に仕込んだブリガンダインです、私がいつも着ているメイド服と同じ職人が作った一級品ですよ。馬の弱点である脚もそれでカバーしているのでしょう、あの方はああ見えて実用面も手を抜きませんから・・・」


 ベルモッド嬢の周りに取り巻きの娘たちが取り囲んで褒めたたえていた


「シェリーお姉様ぁ、戦装束も素敵ですわ~♡」


「オホホホ!当然でしてよ。真のレディたる者、泥臭い戦場でも優雅さと気品を身に着けているものですわ」


 ガウェン卿がベルモッド嬢の装備を見て話しかけた


「へぇ~、装飾がクドイが良い作りじゃねえか。ウチでは扱って無い志向の作りだが」


「ドワーフの製品は実用一辺倒で無骨すぎますわ。腕は確かなんですからもっと美意識をもった作品を作れませんこと?」


「美意識ねぇ…、道具が輝く時はやっぱ使った時だしよ」


「それが無骨だと言っているのですわ」


 ガウェン卿とベルモッド嬢が話している間に、王が更にシンシアに抗議した


「あの鎧を馬に付けていればいいのか!なら同じ物をこの馬に!」


「ありませんよ、あのような特注品!それに多少カバーできても、馬の弱点は変わりません!」


 そう王とシンシアがもめていると


「どうかされましたか、ジョージ王様?」


 ゴードン伯爵が騒ぎを見て、どうした事かと尋ねに来た


「アルヴィン様、お騒がして申し訳ございません。ジョージ王様がこちらの馬を使うと聞かなくて・・・」


「勇者殿に良い所を見せる絶好の機会!王たる者やはり威厳のある馬に乗らねばな」


 ゴードン伯爵は笑って王をたしなめた


「ははは!お若いですな。私も若い頃に自慢の競走馬で戦場に出た事が有りましたが、あまり、お勧めできる行為ではありませんぞ。手痛い教訓を得ることは出来ましたが」


 シンシアが恥ずかしそうにしながらも王を説得した


「うう…、ジョージ王様!サラブレットの様な長くて細い足なんて、槍で薙ぎ払われたでけで折れますよ!背が高い分、落馬した時のリスクも上がります!こ、ち、ら、の!馬をお使いください」


「しかし・・・」


「いいですね!」


「うん…」


 王は諦めてシンシアがすすめた馬に騎乗した

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