第85話 高みの見物

 ――――時はさかのぼり、勇者達が魔物達の襲撃を受ける前、優秀な視力と聴力をもったエルフの偵察部隊が北門の見張り櫓に配属されていた


「うう…高い場所は寒いから見張り櫓とか嫌なんだよな、寒くて耳の先が痛い…。ん?農村跡地に複数の明かりを確認!恐らく松明の物かと思われます・・・かなりの数です」


「なんだと!?非常事態か!」


 光に気付き、北門のエルフの偵察兵の一人が望遠鏡を使い、勇者の居る農村跡地を監視した。その偵察兵の報告を聞いて地上に居た偵察部隊の隊長が状況を確認しようと指令を出した


「観測手!敵性勢力は確認できるか!?」


 エルフは遠くの音を聞く事に長けているので、エルフ同士だと高い見張り櫓から地上の者同士でも問題なく会話が可能だった。


「いえ!松明が突き立てられているだけで、もぬけの殻です。報告にあったハイエナも通常どうり警備していますし・・・ボスと思われる大型種が犬に追われていますが異常事態ではないのかと」


―――観測手に視認されたボランとポチィー


「ワンワン!」


「この野郎!いつまで俺を追いかけまわす気だ!」


 逃げ回るボランの横を通り過ぎる勇者はボランに挨拶してから屋敷に帰ろうとしていた


「あ、ボランさんお疲れ様です。頑張ってくださいね」


「いやいや!もう十分だろ!いい加減解放してくれ!」


「そう言われても、ポチィーは僕の言う事聞きませんし」


 ポチィーはレベル5になっていた


「くそう!あの女はどこだぁ!?」


「たぶん、あの煙ですよ。お風呂作るとか言ってましたし。早く僕の番来ないかな」


―――観測手は火にかけられている巨大な土器を発見した


「煙が立ち上っています!あれは・・・土鍋?巨大な土鍋が火にかけられています!」


「食事の準備か?」


「いえ、周りに食材の様な物はありません。一体何を・・・あ!湯気でよく見えませんが誰か中に入りました!人型です!ハイエナではありません!」


「なんだと!?鍋に人間が?詳しく報告しろ!」


「クソ!湯気と煙が邪魔でよく見えません!」


―――お風呂に入った、真理と火を管理しているハイエナが話している


「マリーの姉御ぉ、湯加減はどうですか?」


「ふぅ~、いい感じよぉ。アンタ達も入る?」


「お、良いですか?」


「動物が一緒に入っても気にしなわよ、こんなに広いんだし」


「そうですか。じゃあ他の連中も呼んできていいですか?」


「はいはぁ~い、いいわよぉ、べつにぃ」


―――観測手は土鍋に集まるハイエナ達を見て混乱している


「ハイエナ達が次々と中に入って行きます!」


「なにぃ?どういう事だ・・・。先に入った人影の正体はわかったか!」


「上半身のシルエットしかわかりません、髪は長かったですが・・・あ!横を向きました!胸部から察するに、恐らく少年でしょう」


「少年?勇者は長髪ではなかったな・・・いったい何者なんだ?」


「あ!人間二人がハイエナに連行されて中に入って行きました!」


―――風呂に入ったトーマスとアレクシスは観測手に捕捉された


「ふぅ~、たまには風呂も悪くないな」


「そうですね♪少し独特な香りがしますが・・・はて?どこかで嗅いだことがあるような」


「コレ、オヤブンノ、朝食ヲ、作ルノニ、使ッタヤツ、仕方ナイ」


「げぇ!大丈夫なのかよ」


―――鍋に魔物に連れられて人間が入ったと報告を受け、偵察部隊の体長は混乱した


「なに!勇者か!?特徴を言え!」


「一人は茶髪の男で、もう一人は頭に長鍋を被っていて顔はわかりません」


「鍋・・・やはり勇者か?しかし報告に有った鍋の特徴と違うな・・・別の鍋を現地で調達し装備したのか?」


―――そんな事を隊長が考えている内にトーマスが真理の存在に気付いた


「この声は・・・マリー隊長ぅ!?」


「ほ?」


「え?、ちょっとアンタ達なんで入ってるのよ!?」


―――動揺するトーマスを見て観測手が不信に思い始めた


「隊長、何か様子が変です」


―――トーマスが慌てて外に出ようとしていると


「大丈夫です!直ぐ出ますから!湯煙で何も見えてないですし!」


「誰のぉ?何がぁ?小さくって見えないだってぇぇ?」


―――観測手が異常に気付き慌て始めた


「茶髪の男が暴れ始めました!鍋を被った男を引っ張って外に出ようとしています!」


「どういう事だ?」


「あ!」


―――鍋が電気で発光し、トーマス達は真理の魔法攻撃を受けた


「え?なにをそんなに怒ってッ。こらアレクシスさっさと出ろぉ!」


「ほほ…引っ張らないでください。鍋の中に熱が溜まってしまってのぼせてしまいました」


「だから外せって言っただろッ!」


「ライニール!」


 真理の反に攻撃がトーマス達を襲った!


「「ぎゃーぁぁああああああ!」」


――――それを見た観測手は


「人間が攻撃を受けました!」


「なんだと!?攻撃を受けた人間は今どんな状態だ!」


「脱力し・・・土鍋の中のお湯に浮かんでいます」


「緊急事態だ!すぐに城に報告しろ!」


「了解!」


 見張り櫓に居た観測手が別の隊員と交代し地上に降り、馬に乗って城まで報告に行ってしまった

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