第71話 水面下の戦い

 退屈な会議中、妄想に耽っていた真理はアマンダに耳を引っ張られ、妄想を中断された


「ファ!?なによアマンダ?」


「しばらく会議は進みそうもない、私の使い魔を連れて先に勇者の様子を見てきてくれぬか」


「勝手に動いて平気なの?」


「領地を持てない私が自分の実験体を一人動かしてもたいして問題にならん」


「誰が実験体だってぇ?」


 アマンダの胸ぐらを掴んで睨みつける真理に、アマンダは話を続けた


「す、少なくとも形式上は私が実験的に作ったゴーレムを基にした疑似勇者っと言う事になっておる!じゃから多少問題を起こしても不具合ですむ、おかげで自由に動けるじゃからさっさと行け!」


 アマンダは真理の足を踏んだ


「痛っ、あたしが行ってどうするのよ!どうにもならないから戻って来たんだ、か、らぁ!」


 真理は反撃した


「くっ!、どの道安静にさせるしか方法は無いわ!もし勇者が立ち直っても不安定な精神状態の可能性が高い、その隙を狙った貴族共に丸め込められるのは避けね、ば、なぁ!」


 アマンダの反撃


「っ、勇者の救出には前向きなのに、今日中に出発させるのに消極的な連中が居るのは、取り入る材料を用意できてないから・・・って訳ね!」


 真理の更なる反撃。邪魔にならない様にどうにか理性を保ちながら静かにもみ合う二人をよそに、会議は続けられた


「詳しく状況を確認するためにも迅速に対応する必要があるのではないのですか。私の部隊なら今すぐにでも・・・」


「キミの兵士?手柄を独り占めにする気ですかな?」


「いえいえ、まさか滅相もない。防戦一方だった我が国が攻勢に出る晴れ舞台、皆様方もここで実績を作っておきたいと思うのは当然の事と理解はしております。ただ、直ぐに勇者の身の安全を確認しなければならない今の状況では迅速に動ける部隊は必須。ただ、私の部隊なら早く動けると提示したまでですよ。オホホ」


 アマンダがその話を聞いて舌打ちした


「ちっ、なり上がりめ!」


「なに、あのケバイ女なんかマズいの?」


「このあたりの”いかがわしい”サロンを取り仕切っておる。魂胆が見え見えじゃ」


「あー、篭絡させようって訳ね・・・アレに効くとは思えないけど」


「待てぇい!」


 王は雄たけびを上げた!


「どうかなされましたか、ジョージ王様?」


「そなたの部隊と言うのは、あのサロンの警備をやっている者達であろう!」


「その通りですが?」


「あの様な露出の多い服を着た女子達を森に行かせる気かそなたは!?」


「オホホ、そのような事を気になされていたのですか。ご安心ください王よ、あの子達はああ見えても荒くれた男達の相手をして鍛えられています。魔物の部下も居ますので馴染みやすいかと・・・」


「その魔物とは淫魔の類で有ろう!どこぞの泥棒ネコだけでも心配だと言うのに、その様な者達を近づけさせる訳にはいかッ・・・」


 シンシアはそれと分からぬように合図を送った


「シュッ!」


 王に吹き矢が命中した


「うっ!…きゅ~ぅ~・・・」


 王はマヒ状態になった。王に代わってシンシアが発言する


「えー・・・ごほん!ジョージ王様がご心配されるのももっともです。エレノア様、勇者様は今バーサーカー症候群におちいっています、普段から闘争本能が豊富な事も考慮しますと、勇者の見知らぬ魔物が近づいただけで戦闘になる危険がございます。勇者様を刺激しない様、慎重に人選しなくてはなりませんので、どうかご配慮ください」


「そこまで考えが至らず、早計でした。人族のみとなりますと・・・私の兵士達では少々難しいでしょう」


 真理とアマンダはこのやり取りを見守っていた


「上手く躱したわね」


「シンシアも何かと大変じゃのう・・・マリー今のうちにさっさと行け」


「嫌よ、面白くなってきそうだし、もうちょっと」


 二人がそんなことを呟いていると、貴族の一人から質問だでた、


「そうなりますと…シンシア様、亜人部隊の運用についてはどうお考えなのでしょうか?森での機動力に優れたエルフによる弓兵や魔導士部隊、特に今回の作戦にはドワーフの工兵部隊が不可欠ですが」


「亜人部隊の運用については・・・」


「えるふぅ?」


 王は痺れながらも ”エルフ=美形+勇者・・・+お母様が昔読んでくれた絵本” と考えに至り・・・おとぎ話の内容が何となく頭に浮かんだ


 ”人の戦士エヴァンとエルフの魔導士イリアンは魔龍を倒し、世界に平和をもたらしました。その後二人は結婚し幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし・・・”


「ならんぅ!!」


「ジョージァ…王様!?」


 王はマヒから自力で復活した!


「ならん!ならんぞ!勇者は余と結ばれッ・・・!」


「シュッ!」


 王は再び吹き矢を受けマヒした


「い、いま、王は何とおっしゃられました!?」


 貴族は動揺している


「え、え!?その勇者と・・・」


 シンシアも動揺している


「そう!勇者と王は硬い”友情”で結ばれているのです!勇者の身を案じるあまり、過敏に反応してしまったのでしょう!王は爆破事件でお疲れですからぁ!!」


 シンシアはどうにか堪えているが今にも泣きそうだ


「な、なるほど?!そ、そういう事でしたか、では亜人部隊の運用は・・・」


「いえ!おっしゃられた様にドワーフ工兵は必要不可欠です!勇者の容体が分かるまで馬車で待機してもらいましょう、ドワーフは小柄で狭い場所にも順応しますから馬車でも必要な人数を運搬できるはずです!いかがですかガウェン卿!」


 シンシアはドワーフの貴族に同意を求めた


「ガハハ!いいのではないですかな!資材と一緒に詰め込んどきましょう!30名ほど用意しようではないか!ハハハァ!」


「声が大きい!ここは穴倉ではないのだぞ」


「すまねぇですな、ルーファ卿!耳が良すぎるのも考え物ですなエルフは!ガハハ!」


「だから声が大きいと言っている!!反響定位エコーロケーションをする習慣はどうにかならんのか!これだから穴倉育ちのドワーフは・・・」


 ドワーフとエルフの貴族は喧嘩した


「静粛に!会議中ですぞ!」


 アマンダは耳を塞いでいる


「ドワーフの声は堪えるのう・・・マリー?どこ行った!?」


 真理は会議室から姿を消した

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