第70話 勇者、帰る

 ババル率いる亀軍団との戦闘に勝ち、農村にもどった勇者達


「ただいま帰りました」


 砦入り口の柵に、何か得体の知れない物を巻きつけているハイエナが返事をした


「お帰りなせえ、ユート親分!」


「何やってるんですか?」


「何ってイバラですよ、親分の指示だと聞いてますが?」


「あー、この世界のイバラってこんなのなんですね」


 柵に絡めてあるイバラはウネウネと動いてパキパキ音を鳴らしていた


「パキパキ・・・パキンッ」


 イバラを怪訝な顔で見ていた勇者を見て、ハイエナが勇者に話しかけた


「何か問題でも?ご不要ってんでしたら、直ぐにこのイバラを始末しちめぇますが」


「いいえ、僕の知ってるイバラと違っていただけなので問題ないですよ。引き続き作業をお願いします」


「御意!人間共が来る前に仕上げときます。親分のお屋敷はもう出来てますんで、確認をお願げぇします、何かご要望がありましたらそこら辺の奴に声をかけてください」


「はい」


 ボランがババルを担ぎながら勇者に話しかけてた


「じゃ、俺達は捕虜を地下に閉じ込めた後、仕事に戻るぜ」


「はい、よろしくお願いします。アレクシスさんは…取りあえず僕と完成したと言う屋敷に行きましょうか」


「はい、ユート様♪」


「離せー!」


 ボランは暴れるババルを連れて何処かへ行ってしまった。勇者は屋敷に迎いながらアレクシスと雑談した


「アレクシスさん、王国からの部隊はいつ到着するかとか分かりますか?」


「前線基地を作る作戦の事ですね。各領主の私兵による混成部隊と言う話でしたから、準備に時間が掛かるとは思います・・・・早ければ明日かと」


「随分と遅いですね。それとも実際の軍隊ってそんなものなのかな?」


「我が国は何かと混乱していますからね、きっと今頃・・・・」






――――勇者を話題に何やら変な方向に盛り上がりを見せる会議


「勇者の行動が女神の導きによるものだったとすると、勇者の町を作るという発言にも何か根拠があるかのかもしれませんな」


「あーもう、どうしてそんな評価になるのかしらアレに・・・」


 真理が頭を押さえてぼやいていると、貴族の中から反対意見が出た


「待ってくれ!女神の導きがあったとしてだ、全て女神の思惑で勇者が動いているとは限らないだろう!」


「そうだ!出発前に多少マシになったと言う話だが、あんな装備になんの意味があるというのだ!」


 真理がその意見を聞いて ”よし!まだまともな人が居た!ガンバレまともな人!” と思いながら陰ながら応援していると、その反対意見を言った貴族に初老の貴族が発言する


「それなのですが、孫のジェフリーから聞いた話によると効果があったようなのです。勇者の例の装備の件なのですが、その装備で傷つきながらも戦う勇者の姿に下級兵達の士気が上がっているとか」


「というと?どういうことなのですかな、アルヴィン・ゴードン伯爵」


 真理がそれを聞き ”えー、ゴードンって!あのゴードン!?ゴードンって貴族だったの!?” と驚いている間にアルヴィンは説明を始めた


「下級兵の多くは装備が貧弱で、戦死もしくは引退した兵士の物を未調整のまま使ってる者がほとんどですが、そんな彼らより明らかに劣る装備で魔物に挑み重傷を負いながらも帰ってくる勇者の姿に共感と憧れを持ったようで、暴走する者まで現れたとか」


「おぉー・・・」


 反対意見を言った貴族はその話を聞きすっかり納得してしまっていた


「ほう、そこまでの効果があったと」


「まさかそんな理由があったとは、神の考える事は我々の想像を超えていますな」


 事態がどんどん変な方向へ行こうとしている状況を真理は 


「勇者の帰りを待つ貴族と勇者の・・・ふふふ・・・」


 と思考し、全く眼中に入って無かった


「おほん!盛り上がっているところ悪いが余は急いでいる。勇者救出の是非を問いたいのだが?」


 王が是非を問い、貴族達の答えは・・・


「賛成、勇者を失えば低迷中の我が国の士気は更に落ちることになるでしょう。勇者の思惑がどうあれ、国民に希望を与えるシンボルとして生きていてもらわなくては」


「私も賛成です。兵力については事前に打ち合わた部隊をそのまま流用しますか?」


「いや、補給路を確保できてない状態でそれはまずい、兵糧不足になるぞ。先ずは小規模の部隊を旧農村地帯に送り、最低限の防御を固めながら情報を集めつつ補給路を街から伸ばしてくのはどうかな」


「勇者が仲間に引き入れた魔物、本当に信用できるのか?こちら側に味方する魔物は確かに存在するし、私の部下としてよく働いてくれる者もいる。が、魔物個人としてではなく群れ全体が協力してくるなんて話聞いたこと無いぞ。最低でもその魔物が裏切った場合に対応できる戦力を用意しなくては」


 焦りを感じた王は貴族達に発言した


「余は、できれば今日中にでも部隊を出発させたいと考えている」


「今日中にですか!?…勇者の救出のみを考えたらそれも可能ですが・・・前線基地の構築が難しくなります」


「このチャンスを逃す気ですか王よ!」


 アマンダがため息をつきながらぼやいた


「これはなかなか纏まりそうもないな、やれやれ・・・マリー」


「ふふふ、ジェフリーかぁ・・・」


 アマンダは話しかけても反応しない、妄想に耽る真理の耳を掴んだ


「マリー!」


「ファ!?なによアマンダ?」

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