第65話 勇者ですか? いいえ、違います

「ガハハハ!追いつめたぞクソ人間が!アジトから離れるとはうかつだったな!」


「ボクの事ですか?」


 農村跡地の直ぐそばの小道で、亀のモンスターに囲まれた人間がいた。そのモンスター達のボス、ババルは不敵な笑みを浮かべている


「ここにはテメェしか人間がいないだろ。この鍋人間、ユートつったか?今日被ってた鍋と違うが…いくつも持ってるのか?」


 その人間は、頭から首まですっぽりと覆う長鍋に除き窓と思われる穴を開けたヘルム?を頭に装備し・・・


「今日ぉ?・・・勇者サマと会ったのですか!?カメよ!」


「ババルだ!もう名前忘れたのか!つか勇者ってなんだ!?」


 ・・・手にその鍋の物と思われる蓋を盾のように持ち、背中には巨大なリュックを背負っていた、いくつかの道具がリュックに入りきらずに飛び出している


「まあ、わからないのも無理はねえ、テメェらに煮込まれてシワシワになった身体から、失った栄養を取り戻し見違えるように復活したのだからな!」


「煮込む!?クッキング?アナタを・・・美味しいのですか?」


「美味いって飲んでたろ?」


「デリシャス!?」


 表情は見えないが鍋男は明らかに歓喜した声で叫んだ後、プルプルと震えた


「おお・・おおう・・・」


「どうした?恐怖のあまり震えが来たか!」


「お・・おおう・・・何たる幸ッ運!!」


「何ぃ!?」


 鍋男は歓喜に打ち震え、身振り手振りで語り始めた


「鍋を被った勇者サマを見たアノ時から・・・そうあの時から!!」


「だから勇者ってなんだ!」


「コック長として、限界を感じていたボクに…光を与えて下さった勇者サマ♪」


「聞けよ!」


 ババルの声は鍋男に届かなかった


「勇者サマがお示し下さった掲示に従い…」


 鍋男は胸に左手を当て、右手を高く上げ手の平を開き・・・


「準備を進めるも異端と見なされ独房に囚われましたがッ!」


 その場で跪き、右手を顔の前まで下ろし強く握りしめ・・・


「脱獄に成功し、今はこうして自由の身♪」


 ・・・急に起ち上がって両手を広げてターン!


「あ~、農村に向かったという情報を頼りにここまで・・・」


 そのままジャンプしながらの3回転を決め、着地と同時にすべる様に上体を後ろに優雅にのけぞらせる鍋男


「だから聞けっつってんだろ!クソ人間!!」


 ババルの声が届いたのか動きを止めた鍋男、そして彼は一言答えた


「申し訳ありませんムッシュ!喋ると声が鍋の中で反響して聞き取りづらくなってしまう構造上の欠陥が有るとは気づかず!」


「じゃあ、外せ!そんなもん!!!」


 ババルの怒号が響いた!


「勇者サマを求めさまよう、そんな険しい道中!勇者サマをご存知だと言う魔物に出合い、しかも自らを美味しいと自己紹介!あ~何たる幸運!何たる運命!」


「まだしゃべるのかよ!」


 だがババルの声は鍋男に届かなかった。下っ端の魔物がババルに話しかけた


「ババル様?コイツが例のハイエナ共の新しいボスなんですか?」


「いや、よく聞くと声も違うし別人みてぇだな・・・」


「違うってんなら、めんどくせえから、景気づけに殺っちまいましょう」


 そう言って魔物の一人が鍋男に近づいた。鍋男は動きを止め、その魔物に語り掛ける


「あ~申し訳ありませんムッシュ、用があるのはその大きな亀だけ・・・小物には用はありません」


「舐めんじゃねぇ!」


 亀Aのひっかく攻撃!


「ガシン!」


 鍋男は鍋の蓋で攻撃を受け止め、腰から武器を抜き攻撃した


「ブォン!」


「っ!?」


「ガン!」


 亀Aは後ろに飛び引いた!攻撃は当たったが甲羅に弾かれてしまった、ダメージを与えられない


「なんだアレは!?」


 鍋男が振り回しているのは先端に重りがついた鎖だった。異様なのはその根元、鍋男が握っているのは食肉を骨ごと叩き切る四角い肉切り包丁で、肉切り包丁の背の先に空いた穴に鎖が付いているのだ


「ブンッブンッブンッ・・・」


 それをこの鍋男は鎖鎌の様に片手で振り回している


「ああ~、コック長として腕を振るいたくても生きのいい食材は無く、街の外は魔物ばかり・・・」


 魔物が警戒して近づかない事をいいことに、鍋男は語り出した


「勇者サマが鍋をかぶって森に迎い、戦って帰って来た時にさとったのです・・・・魔物は倒すと塵になる、なら、倒す前に料理してしまえば良いと!調理機具を武器にすればそれも可能おぉぉぉぉ!」

 

「ブン!」


 鍋男の攻撃!亀Aの頭に鎖が迫る


「うわ!」


 亀Aは頭を甲羅の中に引っ込めて躱した


「それは読んでいた!計画レシピどうり!」


「ブスリ」


 鍋男は引っ込めた頭に向かって身の丈を超える大きな鉄の串を突き刺し貫通させた!


「アッーーーーー!」


 亀Aに10ダメージ


「串が邪魔で頭が出せねぇ・・・これぐらいで俺がくたばると思ったか?魔物の生命力なめんなよ!」


「そんなこと思ってませんよ、下ごしらえです」


「ガシン!」


 鍋男はリュックから大きな携帯用の串焼きセットを取り出した、そう豚を一匹丸焼きにできる大きさの・・・


「ウェルダン!」


「ガンッ!」


 串刺しにした亀Aを勢いよく串焼きセットに乗せ、その衝撃で下の発火装置が作動し火がついた


「フフフフ~♪弱火でじっくりと中まで火を通しますからね♥」


「うわ、熱ちい!熱ちい!」


 鍋男はそのまま串にハンドルを取り付けクルクルと回して亀Aを焼き始めた


「まじで料理始めやがった・・・」


 魔物達は困惑している。鍋男は不敵に笑った


「フフ、待っててくださいね♪皆様も美味しくなっていただきますから♥」

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