第54話 バグり勇者伝説

 レベルアップのし過ぎでバグってしまった勇者は精神世界で更なるバグに襲われていた。ジョージアとの結婚式イベントを逃れようと足掻く勇者


「くそう!どうにか脱出する方法はないのか!?」


 女神と王が死闘を繰り広げている中、勇者は勇者で脱出する方法を考えていた


「そうだ!バグにはバグを!例えば扉を増やしてそこを移動したり・・・」


 ――――その頃、現実世界で亀型のモンスターに囲まれてしまった勇者の身体は・・・


「コイツはまさか、空間を操れるとでもいうのか!?」


 勇者はレベル14になった時に憶えたスキル、”幻想投影”を無意識に使っていた。このスキルは使用者の周りに幻影を作り出す。幻影の精度は使用者の想像力に依存する、イメージがしっかりしている程、幻影の効力が高まる


「ババル様!コイツは一体何なんです!?」


「ギィ・・・・・」


 亀型の魔物達は勇者が作り出す扉がどんどん増えていく光景に怯えている


「たかが扉が増えていってるだけだ!扉ごとぶち壊してやる!」


 亀達の中の一人が扉に殴り掛かろうとしたその時・・・


「でぇやああああああ!」


「スゥ・・・」


「え?・・・うわああぁぁぁ..........」


 その亀は何かのすき間に落ちて行った


「うわああ!下に地面がねえ!?う、上だ!上にある地面が遠ざかっていく!?」


 亀Aは幻覚に囚われた


「じ、地面の中に落ちていきましたよアイツ!?」


「次元の狭間に落としたのか!?なんて奴だ」


 亀型モンスターのボス、ババルは怯えながらも部下たちに指示を出した


「野郎共!下手に動くんじゃねえ!動いたら何されるか・・・」


「ババル様、アレを!」


「今度は何だ!?」


 自分を呼ぶ声にババルが振り向く――――その頃、精神世界の勇者は、精神世界の教会の祭壇まで続く階段を上っていた


「扉まで移動できなきゃ意味ないじゃないか!他に方法は…」


 階段をジョージアと一緒に一段一段ゆっくり強制的に登っていく勇者は考えた


「カッ・・・カッ・・・」


「そうだ!階段のすき間に飛び込めばいい!ポリゴンの壁を越えるんだぁ!!」


―――――その頃、現実世界の勇者の身体は


「シュッ!シュッ!シュッ!」

 

 勇者は壁に向かってスライディングを繰り返していた


「ババル様!何をしているか分かりませんがヤツが扉から離れた今がチャンスです!一気に仕留めてやる!」


「待て!これはきっとヤツの罠だ!」


 ババルの制止を振り切り、部下の一人が甲羅の中に身体を引っ込めて回転した!亀Bのスキル”甲羅砲弾”、勇者に攻撃


「ギュルルルルルルル!」


 だが勇者にジャンプされて躱されてしまった


「ぴょん」


「なに!?」


 回転しながら体当たりした亀Bは壁に当たって跳ね返り・・・


「カコンッ!」


 跳ね返った亀Bはジャンプした勇者に踏まれ跳ね返るそして再び壁にぶつかるの繰り返すとになった


「カコン!カコン!カコン!」


 ババルはその様子を見て怒りに震えている


「くっ!ヤツめ、俺達をもてあそんでやがる・・・しかしアレはなんだ?」


 勇者が亀Bを踏みつけるたびに1という数字が空中に上って行った


「ピロロッ!」


「ふぇ!?」


 謎の効果音と共に数字は勇者の姿に変化した!勇者はドンドン増殖している


「ピロロッ、ピロロッ、ピロロッ……」


「て、撤退だ!全員すぐに撤退を…みんなどこに行った!?」


 ババルの部下達はいつの間にか居なくなっていた


「はわ…はわわわ」


 ババルは100人の勇者に囲まれた、ババルは甲羅の中に引っ込んで震えている


「あ、悪夢だ…夢なら覚めてくれぇ!!」


「覚めるぅ?これから永眠すんだよ、お前は」


 ハイエナ達のボス、ボランの声が聞こえババルは頭を出し周りを見たが勇者に囲まれて見あたらない


「ん!?どこだ!どこに居るボラン!!」


「シュウ・・・・」


 勇者達が消え、ボランが姿を現した、ボランの周りには空になった甲羅を持ったハイエナ達が居た


「よお、雑魚共は先に始末したぜ」


「歯ごたえの無い奴らだったぜ!甲羅以外は」


「久シ振リノ、上等ナ、オニク、美味カッタ」


 ババルは引きつった顔で叫んだ


「お、お前ら今までどこに・・・あの人間はどこに!?」


「そこに居るぜ、まだ奇妙な事になってるが」


 勇者は梯子を下りる途中の様なポーズをして固まりながら、地面すれすれを浮かんで移動したり、その場で回転したりしている


「スゥ・・・・クルクル」


 勇者はMPが少なくなり幻想投影を使用できなくなっていた。勇者は残ったMPで飛行スキルを使い地面すれすれを飛んでいる。ババルは状況を理解した


「今までのは全部…幻覚だったのか!」


 驚くババルをハイエナ達は嘲笑った


「いまさら気づいたのか、マヌケな亀だぜ。ま、オレ達は目を塞がれても鼻で嗅ぎ分ければいいだけだったが」


「楽ダッタ、親分ノ、幻覚デ、ハグレタ奴、狩ルノハ」


 ボランはバキバキと腕を鳴らしてババルに近づく


「親分は弱い仲間を鍛えるのが趣味らしいぜ、特に一方的になぶるらせるのがお好みだ」


 ババルは勇者の前に跪き命乞いをした


「ひいい!お、お願いだ!俺も仲間に入れてくれ!だから命だけは・・・」


――――精神世界の勇者は・・・イベントが進んで神父の前まで来てしまっていた


「けっきょく何もできなかった・・・」


「なんじ勇者ユートはジョージア・クプウルムを愛すると誓いますか?」


「いいえ」


 勇者は迷いなくいいえを選択した。それは現実世界にも反映され勇者はいいえと答えた


「いいえ」


「そ、そんなッ、これからは貴方様に忠誠を・・・」


「いいえ!」


「そう言わずにどうか…」


 勇者は同じ言葉を繰り返す


「いいえいいえいいえいいえいいえ・・・」


「ひいぃぃぃ!」


 ババルは甲羅に籠った、ボランはババルに止めを刺そうと近づいた


「どうやら、ダメみてぇだな。甲羅から出ねぇ気ならこのまま煮込んでスープにするぞ」


 勇者は何かを諦めた表情をしてこう答えた


「仕方ないですね、はい」


「へへへ…親分の命令だ、悪く思うなよ」


「ひぃぃ!助けてくれえ!!」


 ババルは何処かに引きずられていった


「あ」


「どうしたんですユート親分?」


 勇者は何かに気付いた様に上を見上げた後・・・


「ドサ…」


 勇者は倒れた


「親分んん!?」


 ハイエナ達のレベルが上がった

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