第53話 勇者、悪夢にうなされて

 勇者が精神世界で戦っていたころ、気絶した勇者を介抱するハイエナ達は


「うう、親分しっかりしてください、俺達は一体どうすれば・・・」


「うう・・・」


 ベットに寝かされていた勇者が微かに動いたのを見て、ハイエナ達が勇者に詰め寄った


「あ、親分がうわ言を!」


「何か言おうとしてるな・・・何ですユート親分!俺達に何か出来る事は・・・」


「い・・・・」


 勇者は何かを言おうとしている


「い?」


 ハイエナの一人が勇者に耳を近づけたタイミングで、勇者は叫び暴れ出した


「いやだ…!まだボスを一体しか倒して無いのに・・・・次の世代に託すなんて!僕はもっと・・・冒険したいんだー!」


 この時、勇者は精神世界の教会を脱出しようと足掻いていた。ハイエナ達は勇者のうわ言に驚いた


「グリフォン1体だけでは殺し足りないと!?」


「バカ!親分が怪我する前に押さえつけろ!」


 勇者はハイエナ達にベットに縛り付けられた、ハイエナ達は勇者を恐怖が混じった尊敬のまなざしをむけている


「今にもくたばりそうだってのに、なんて闘争本能だ」


「ああ…、魔物としてうんぬんとかそういう次元じゃねえ・・・モノホンの殺戮者の中の殺戮者だぜ」


「自分の命より戦いが優先か、俺達はトンデモのない親分に巡り合っちまったみたいだぜッ」


「うー・・・」


 勇者はベットの中で唸っている


「さっきより大人しくなったな・・・」


 と、ハイエナが思ったのもつかの間、勇者が何かを言って暴れ始めた


「またきだした!」


「また疼きだしたのか!?」


「ミシミシ・・・バキバキ!」

 

 勇者が暴れる力に耐えかねてベットが崩壊し始めた


「うわわ、大人しくしてください親分!」


 そんな勇者に手を焼いているハイエナ達は外から大声で敵を知らせる声が聞こえさらに混乱した


「敵襲だー!」


「ええ!?こんな時に…」


「親分を運んで逃げますか!?」


「うごーーー!!」


 勇者はさらに暴れている


「こんなに暴れられちゃ無理だ、何が攻めて来たか知らねえが返り討ちにしてやろうぜ!」


 外に出たハイエナ達は勇者の居る家の周りを囲むようにして臨戦態勢を取った。しばらくすると・・・


「ドカン!ゴロゴロゴロ・・・」


「ガハハハハ!どうした随分手下の数が減ってるんじゃないかボランよぉ?」


「へっ、テメエらと違って殻にこもってるわけじゃないからな!亀野郎がっ!」


 ハイエナ型の魔物のボスことボランと亀の魔物のボスが組み付きながら転がって来た


「ボス…じゃなくてボラン!大丈夫か!?」


「カカカカカカ!まず自分の心配をしたらどうだ」


 ハイエナ達は亀型モンスター達に囲まれた!


 亀のボスはハイエナの下っ端がボランに軽い口調で話しかけたのを聞いて、ボランを嘲笑った


「ハハハハ!どうした?不甲斐無さ過ぎてボスの威厳まで無くしたかボラン!」


「ボスはもう引退したんだよ・・・ってテメエら何でまだ居る!親分連れてさっさとトンズラしろ!」


「バシン!」


 ボランは亀のボスが油断した隙に蹴飛ばし距離を取った


「それが親分が急に暴れ出して手が付けられなくて…」


 亀のボスは既にボランはボスの座を退いた事を知り、戸惑っている


「親分?新しいボスが居るのか。一体どんなヤ・・・」


「ギィ・・・・」


 亀のボスが廃墟だと思っていた民家の扉が開き、中から人間が出て来た


「ユートの親分!中で大人しくしてください!」


「くっ出て来きちまったか」


 ハイエナ達がその人間を親分と呼ぶ光景を見て大笑いする亀のボス


「ハハハハハ!親分とはそのひ弱そうな人間の事か!ずいぶん落ちたものよ!!」


「う・・・う…」


 勇者は一歩前へ出て外と室内の間に立つと、カクカクとした動作で地図を開いた


「ん?なんだ地図なんかを開いて・・・」


「ババル様、なんか扉が・・・」


 部下にババルと呼ばれた亀のボスは一瞬部下がなにを言ってるのか分からなかった


「扉がどうかし…たの・・・か?」


 勇者が開けたあの立て付けが悪い動かすと音が鳴る扉はいつの間にか閉まっていた。もし扉を閉めたなら音で分かるはずだ。それを見てババルは”あの人間は完全に外には出てなかったはずだ、だが少しでも動いた様子はない・・・しっかりと人間の姿は見えてはいるが扉の中に立ってる様な…なんだこの奇妙な感覚は?”と混乱した


「ギィ・・・・」


勇者は再び扉を開いた


「これは!?」


 勇者の側にもう一つ扉が増えた。ババルは”そこに扉があるのは構造的におかしい、それにさっきまでこんな扉は無かったはずだ”と目を疑った、そして勇者は増えた扉に移動しまた地図を開く


「また増えただと!?」


 どんどん増えていく扉、混乱する魔物達


「コイツはまさか、空間を操れるとでもいうのか!?」


 勇者はレベル14になった時に憶えたスキルを無意識に使っていた

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