第42話 ボス、お客様ですよ?

 勇者から逃れた魔物は頑丈な鉄で補強された扉の前にいた


「ボスー!開けてくれぇ!」


「ガンガンガンガン!」


 勇者から逃げていた魔物は中に入れてもらおうとドアを叩いた。扉の向こうから荒々しい野太い声が怒鳴る


「なんだ騒々しいぞ!」


「ボス、敵が攻め込んできた!、猫の耳を頭から生やした小娘と草食の銀が効かないゾンビが侵入して来たんだ!早く逃げねえと殺されちまう!」


 魔物は状況を説明したが・・・


「んだ?そりゃぁ?寝ぼけてんのかテメェ」


 まったく伝わらなかった。ドアの向こうから別の声がし、ボスと何か話してる様だった


「ボス、あの霧には幻覚を見せる作用があるのかもしれません。ヤツは見捨てましょう」


「なるほど、スットンキョウな事を言ってんのはそのせいか。聞いたか?お前はしばらく外で頭を冷やしてろ」


 ボスの返答に逃げのびた魔物は動揺した


「幻覚!?決してそんなんじゃッ・・・いや…まてよ」


 逃げのびた魔物は冷静になって考えてみる


「確かにそうかもしれねぇ・・・あんなもん居る訳がねぇよな。大体なんだ、ゾンビが走ったり自己再生するって、挙句の果てに草食だぁ?こんな事に気付かないなんてオレは相当イカレて・・・」


 そんな事を考えていると不意に背後から話しかけられた


「いや、草食なのは見ませんけど、最近のゾンビは普通に走るし自己再生するし変異までしだす、とんでもモンスターでしょう。ウイルスが進化し過ぎなのも困りものですよね」


「げっ、貴様たちは!」


「追いつめたわよ犬モドキ、覚悟しなさい」


「あん時の小娘とゾンビ・・・ってゾンビが蘇生されてる!?てか何だその頭は!」


 勇者は何事もない様に返答した


「ゾンビ?何を言ってるんです、僕はただの鍋を装備した勇者ですが」


「毒をくらったアンタ相当顔色が悪かったから見間違えたんじゃない?ゆうと」


 逃げられなかった魔物は勇者を見て ”やっぱ幻覚だ、こんな人間居るわけねぇ” と思ったが、ある疑問が頭をよぎった


「・・・ところでウイルスってなんだ?」


「ウィルスはまあ、菌みたいな存在で・・・ゾンビって人がウイルスで変異したものなんじゃ?」


「は?ゾンビは死体に悪霊が取りついたり、魔術で動きだしたりした奴らの総称だろ?」


「ああ、この世界でのゾンビはそういう存在なんですね。ゾンビに噛まれたら感染して自分もゾンビになるとかではなく」


「あん?ねえよそんな事、ゾンビの側で死んだら悪霊が入ってそいつもゾンビにってことは有るかもしれねぇが」


「よかった、ウイルス感染が世界規模で拡大して人々は大パニックで絶滅寸前とか起きないんですね」


「そんな便利な物があったら魔王様が使ってるわ!てか下手したら人類の敵という魔物のアイデンティティを奪いかねねぇだろそれ!・・・・って、幻覚のバカ話に何マジに返してんだろオレ・・・」


 逃げのびれなかった魔物は体育座りになり、自己嫌悪におちいった。不意にドアの向こうから声がする


「何か声が聞こえるが他にも誰かいるのか?」


 ドアの向かうから話しかけられ逃げそびれた魔物はハッっとし、起ち上がって扉にへばりつき半狂乱になって叫んだ


「幻覚じゃねぇえええ!開けろオイ!敵が直ぐ側に居るんだ!助けてくれ!!」


「ガン!ガン!ガン!」


「幻覚とかよくわからない事をごちゃごちゃと、冥土への土産はもういいかしら?ハイ、忘れ物」


 真理は逃げられなかった魔物の背中にに銀の燭台を押し当てた


「忘れモンって?え?」


「銀は良く電気を通すそうねぇ・・・ふふふ」


「やべえ!?」


 その頃、ドアの中のボスたちの様子は


「ガン…バタバタ…」


「アイツ何か一人芝居始めましたよボス」


「中に入れて治療してやれ、うるさくてかなわん」


「御意っす」


 ボスの部屋に居た側近に魔物がドアの取っ手に手をかけた瞬間


「ラガニン!」


「ぎゃああああ!」


 真理の呪文が放たれ、電撃が走った


「あわ、はわわわ・・・…」


 扉が開き中に居た魔物が塵になりながら倒れたが、直撃を受けたはずの逃げられなかった魔物は何故か塵にならなかった、まだ息があるようだ


「あれ?何でコイツ死なないの、耐性持ち?」


「金属のドアで電撃を受け流したんじゃないでしょうか?」


「ホンッット、しぶといわねコイツ」


 真理は燭台に引っかかった、逃げられなかった魔物を投げ捨てた


「ポイ」


「うぐ!」


「何だ貴様らは!」


 部屋の中からボスが勇者達を睨みつけ怒鳴る


「アレがボスでしょか」


「みたいね」


 勇者達は部屋の中に入って臨戦態勢をとった

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