第20話 王様は偉大ですよ?そうですとも

-------時はさかのぼり、勇者がさらわれて直ぐの頃。ゴードンは城に報告に向かっい王に謁見を申し出た。王は男装し謁見に応じた


「どうしたのだ、北の警備責任者であるおぬしが持ち場を離れ、直々に余に報告したい事とは」


「大変です!勇者がさらわれました!」


「なんと!」


「混乱を避ける為、兵士たちには口止めさせていますが噂が広まるのは時間の問題かと」


「それで誘拐の犯人は!?」


「恐らく、手口から察するに狂乱の魔女、アマンダ様かと。大きな袋を持った魔女が工房に向かったという目撃情報もあります」


 王は眉間を押さえ険しい顔をする


「当時、勇者召喚の儀に必要な神具が足らず、その問題を解決するため独自の方法で勇者の召喚を試み失敗し、失敗の副作用で狂ってしまった元王国最高の魔導士アマンダか……」


「アマンダ様は力を失い工房で療養中でしたが・・・力を取り戻したのやもしれません。即急に救出部隊を編成し向かわせるべきかと!」


「左様…であるな。よし、余が直々に指揮をとろう」


「王自らですか!?」


「勇者殿の報告は聞いているが少々無頼が過ぎる。ここで王国の威厳を見せておかねばな」


「おお!」


 勇者に奇行が多い事にはゴードンも頭を抱えていた。”こっちも勇者さんには困らされてきたからな。王自ら動くとなれば勇者さんも態度を改めるだろう”と期待に胸を膨らませていると、王が口を開きメイド長を呼んだ


「シンシア」


「はい、お呼びでしょうか」


「直ぐに馬を用意しろ、王国一美しい白馬をだ」


「は?」


 シンシアは困惑した顔で王を見ている。ゴードンも”馬が要るのはわかるが…王国一美しい白馬?”と混乱している。王は気恥ずかしそうに続けてシンシアに要求する


「剣や鎧も…ああそうだ!この前、式典用に用意した物があるだろう!それを用意しろ。うん!それなら王として会っても勇者殿だって…」


 シンシアは本来なら不敬にあたりそうなジト目で王を見つめ言い放つ


「ジョージ王様・・・デートじゃないんですよ?」


「わ、わかっている!ただ王の威厳を高めるには多少身なりをだな…」


「ではお聞きしますが、肝心の救出部隊はどの様な編成にしようとお考えです?」


「そ…それは、えーと」


「…考えていなかったんですか?」


 シンシアは怒りの表情を露わにする


「そんな事は無い!そっそうだ、屈強な戦士をそろえればよかろう!そう、その者の隣に立つと偉大な私が女に見えてしまうほどにゴッツイ連中を!」


「王の威厳を高めると言う趣旨はどこ行ったんです!?」


 シンシアの怒りの声で王は委縮してしまった


「え、ああ…そうだな…そうよね」


 ”一体どうなってんだこの状況”とゴードンは跪いたままストレス性の胃炎に耐えている。シンシアは落ち着きを取り戻しこう続けた


「あまりの緊急事態と情報不足で王は混乱しているようですね。私が勇者が工房に行き情報収集を行いましょう、可能であればそのまま私が勇者様を救出します」


「シンシアそれでは…」


「いいですね?」


「うん、分かった、その方に任せる」


 王は渋々シンシアの提案を承認した。シンシアは指を鳴らしメイドを呼んだ


「パチン」


「どの様な御用でしょうかシンシア様」


「話は聞いていましたね?私が留守の間、ジョージ王様の警備を強化しなさい。城からは一歩も外に出さない様に」


「かしこまりました」


 メイドに囲まれた王は涙目になってシンシアの名前を呼んだ


「うう、シンシアァ」


「王様。めっ!」


 ゴードンは口を開け指示を仰いだ


「あのぉ、そうなると自分はもう下がっていてもよろしいのでしょうか?」


「ええ、北門の兵士達の士気を立て直す事に尽力してください」


「了解しました。失礼します」


 ゴードンは帰って行った。ゴードンの姿が見えなくなったころ合いにシンシアは指でクイクイとメイドの一人を呼び耳元で小声で指示を出した


「ジョージア様の正体に気付いた恐れがあります。しばらくあの男の監視を」


「御意」


 指示を受けたメイドは姿を消し、衣装を着替え変装しながらゴードンを追跡した


「うーん」


 城を出たゴードンは腕を組んで考え事をしている様子だった


「今までずっと疑問だったが・・・、ユリウス様が消えてから急に現れた隠し子ジョージ様の存在・・・・そして今日のあの態度・・・うーん」


「気づいたか・・・」


 ゴードンを追跡していたメイドは毒の吹き矢を準備しながら後を追う


「ジョージ王様のとほぼ同時に親衛隊も女性のみのメイド部隊に置き換えられ・・・・そうか・・・ジョージ王様は!」


「王国のため、恨むなよ」


 メイドが吹き矢を今まさに吹こうとしたその時


「男色家だったのか、そりゃあ政治的に不味いし隠すよな。あーだから女だけで囲ってるのか。スッキリした」


「むぐ!?」


 ゴードンの言葉にメイドは動揺して吹き矢を逆に吸ってしまった


「むふぅ!ぐふ!針が刺さったか!」


「どうしたい、ねぇちゃん?具合悪そうじゃないか」


 ゴードンは苦しむメイドに気づいて駆け寄った。メイドはばれないように口に含んだ矢と吹き矢をとっさに隠した


「ぺっ。い、いえ大丈夫です」


「いや顔色が凄く悪いぜ?・・・ってちょっと!」


 メイドは倒れてしまった。ゴードンはメイドの正体に気付かず看病した


「む!この症状は毒虫だな、どこを噛まれた?」


「手馴れてますね・・・」


「最近、傷の絶えない新人の面倒を見ててな、勉強してるんだよ」


 ゴードンの応急処置のおかげでメイドさんは助かりました



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