第10話【2027J05131530佐川ユウ 1-5 】
「そういえば水野さん……」
俺は水野さんを追ってここに入ってきたことを、昨日の続きを読もうかと漫画に手を伸ばしたところで思い出した。
水野さんは歴史資料室に入ったのだろうか。それともこの空間に入ったのだろうか。
「探すか……? しかし……」
どう考えてもこの空間は異常だ。俺は学校の二階の歴史資料室にいるはずなのだ。なのに空、砂、消えたコンビニ……出れなくなったらヤバイし戻ろう。
百メートルほど離れた歴史資料室の扉に向けて歩き始めると、後ろから地鳴りのような音が頭に響いた。
「なんだ?」
振り返ると、コンビニよりさらに向こうの何もない空間に、ナイフで切ったような裂け目が出来ていた。その手前に人影が見える。誰かいるな、水野さんだろうか。
地鳴りのような轟音と共に空間の裂け目がさらに広がり、そこからでっかい建物……ビルがゆっくり出てきた。
「なっ……!」
びっくりして思わず大声を出してしまった。
なにやら吸い込むような動作をしていた人影の動きがピタリと止まった。
人影がゆっくり俺のほうを見る。こちらに気付いたようだ。人影が右手をゆっくり上げる。あ、挨拶……かな。違うの……かな。人影の右手が勢い良く振り下ろされる。
「うわっ!」
瞬間、空気の塊のようなものが俺の左側を通過した。
「う……いっつ……」
耳が痛い。そして左のほっぺがちょっと切れている。
「ヤ……バイぞ、これ!」
直撃していたらどうなっていたか。なんなんだアイツは……友好的じゃないのは明らかだし、逃げるが最善か。
「くそっ……」
入ってきた扉まで走るが、いかんせん砂。うまくは走れない。
振り返るとまたアイツが右手を振り上げている。扉まではまだ五十メートルは余裕である。
「ヤバイどころじゃねえ!」
必死に走るが、思うように走れず焦るばかり。砂じゃなきゃもうとっくに着いているような距離なのに。
真後ろで何かが弾かれた金属音。突風が俺の横を通り過ぎる。
「なんであなたがここにいるのよ」
女性の声。
ゆっくり振り返ると、そこには水野さんがいた。俺のほうは見ずに、背中を向け人影を睨んでいる。
輪転十一世界のか弱き少女 影木とふ@「犬」書籍化 @tohutohu472
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