第9話【2027J05131530佐川ユウ 1-4 】

 


 放課後到来。


 周りにそれとなく聞いてみたが、やはり三原先生のことを知っている人はいなかった。

 寝てる間に俺だけ違う世界にでも飛んだのか?


「夜、来れたらインしろよ。レア武器渡すから」

「ああ」

 高橋と別れ水野さんを見ると、ちょうど教室から出て行くところだった。

 まぁ……変なことを聞くのだから、教室よりは廊下や外がいいだろう。俺は不審者のごとく後を追う。


「じゃーなー」「まったねー」

 帰宅する人、部活に行く人で賑わう廊下を無言で進み、階段を下る水野さん。

 帰るのだろうか。いや、二階に行くようだ。二階は音楽室や美術室など、専門の教室が集まっている。放課後は人も少なく静かな階となっている。今の俺にとっては都合がいい。


 水野さんは校舎の一番端にある教室で足を止め、携帯端末を取り出し何やら打ち込んでいる。友人へのメールだろうか。

 打ち終わると扉を開け、教室の中へ入っていった。俺も後を追う。

「歴史資料室」

 プレートにはそう書いている。

 こんなとこ、あったっけ? 歴史って……この高校って開校十五周年とかだったような。

 その歴史が詰まった教室なのか? それなら俺が知らないわけだ。興味ないし。

 

 さて水野さんになんて言おう……「やぁ、偶然だね」か……ダメだな。偶然会う場所にしては不自然だし。そういえば水野さんとは一度も話したことないな。まぁ関係ないか、告白とかしようってわけじゃあないし。クラスメイトが気軽に話しかけてきたっていいだろう。

 俺は扉を開け、一言。

「やぁ、偶然だね」

 ヤベ。他に何も思いつかなかったから、そのまま言ってしまった。

 ズブ……。

 ズブ……? なんか足から不思議な感触が伝わってきた。

「砂……?」

 驚いて足元を見ると、砂。

 扉を開けると、そこには見渡す限りの砂漠と青い空が広がっていた。

「……」

 確認の為に後ろを振り返るが、当たり前のように学校の廊下がある。前に砂漠、後ろに廊下。


「空が青い」

 歴史資料室は五階建ての校舎の二階にある。三階はさっきまで俺がいた教室があるのだが……上を見上げるとそこに天井はなく、抜けるような青い空。でも太陽はない。

「なんだこりゃ」

 夢でも見ているのか。いや、足から伝わるこの感触は間違いなく砂。

 ああ、なんだってんだ。朝から変なことばかり起きやがる。俺のイレギュラー処理能力はもう限界超えてるっての。

「……あれ」

 砂漠の左のほうを見ると、まばらに建物が見える。ビル、マンション、コンビニ。

「コンビニ?」

 どこにでもありそうなビルやマンションに紛れ、なんだか見慣れたコンビニがある。

 扉の位置を見失わないように、何度も後ろを振り返りつつ近づいてみる。


「……俺のコンビニだ」

 この外観、商品の位置……三年近く立ち読みの為に通い詰めたんだ、見間違いはない。

 昨日まであったのに、今日突然無くなっていたコンビニがここにあった。

 自動ドアの前に立つが、開かない。まぁ、砂漠の中にポツンとある状態だ、電気は通ってないわな。当然店員なんていないので、扉をこじ開けて入ってみると……あった昨日立ち読みした漫画達。


「どういうこった」

 昨日までマンションに挟まれる形で建っていた俺のコンビニが今日は無くなっていて、両脇にあったはずのマンションが隣接して建っていた。まるでコンビニのあった土地が無くなって縮んだように。そしてここにそのコンビニがある。

 頭の理解が追いつかない。頭のいい高橋ならこの状況、何て言うだろうか。

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