第6話【2027J05131530佐川ユウ 1-1 】




 春、俺はこの高校に入ったことを少し後悔していた。




「いいかー今日までのところを範囲として、明日は小テストやるからなー」


 どう見ても英語が出来るようには見えない、筋肉ガッチリ男性英語教師が思い出したように言い放った。

 教室内に巻き起こる激しいブーイング。


「そう嫌がるな。小テストの問題の何問かはそのまま期末テストに出すつもりだから、今やっておくと点数稼げるぞ」


 ほう、それはいい話じゃあないか。今度は賞賛の三原コールが起こる。



 本日の授業終了のチャイムが鳴る。

 明日テストか……って三原の英語の授業って明日の一時間目じゃんか……うわ、学校来てからやったんじゃ無理か。帰ったら勉強かぁ。


「佐川、今日も夜九時ぐらいからレアアイテム狙いにいこうぜ」


 帰ろうと思ったら友人からオンラインゲームの誘いを受けた。


 ……遊びたい、ああ遊びたい。だが、頭悪いくせに自分が狙えるランクの遥か上の高校を受験。そして体力テストだけズバ抜けた結果を出し、運良く目をつけてもらい運動特待生として入学した俺にとって、苦手なペーパーテストで少しでも点数稼げるチャンスは逃したくない。案の定、授業に全くついていけてないし。


「……いや、俺は今日勉強するんだ。すまんな高橋」


「そっか、お前成績やばいもんな。よし分かった、明日の小テストで俺より点取ったらお前が欲しがってたレア武器やるよ」


「マジかよ! 約束だからな!」


「はは、まぁお前じゃ無理……」


 嬉しさと興奮のあまり、友人の言葉の途中で残像を残しながら教室を出る。速攻帰って勉強だ!

 転げる寸前の速度で玄関へ向かい、靴を履き替え、マイ自転車に跨り、競輪選手並みのモーションで全力漕ぎ開始。

 しまったな、同点でも貰う約束するべきだった。……いや待てよ、高橋って高校入ってすぐの学力テストで英語満点だったよな。そして総合で学年十位だったな。


「……」


 冷静になって考えると、どんどんテンション下がってきたぞ。


「はは、お前じゃ無理だろうけどな……って言いいかけてたのか。くそぅ」


 自転車を漕ぐ速度も落ちてきた。さっきまで五百オーバーもあったやる気ゲージが三十まで急降下。いつものコンビニで停車。今月発売の漫画雑誌を読み始める。

 ここで数値はゼロまで到達。短くて折れやすいな、俺のハート。



「ありがとうございましたー」


 スーツの男がコーヒーを買って行った。

 ここのコンビニは戸数の多いマンションに挟まれているせいか、いつ来ても混んでいて立ち読みがしやすいのだ。すいません店員さん……高校生の俺にとって五百円は貴重なのです。

 五冊ほど読破し、満足気にコンビニを出て帰宅。




「英語、英語ねぇ……」


 夕食後、一応英語の教科書を開き眺めてみるが、何度見ても意味のある文字の羅列には見えない。

 俺は今後、日本からは絶対出ないことを胸に携帯端末を掴む。パソコンのオンラインゲームはアイツいるだろうし……勉強するって言った手前、ログイン出来ねーし。しかし高橋はなぜ成績がいいのだろうか。大体同じ時間オンラインで遊んでいる仲なのになぁ。


 疑問を抱きつつ二十四時、就寝。

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