第4話【2037K12241814甘屋ふじ子 1 】




「行った……か……」





 深い、深い溜息を吐く。



「もうここには来るなよ、水野ちさ。そしてそこにいる十回目の私を救ってやってくれ」


 この全てが失敗した世界は私が責任を取る。


「くく、しかしこの私が十回も失敗するとはな……」


 ああ、あいつがいれば……どうなっていたのかな。





 研究室に別れを告げ、ゲートへと向かう。


 最後にあいつの名前を見ようと記憶の部屋に行ったが、あいつの名前を見てしまうとそこで泣き出してしまいそうで、部屋の扉を開けることは出来なかった。


 未練……私の全て……私の……ああ。


「だめだ……」


 途中、施設の自販機で飲み物を買う。


「……あっまっ……砂糖の塊かよ……」


 普段、にがいコーヒーしか飲まない私には甘くて飲めた代物ではなかった。


「くっそ、なんであいつこんなあっまい飲み物が好きだったんだ」


 飲んだのはグレープジュース。本来ラインナップの予定はなかったのだが、私が無理を言って自販機に入れてもらった。


「あいつとキスするとこんな味なのかな」


 こんなことなら千夏に遠慮なんてしてないで、キスの一つぐらい無理矢理しておけばよかった。


「はぁ……」


 結局半分も飲めずにギブアップ。


「ち、半分はあいつにやろう」


 記憶の部屋の前に飲みかけの缶を置く。


「………じゃあ、行くわ。お前に会いに行って来る」




 誰もいない施設に私の足音が不気味に響く。




 ゲートオープン。あいつのことを強く想う。


「くく、格好いいじゃぁないか、私。最後の一人になっても立ち向かって行くとか」


 覚悟を決めゲートをくぐる。



 砂漠を埋め尽くすほどの数の黒い個体、その向こうに浮かぶ圧倒的質量の巨体。


「くく、待たせたな。私が最後の邪魔者ってやつだ。見事この私を殺せば、お前等の完全勝利だ。おめでとう!」


 両手に特大ライフルを構え、最大火力でぶっ放す。


「雑魚に用はない! どけぇ!」


 光の貫通弾が小さな個体をなぎ払い、ど真ん中に出来上がった道を突っ切る。

 脇から大型の個体が覆いかぶさってきた。


「くく、お仲間ごと潰そうってかい!」


 両手のライフルを状態変化させ、三メートルを超える巨大な対艦砲を地面に突き刺す。


「砕け散れ!」


 足でトリガーを踏み、覆いかぶさろうとしていた個体の腹に大穴を開けてやる。

 そいつの背中から無数の小さな個体が飛び掛ってくる。


「へぇ! お前等にも連携とかいう頭があるのかい!」


 対艦砲を変化させ、出せる限りのライフルを左右に展開。


「喰らえ……輝く十一の処刑台オールレンジメイデン!」


 十一の光の槍が空に向かって発射される。


「ははっ、汚い花火じゃないか!」


 次々と小さな個体が蒸発していく。しかし全ては落としきれず、私に向かって小さな個体が降りかかってくる。


「ぐっ……くく! はははははは!」


 小さな個体に数で抑えられ、右腕を喰われてしまった。


「ははは! 美味いか! 私の腕は!」


 私は左手でコントロールしきれる全てを使い周囲をなぎ払う。


「どけよ! 私はお前に会いに来たんだ!」


 最後と悟った私は、空に浮かぶ黒い龍に向かい走り突進していく。

 大型の個体、数十体が私とあいつの前に立ちふさがる。


「あはははははは! そんなに私が嫌いか!」


 私はライフルを放つも、二体ほどを溶かすだけで残りが一斉に襲いかかって来た。


 足をもがれ、腹を喰われ、私は地面に叩き付けられる。


「くく……例え……例え望みの全てが打ち砕かれようとも、我々の心が砕かれることはない」


 なぁ……。


「なぜなら砕かれた望みの先に、また新たな望みが生まれるからさ!」


 なぁ……そうだろう……。


「我々人間の欲の深さを甘くみるなよ! 必ず我々の世界は返してもらう!」


 なぁ……。


「ハヤトぉぉ!」


 私の声に呼応したか、龍が私に向かって突進してくる。


「はは! ありがたい! さぁ、私を抱け! お前の欲のままに私を汚すといい!」


 残った左手のライフルを地面に突き刺し、最大火力で発射。


 私の体は反動で宙に上がる。龍は大口を開け私を喰らいに来た。




「あとは頼んだぞ……クソガキ共」



 ああ……やっと終われる。

 結構疲れたぞ……くく、この報われないで終わるあたりが実に私っぽい。




 満足だ。




「満足過ぎて涙が出てきたぞ、ははっ……」

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