第3話【2037K12241711水野ちさ 1-3 】



「ついて来い」



「はい」

 

入るとまた扉、そこも開けさらに中へ。


「ここは……?」


 そこはかなりの広さの空間、天井も高くよく分からない装置がひしめき合っている。

 空中に浮かぶ多数の光るモニター、そして部屋中央に異彩を放つ大型の丸い装置。


「な、なんです……ここ」


 一瞬未来にでも来たのかと思うような空間。


「くく……ここは来てはいけない部屋。ここに来るということは、失敗したということ」


 甘屋さんが少しうつむき気味に言う。


「……意味が分かりません」


「それでいい。分からないまま聞け」 


 巨大な丸い装置を手際よく起動し始める。圧が解放された音が鳴り、小さな扉がゆっくり開く。


「なぁ水野ちさ、有象無象の輩しかいないなか、お前はよくここまで戦った。褒めてやる」


「……ありがとうございます。どういう意図かは分かりませんが、言葉通り受け取っておきます」


 この人が他人を褒めるなんて初めて聞いた。


「お前は好きな男はいなかったのか」


「……いないです」


 好きな男? なぜ今そんな話を? やっぱりこの人は分からない。


「そうか。そんな暇はなかったってやつか。まぁお前はいつもそうやって余裕のない感じだったからなぁ」


 当たり前だ。とにかく強くならなくてはならなかった。他人になど構っている時間なんてない。そして私は強くはなれなかった。


「がむしゃらに追い求めた強さは手に入らなかったか」


「………はい」


 お見通し、か。


「私が弱かったからこうなってしまった……私がもっと強ければこんなことには……」


「くく……そうか、では強くなれ。そして我々が成し得なかった未来を切り開け」


 ……? 成し得なかった未来?


「お前に全てを託す。私はもう疲れた……そしてその役目は私ではなかった……」


 甘屋さんが私を丸い装置の中に押し込む。


「ちょっ……何を言っているんですか! なんですか、これ!」


 装置の中は私が余裕で立てる高さと広さ。頭上に何かの発射装置っぽいのが付いている。


「受け取れ」


 甘屋さんが何かを投げてよこし、扉を閉めた。受け取ったのは金属の球体状の物。


「それを私に渡せ。いいな」


「甘屋さんに渡す……? 正気ですか! 何を言って……」


 装置から重い音が鳴り出した。ぐっ……これは耳にくる……なんだこれは。


「押し付けるようで悪いが、もうこれしかないんだ……私では何も変えられなかった。私では……だめだった」


 装置の作動音のせいで、甘屋さんが言っていることがあまり聞こえない。


「甘屋さん! 説明を……!」


「悪いな、知っているとだめみたいなんだ。頑張ってくれ、水野ちさ」


 装置内部正面にモニターがあり、外の甘屋さんが写っている。何事か言っているみたいだが、聞こえるのはこのひどく頭に響く装置の作動音のみ。



「さよならだ、水野ちさ」



 モニターの甘屋さんが笑った。とても……悔しそうに、とても……悲しそうに。


「甘屋さん!」


 私の声と同時に青い輝きに体が包まれた。頭上の発射装置が放ったものみたいだ。


「ぐぅぅ……」


 な、なんだこれは……体が溶けていく……青く輝く光が私の中に入ってきて……体ごとどこかに持っていかれる感覚。痛みはない。


「甘屋さん! これは……何……」


 最後まで喋りきる前に、視界が完全に青に包まれ何も見えなくなった。




「青い線と面……重なって……螺旋……」





 体が引っ張られ、流れる線の下のほうになんとか乗る。

 ここから上にはもう行けないのか。








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