第2話【2037K12241711水野ちさ 1-2 】

 


 あいつらの追手がやってきた。前線の彼等はどうやらやられてしまったようだ。

 

 

 もはやこんな世界に未練などない。弱い私なんて生きている意味などない。

 

 誰もいなくなった世界で生き残ったところで、むなしいだけだ。


 もはや武器を握る力すら沸いてこない。私がいつも使っていた剣と銃はこんなにも重いものだったろうか。よくもこんな重い武器を振り回していたものだ。

 

 未練……か。そうだ、一つあったかもしれない。私は恋というものをしたことがない。

 そんな暇はなかった、なんて言い訳もあるが、異性を好きになるという感情は私にはあまり沸いてこなかった。まわりの人達は普通に恋をし、幸せそうな顔をしていた。



「自分のことですら嫌いなのに、誰かを好きになれるわけがない」

 


 好きになれるわけがない。こんな弱い私が。

 

 自分の弱さすら克服出来ない私に、他の誰かを構っている時間はなかった。

 

 だからずっと一人で戦っていた。自分の弱さを消すために。


 長友さんは唯一、気を許せる人だった。何も話さない私に、優しい笑顔で今日あったこと、これからやってみたいことを話してくれた。戦いが終わったら旅行に行こうと約束もしていた。


 その長友さんもさっき死んでしまった。他の人もおそらく。


「人を好きになるって……どういう気持ちなんだろう」


 私がその答えを得ることはない。


 周囲を囲まれ、もはや逃げ道などない。逃げるつもりもない。





「水野ちさ!」


 上空から光の柱が降ってきてあいつらが消し飛んで行く。


「……甘屋さん……」


「来い! 水野ちさ!」

 

 甘屋ふじ子さん。組織の立ち上げ当時からいる技術開発のトップの女性。

 

 年齢は三十台前半だろうと思う。不思議な人で、素性は不明。一度調べてみたことがあるが、何一つ情報が出てこなかった。この組織のほぼ全てを作り上げた人物、と言ってもいいぐらいの人。


「一度戻る!」


 戻る? 戻ってどうするというのか。戻ったところでここを喰われれば意味などないというのに。いや、甘屋さんがそれを分からないわけがない。


「どういうことでしょう」


「話がある」


 ……話。なんだろう、もう時間なんてないのに何を話すというのか。


「ここはあと一日はもつ」


 相変わらず不思議な人だ。今までの侵食速度などのデータから算出した数字なんだろうか。



 ゲートをくぐり、元の世界へと戻る。


 窓から見える風景が変わっている。もうこの建物周囲ぐらいしか残っていない。その先は何も見えない暗闇。そしてその暗闇がどんどんこちらに迫ってきている。


「もう……海も無くなってしまった」


 少し悲しいな。


「こっちだ水野ちさ」



 甘屋さんが建物の地下へと進んでいく。


 着いたのは甘屋さんの研究室。壊れた機械、作りかけの装置、何かのパーツが散乱していて地面が見えない。何度見てもこれらはガラクタにしか見えないが、何かの試作機なんだろう。


「この先だ」

 

 甘屋さんのデスクの後ろの壁が左右に開く。

 

 こんなところに隠し扉……? 秘密の研究所となっているのだろうか。甘屋さんの作る装置や機械類はとても完成度が高い。

 ここの施設も、現代では不可能と言われている技術がふんだんに使われている。完全にオーバーテクノロジーなのだが、疑問に思う暇などなかった。甘屋さんの技術、知識が無ければ我々はここまで戦えなかった。本当に味方で良かったと思える人物。過去の経歴も一切不明で、一体何者なんだろう。

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