第六話 2日目

以下、「180度回転させた2」を「T」で表記し、「180度回転させた3」を「E」で表記することにする。


目覚まし時計が鳴る。ベッドの横の時計だ。私は時計を止めたが、その時に奇妙なことに気が付いた。時計の動きがいつもと違う。短針と分針はいつもと同じようだが、秒針がいつもより遅い。よく見たら秒針より細い4本目の針がある。どうやらこの針は秒針の約2倍のスピードで回っていて、この針が1周すると秒針が12分の1回転するようだ。

変わっていたのは針だけではない。文字盤の数字も10以降が変わっている。10時の所にはTが、11時の所にはEが、12時の所には0が書かれていた。また、数字と数字の間の小さい目盛りも5個ではなく12個になっていた。


私はこのいつもと違う2本の針を無視して、短針と分針だけを読むことにした。


30分ほどたって、私は検査に呼ばれた。今日は一人しか検査員が来ていない。


『本日は物性検査を行います』


どうやら日本語を話せる人が来たらしいが、物性検査などというのは私は聞いたこともない。


「物性検査とは何ですか?」


『物性検査とは、そちらの世界で言うと体の柔軟性の検査です。具体的には、関節の可動範囲を測定します』


「柔軟性検査ですか」


『はい。では、検査場へお連れします』


そう言って連れられたのは、何もない体育館のような場所だった。そこには、検査員が2人いた。一人は記録用紙らしきものを持っている。


『では、検査を開始します』


そういうと、検査員たちは私の関節を限界まで押してそこに透明な円盤をあてていった。私はふと気が付いた。この円盤はあの時計と同じ目盛が振られている。どうやら、この世界では12が基準になっているようだ。きっと十二進法なのだろう。


検査員たちは関節を次々と押し込んではその角度を測る。検査員が何を言っているのかわからないが、多分部位と角度だろう。


検査員たちは何十個もの関節の柔軟性を試した。そして一人が外に出る。しばらくして、最初の人と一緒に戻ってきた。


『これで、物性検査は終了です。では、最後の検査室へ移動します』


「検査は次で最後ですか?」


『はい。次の検査を行っていただければ、あなたは元の世界に帰ることが出来ます』


「次で帰れるのですね!」


『その通りです。この検査が終わったらすぐにあなたを帰します』


「それはよかったです!」


そして私たちは最後の検査場へと向かう。


そこには、スピーカーのような装置が置かれていた。


『では、今からこの機械が音を出すので、それと同じ音を出してください』


どうやらこれは音域検査のようだ。機械の音が鳴る。音の高さはmid2Gぐらいだ。機械には「1.000」と表示されている。私は声を出す。


「あーーー」


『はい、それでいいですよ。ここから、少しずつ音を高くしていきます』


機械に表示された数字が変わる。小数第一位が見たことのない数字になっているが、おそらく十二進法だろう。音はさっきの音から半音2つ分程度上がったように聞こえる。


「あーーー」


さらに音が高くなる。機械の数字が小さくなる。だんだん苦しくなる。hiF辺りで限界が来た。

私が声を出せなくなったところで、いったん機械音が止まった。


『高い方はこれで終了です。次に低い方を調べます。』


機械の表示と音が最初に戻る。


音はだんだん低くなる。表示の値はだんだん大きくなる。「2.600」と表示されたあたりで限界が来た。


『もう出ないですか』


「はい、きついです」


『これで全ての検査が終了となります。お疲れさまでした。』


私が検査室を出ると、そこには二人の人が立っていた。そのうちの一人が異世界語で私に話しかけるが、理解できなかった。もう一方が日本語で言い直す。


『今からあなたを元の世界に帰しますので、私たちについてきてください。』

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