1月目 高2の梅雨は雨が降らない。
1日目 羽瀬健人は、良くも悪くも目立つ…
ここは、風海市の海岸にほど近くにある私立成風学園高等学校。男女共学で、生徒数は1,500人弱の中規模の学校だ。1学年500人程で各学年A~L組まであり一クラス42、3人の生徒が日々を過ごしている。
成風は私立というだけあってその設備の豪華さは県内トップクラスで、その上、成風学園が大学も運営しているために、各施設に良い指導者がそろっている。生徒数の問題もあり巨大な校庭をはじめ、体育館4つに格技棟が2つ、屋内水泳場が3つうち一つは、水泳協会公認の水泳場で、年に3回ほど競技会が開かれるほど立派なものだ。そんな恵まれた環境で部活や勉強に励みたいという生徒が多く集まる中、部活に入らない生徒はかなり少ない。その少数派に属するのが、羽瀬健人とその親友の倉科拓也だ。拓也は特にやりたい部活もなかったということで、入らなかった。しかし、健人曰く、
「スポーツとか音楽とかって、たまにやるから楽しいんじゃん?だから部活に入んない方が、なんつうか……フリーランス?に動けるじゃん?」
だそうで、どこの部活にも入らず、呼ばれるたびに拓也を引っ張って行っては、かなりの成果を上げる。
そのために、健人は異様に顔が広い。そのため、休日のたびに遊びに出かけ、拓也が引っ張りまわされる。おかげで拓也は周囲からセット扱いされている。
5月9日 月曜日 3限後の休み時間_____2年C組
3限終了のチャイムが鳴ると同時に、教壇に立つ女教師、佐渡風音が学級委員に号令を促す。それにこたえるようにふわりとした声が静まり返った教室に響く。
「起立っ……」
それを合図にクラスメイト達がガタガタと立ち上がり始める。ハリセンで文字通り叩き起こされ挨拶をした直後に再び突っ伏して寝息を立てて寝はじめた健人以外全員が立った。しばしの沈黙が流れる。それに気が付いた拓也が健人の座っている椅子に強めに蹴りを入れる。ガコンッという強い衝撃に驚き飛び上がる勢いのまま健人が飛び起きそのままの勢いで立ち上がる。その瞬間を逃さず再び凛とした声が響いた。
「礼。」
「「「「ありがとうございましたー」」」」
号令の直後、声をそろえて挨拶をした。それに笑顔で答えた風音が、頭が回っておらずキョロキョロとしている健人に向けて
「羽瀬くん……居眠りについてお話がありますからお昼休みに生徒指導室に来てくださいね」
呆れたように苦笑いを浮かべて教室を出ていく。状況が呑み込めずに唖然とする。
「え……あ、はい」
そんな親友の姿がかなり情けないと感じつつ拓也は、健人の肩に手をまわし肩を組む。一瞬教室内で黄色い声が上がるが、それを無視して、憐みの表情を浮かべつつ耳元で囁く。
「よかったな健人。風音先生の個人指導のおさそいだぞ。」
直後、健人は顔を青ざめさせて、げんなりとする。
「うへっ……マジか……先生、説教となると容赦ないからなー……ってか、今と言い…さっきと言い…拓也は俺に容赦がなさすぎるぞ」
思い出したように健人が拓也に批難の声をこぼす。ふいにふんわりと柔らかい声音がすぐ後ろからかけられた。
「ケン君、倉科君。二人とも、教室で不純な同性交友してると、妄想の餌食にされちゃうよ?」
肩を組んだままの状態で、首だけで振り返る。一瞬誰もいないように見えたが、視線を若干下に落とすとそこには、こげ茶色の前髪が目に微かにかかり後ろ髪を低い位置でまとめて胸の方に流している。少し見上げるような形で2人を見ているからかう様な表情には幼さが残っている。学校指定の瑠璃色のブレザーのすそから指が出る長さの制服は少し彼女には大きいようで少しだぼだぼな印象だ。灰色の薄いチェックの入ったスカートを膝上数センチで、黒いハイソックスを履いた少女、白石梓紗が立っていた。彼女は健人のお隣に住むいわゆる幼馴染で、このクラスの学級委員だ。
確かに、はたから見ると男が2人が肩を組みあって内緒話をしているのは、そういうのが好きな女子には、おいしい絵面だ。さっき一瞬教室が盛り上がった原因はそれか、と自分なりの分析をして納得しつつ、拓也はこのままだと少女と話しずらいと判断して、健人の肩から腕をどけて、振り返る。
「何だ白石か、一瞬風音先生が戻ってきたんじゃないかと思ったよ。」
「先生はこの後G組の授業だから流石に戻ってこないよ。それよりさっきはありがとね、ケン君居眠りしてて、号令掛けられないところだったよ」
少し頬を赤らめながらお礼の言葉を口にする。
「風音先生、全員が立つまで号令かけさせてくれないもんな……てか、俺に礼を言うよりこいつを何とかするの手伝ってほしいかな……」
親指を突き立て背後を指す。そこには、三度机に突っ伏そうとしている健人がいた。その姿は、さながらよいつぶれたおっさんの様だ
「それもそうだね……ほらケン君。次の時間こそはちゃんと起きててー」
委員長というより健人の幼馴染は大変だなとなんとなく思いつつ拓也は梓紗を手伝うことにした。
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