親友キャラ倉科拓也の波乱の日々

絢音 史紀

プロローグ 倉科拓也という男

高校2年になり1ヶ月が経過した。

5月09日(月)2限後の休み時間____

4月末からの長いゴールデンウィーク。世間では今年のゴールデンウィークは切れ切れだっただろうがこの学校では開校記念日も合わさり休日が、11日間にも及んで、多くの学生がそれを大いに楽しんだことだろう。しかし、俺、倉科拓也は親友である羽瀬健人に連れまわされてろくに休むことができなかった。

毎朝、携帯でモーニングコールをされたからだ。


ゴールデンウィーク1日目 a.m.6:30

枕元に置かれている携帯が賑やかな着メロを鳴らし出した。枕に顔を埋めていた拓也は、着信画面の表示もろくに見ずに突っ伏したまま耳に携帯を当てた。

「ん〜…もしもし…」

『あ、拓也?あのさ、今日、D組の○○さんたちとカラオケ行くから付き合ってくれ』

電話越しに能天気な健人の声が耳に届く。人を朝早くから叩き起こした彼はあっけらかんと言い放つ。それに対して、拓也は一瞬反応に困りつつ

「はぁ……?とりあえず……お前は忘れてることがある。まずは、名乗れ健人。次に、お前には眠りを妨げられた親友に対する言葉はないのか……あと、そういう予定は前日までにだな……」

『あははー悪い悪いー』

拓也のお小言が激化する前に健人が話をぶった斬り要件を話始めた。

『それより、今日これるの?拓也がこれるなら行く事にしてあんだけどさ……』

そう言われてしまうと拓也は弱い。健人の事はどうでもいいが、折角、勇気を出して健人を遊びに誘っただろう女子たちの気持ちを考えると断りづらい。拓也は少し考えたあと

「ま、別にいいけどな……」

ボソリとそう呟いた。それを聞い聞き逃さない健人がすかさず

『俺の為にありがとー流石親友!!』

どうやら大きな勘違いをしているだろう健人に拓也が言う。

「おめーのためじゃねーよ、バーカ」

『ん……?じゃ、誰の為?』

とぼけてるわけでもなく、至って真面目に聞いてくる健人に拓也は「なんでもない」とだけいって、集合場所等を聞き始めた。


こんなやりとりがあと10日程繰り返され、そのたびに拓也は健人の遊びに引っ張り回された。



当の本人はというと、休みの間の遊び疲れで、朝のHRの途中からずっと机に突っ伏すように腕を枕にして、静かに寝息を立てている。女子はその姿を遠巻きに見て、「羽瀬くん、あんな姿もいいよねー」などと呟きあっている。

羽瀬健人は兎に角持てる。人当たりが良く、ノリもいい。スポーツも出来て、身長もそこそこ高く、スタイルもいい。顔も男前で、高い鼻と優しげな目元、整えられた茶髪が爽やかさを出し、いかにも好青年といった感じだ。どこの部活にも所属していない割にスポーツ万能な為、助っ人として試合などに駆り出されているせいか、人脈が無駄に広い。そんな彼に欠点があるとしたら少し成績が悪いことと、超が付く程鈍いということだ。誘ってくれてる女子たちもただ暇だから遊んでくれてるくらいにしか考えていないようで、ゴールデンウィークも帰り際に女子たちに向けて、「また、暇な時遊んでねー」と、毎日の様に言っていたことからほぼ間違いないだろう。

それと一緒にいる拓也はというと、そこそこかっこいい整った顔立ちと平均よりもやや高めの身長。細マッチョに近い体格。髪は黒髪で前髪が瞼の上まで伸びている。さらに、切り目と無表情がクールさを出している。成績は上位で、スポーツもそれなりにこなす。かなりモテそうなものだが、健人の後ろに隠れているような現状だ。


 窓際の前から3番目の席に座る拓也は、暇なとき窓の外の風景を眺める。校庭では、体育着に身を包んだ女子がわらわらと集まり始めていた。少し駆け足気味な者も居り、もうすぐ3限が始まることをなんとなく匂わせる。

 そんなことを考えつつ、ぼんやりとしているとキィーンコォーンカァーンコォーンというチャイムの音が鳴った。それと同時にドアの開く音とともに、一人の女性が教室に入ってきた。整った顔立ちと鈴の様な茶色がかった瞳。長い黒髪を左で水色のシュシュで結っていて、どことなく大人の魅力を感じさせる。緩やかな曲線を感じさせるスーツもその要因となっているだろう。彼女は数学教師の佐渡風音先生だ。そしてこのクラス、2年C組の担任だ。


「みんないるね?と言いたいところだけど……居るからいいってわけじゃないんだよー羽瀬くん……」

教壇から降りて拓也の右斜め前の席で突っ伏す健人の席まで歩いて来て、懐に手を差し入れ、そこからがっちりと補強されたハリセンを取り出し、拓也を見た。

「羽瀬くんは、HRからずっと寝てるの?」

そう、笑顔で拓也に尋ねた。えーっと…すごく怖いんですが、口元はにっこりとかわいらしく緩んでいる。しかし、目が笑ってない。

「まぁ、そうですね……健人はホームルームの時から……」

拓也の声を遮るように風音先生は「はい」と手に持っていたハリセンを手渡す。

「えっ……あの……どうしろと……?」

柄にもなく盛大にきょどる拓也に向かって風音先生は

「フ・ル・ス・イ・ン・グ……いってみようー」

「グ」のタイミングで野球のバッターのようにエアバティングホームをして見せる。

「いやさすがに……」

拓也は冷や汗をかきながら反論を返そうとすると、笑顔で

「だって……私がやると体罰ってことになっちゃうんだもんー。それに、倉科くんは、羽瀬くんの世話係なんだから、そのくらいはやってもらわないと、ね?」

世話係ってなんだよ…と拓也は思いつつ仕方がなく風音先生の持っているハリセンを受け取る。


そして、羽瀬の横に立つと、大きく振りかぶり頭部に向かって思いっきり振り下ろした。


 スパーンッという音が鳴り響き、クラス中に笑いがこだまする。

 


 今日もまた始まる。主人公キャラに翻弄される倉科拓也の日々が_______



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