第5話 高校デビュー!!⑤

「どうやら、気にいってくれたようだね。これで、さっきの無礼を許してくれないか?」

 彼は本当に悪いと思っているのか、少しうつむきながら言った。

 何か、悪いことしちゃったなぁ~

 俺は自分が出来る、とびきりのスマイルをして、こう言う。

「もちろん。とても、このチョコ美味しいよ……これって高級なチョコだよね?」 彼はフッと元の明るい表情に戻り、嬉しそうに話してくれた。

「ありがとう。実はこのチョコ、僕が作ったチョコなんだ。」

「え? ほんと?」

「ほんと、ほんと。正確に言うと、僕がレシピを考えたチョコなんだけどね。僕の実家はケーキ屋だから、僕のチョコレートを買いに来てくれるお客さんも多いんだ。」

「このチョコ、めちゃめちゃ美味しかったよ。」

 この歳で商品を考えて、作れてしまうのは、素直にすごいと思った。俺には無い才能だろうな。柿崎はとても優しく、気さくで、そういう人が人気者になるんだろう。俺は計算して人気者になろうとしてる気がする。うーん、何か、俺って何なんだろう?

 柿崎との差というものを感じてしまう。でも、柿崎とは仲良くできそうだ。

「そういえば―――」

 柿崎が急に喋りだしたので、俺は耳を傾ける。

「ちょっと前ぐらいに……全裸男が出たって騒ぎが聞こえてきたんだけどさ、何か、チャラい系の高校生が女性を全裸男から助けたんだって。もしかして、その高校生って、君?」

 チャラい系? 俺ってチャラいのか? 地味だと思っていたからわからないね。

 俺は答える。

「まあ、多分……それは俺だと思う。そんな助けたなんて、たいそうなことはしてないけどね。あの、俺ってチャラいと思う?」

「チャラいね。」

 柿崎は、やや食い気味で即答した。うーん、チャラいって言われると何故か地味にヘコむな。

「ねえねえ、その全裸男の話を聞かせてくれよ。」

 柿崎は目をキラキラさせていた。よっぽど全裸男が気になるんだなぁ。俺はもう……あの変態を思い出したくない。さっきから原因不明の震えが発生してるからね。体が「もう、アイツのことを思いだすな!」と言っているように思えた。

「あの、悪いけど……そのことはあまり話したくないんだ……」

「あぁ……そう……だよね。ごめん。じゃあ、また」

 柿崎は途端に元気がなくなり、自分の席に戻った。

 よっぽど、全裸男の話が聞きたかったんだね! それを証拠に柿崎は、職を失ったサラリーマンのような絶望した顔をしていた。……仕方ない。

 俺は柿崎のところへ行き、話掛ける。

「あの、柿崎。ぜ―――」

 柿崎はグンっと振り返り、こちらにまたキラキラした目を見せてきた。

 コイツ、全裸男の「ぜ」だけで反応するほど、聞きたいのかよ!

 俺は話を再開する

「全裸男の話をしてあげるよ。」

 それから、長々と全裸男の話をしてあげた。柿崎は終始、ニヤニヤ、そわそわ、していたけどね。

 

 柿崎が質問する。

「で、その全裸狂いの男はどんなやつだったの?」

「まあ、イケメンだったよ。普通にしてたらモテるのにな。何か、むしろ哀れに思えてきたよ」

「「ははははははは!!」」

 俺と柿崎はお互いに笑ったよ。

 ドンっ!! 

 教室のドアが勢いよく開いたので、そちらを見るとそこには――――

 丸刈りで筋骨隆々きんこつりゅうりゅう、体格もデカく、凶暴な顔、何回か死線をくぐってきたであろう。そんな人物がいた。

 そいつは開口一番にこう言う。

「3秒以内に席に着けぇぇぇ!! 席に着かなかったらどうなるか、わかってるやろうな?」

 指をポキポキと鳴らして、俺らを脅していた。

 

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