第2章Bパート

 ようやく喪失感から立ち直った頃には、春休みはもう終わりを迎えていた。

 今日は昼から高校のクラス発表がある。

 午前中にラッキーの散歩を済ませると早めの昼食をとり、自転車で高校へ向かう。もちろんもう大丈夫だとは思うが、出発する前に自転車が壊れていないか念入りにチェック。ずっと染みついていた癖というのはなかなか変わらない。

 信号に一つも捕まることもなく順調に進み、無事高校に到着。もう既に学生玄関の張り紙の前は未来の高校生で溢れ返っていた。

 もしかしたら篠原さんがいるかもしれない。びくびくしながら辺りを見回す。 

 あの日以降、町で篠原さんを見かけることは一度もなかった。幸運を手にした今、僕は篠原さんの顔をちゃんと見ることができるのだろうか。

 だが篠原さんはこの場にいないようだ。ほっとした一方で、少し落胆している自分がいることに気が付く。いけないいけない。

 篠原さんがいないことを確認した後、掲示板を見に行くと一年三組のところに僕の名前があった。驚いたことに、篠原さんと同じクラスだ。

 しかし同じクラスになったからといって、篠原さんに浮ついた気持ちを持たないようにしよう。あんな目に遭わせておいて、会わす顔がないことは十分に理解している。幸運を手に入れたとしてもだ。

 ただ彼女に、罪悪感だけを抱いていればよいのだ。罪悪感だけを。




 春眠暁を覚えず。そんな諺は寝坊とトラブルが常の僕には無関係だ。それに今日は入学式当日。いつもの癖に加えて、窓を開けたまま寝ていたせいで、かなり早めに起きてしまった。


「閉じた空間にいてはならない」


 それが僕に課せられた誓約だ。この誓約のおかげで、ここ最近はぐっすりと寝られたためしがない。どこまでも落ちていくよりは余程ましだが。

 居間に向かうと母が朝食の準備をしていた。母は少し元気になったようだが、祖父、つまり彼女の父の死からまだ立ち直れていない。それでもスーツ姿にエプロンでフライパンを振っている。


「ごめんね悠。今日の入学式、仕事で出れなくて」


「いいよ母さん。もう高校生だしね。それじゃ行ってきまーす」


 朝食を片づけ玄関へ向かうと、ラッキーがはしゃぎなら近づいてきた。こんな時間に外へ出るから散歩だと思ったのだろう。


「可愛い奴だなお前は。でも散歩はまた今度。行ってきますラッキー!」


 わしゃわしゃとラッキーの頭を撫で回す。そしてペダルを思い切り踏みつけて新たな学び舎を目指した。




 やはり予定より早く高校に着いた。入学式が始まるまで教室で独りぼっちということになるが、それは慣れっこだ。

 静かな校内。ワックスをかけたばかりの床はぴかぴかだ。以前の僕なら間違いなく足をひねったりするようなシチュエーション。

 入口の案内板を見ると教室は二階のようだ。

 しばらく歩くと教室に着いた。しかしここで焦ってはいけない。誓約があるので扉は開けたままにしておかなければならない。高校生活初日で気分が高揚し、忘れる寸前だった。

 一度深呼吸をして教室の扉を開けると、驚いたことに既に二人の男子生徒が教室にいた。教室一番乗りかと思っていたが、まさか入学式五〇分前に誰か他にいるなど予想外だ。

 一人は坊主頭の小柄な男で窓の外をじっと眺めていが、時折体をひねったりして落ち着きがない。彼の目は切れ長で、寝ているのか笑っているのか判別できないのが特徴的だ。

 もう一人の男はもしかするとハーフなのだろうか。端正な顔立ちとすらっとした長身で、髪の毛はブロンドだ。

 この沈黙の中、教室のど真ん中の席で何か雑誌を熱心に読んでいる。その落ち着き払った姿は、普通の高校一年生よりずっと大人びていて、つい見とれてしまうほどだ。

 二人は僕が扉を開けた時一瞬、ちらりと僕の方を見たが、すぐに二人ともすぐ元の姿勢に戻った。

 まだ入学式も始まっていないので、自分の席などあるはずもない。誰かに教室のドアを閉められないよう、廊下側の席に座る。

 それに窓には坊主頭がいるし教室のど真ん中にはハーフがいるので、何となく距離を置きたかったという理由もある。

 僕以外の二人も初対面だからなのか、元々積極的ではないのか分からないが、二人共他の人間には興味がないかのように思い思いの行動をしている。

 そんなこう着状態が一〇分ほど続いた。僕は積極的に話しかけるのも苦手だが、沈黙はもっと苦手だ。心の中で罵倒されているように感じるし、もしかしたらこうして黙っているだけでも相手に何かしらの悪影響を与えているかもしれないと思って、気が気でなくなる。

 中学校の頃なら教室は騒がしかったし、僕が話のネタにされても僕が不幸になっているだけなのだから我慢も出来た。      

 そんな訳で、この沈黙を一〇分も我慢できただけでも僕にしては上出来だった。だが、それももう限界だ。

 しかし自分から話しかける度胸もなければ、中学までの経験が巨大な足かせとなって体を動かせない。だが限界は限界だ。

 もうやることは一つしかない。悪魔の能力でこの沈黙を砕くしかない。もはや手段を選ぶ権利は僕になく、ほぼ無意識のうちに能力を発動させていた。

 二人に気付かれないように右手を椅子の下へ持っていき、空間を支配する沈黙をその実態を見ずに粉砕する。

 その瞬間、また例の砂嵐の交じったイメージが頭に流れる。動物か何かだろうか。

 沈黙を粉砕してから二分ほど経過した時、坊主頭が突然こちらの方へ振り返り口を開いた。


「三人もいるのによお、ずっとだんまりってのも気持ち悪いな、やっぱり! 黙ってるのは性に合わないしなっ!」


「いきなりうるさい奴だな。だが、確かに一理ある。そろそろ次の展開がないと飽きてくる頃。てこ入れが必要だ」


 ハーフがそう言いながらそっと雑誌を閉じて机の上に置いた。僕の目論見は見事に成功したようだ。


「そ、そうだね。自己紹介でも、する?」


 沈黙のプレッシャーから解放されて、何とか口を開くことができた。


「ったりめーよ! んじゃ俺からな。俺の名前は織川 慎。気軽に慎って呼んでくれ」


 歯をむき出しにして慎は笑顔で自己紹介した。慎のはつらつとした声は教室の中によく響く。


「次は俺の出番か。俺は小野寺 翔。俺も名前で呼んでくれて構わない。苗字で呼ばれるのはモブキャラだからな」


「さ、最後は僕だね。僕は末道 悠。僕も悠でいいよ」


 かなり緊張したが、何だかうまくいきそうな雰囲気が漂っている。そう直感した。


「まあこんな朝早くから三人集まったのも何かの縁! 仲良くやってこーぜ。ところで気になってたんだけどよお、朝一番に学校に来て翔は何読んでたんだ?」


 慎は机の上で胡坐をかき、発声の勢いそのままに床に落下してしまうのではないかと心配になる格好だ。


「む、これか。これは月刊アニフォメーション。知ってるか!?」


 翔が若干鼻息を荒くして僕らに尋ねた。


「僕は知らない」


「それって確かよお、アニメ雑誌だよな? ちょっと割高の。中学の同級生で買ってる奴いたぜ。そいつは結構マニアックな野郎だったけどよ、もしかして翔もオタクなのか? イケメンなのに」


 慎は少しにやけながら翔に訊いた。


「顔で趣味が決定されることなどない。だいたいオタクと一括りにするな。俺は『アニメオタク』だ。アニメ鑑賞は趣味というよりもはやライフワークだ」


 翔はブロンドの髪をかきあげた。翔の口調はセリフだけ聴けば酷く理屈っぽく、言い訳がめしい。だが彼が話す言葉にはそんなものは微塵も感じさせない爽やかさがある。


「ああそうだ、認めよう。世間が何と言おうと俺はオタクだ」


 自信満々に語る翔の口ぶりは、何か小難しい哲学でも語っているかのように聞こえるから不思議だ。


「顔って言えばさ、翔はハーフ?」


 今度は僕が翔に聞いてみた。翔はこの手の質問攻めに慣れているようで、


「両親がどちらも日系人だからクォーターになるのだろうな。ドイツ系日本人とギリシャ系日本人だ」


 なるほど、哲学に聞こえたのはギリシャの血のおかげか、と勝手に納得する。

 しかし、長身にがっちりとした体、ブロンドで少しウェーブのかかった長めの髪型と、深い緑の瞳に彫りの深い顔立ち。沖縄出身の暁さんも彫りが深いが、それとはまったく異なるタイプの彫りの深さだ。

 それらがすべて違和感なく日本人風味の顔で調整されているのだから、イケメンと言わざるを得ない。


「周りの目を気にせず自分の道を貫くって訳だなっ。なかなかできることじゃねえよな。格好いいじゃねえか!」


 言葉とは裏腹に少しだけ慎の笑顔が引きつって見えたのは気のせいだろうか。もう一度慎の顔を見ると元の笑顔に戻っている。


「んで、二人は何でこんな早くに学校に来たんだ? おっかしいよなー。まー俺もだけどよお」


 慎は実にスムーズに話を進めてくれる。これはものすごく心強い。悪魔の能力の性能を改めて思い知る。


「僕はいつも遅刻するから、いつもよりかなり早めに家を出たらこんな時間に着いちゃって。朝から教室で一人かと思ってたら、先に二人がいたから驚いたよ」


「悠はいつもどれだけ遅刻してるんだっつーの! 早すぎるだろっ」


 僕のいつもの朝を話しただけだったが、なぜか慎は笑っている。


「俺はっつーと、グラウンド見学したかったから早めに来た。思ったより寒くてよお、さっさと教室に来たってわけ」


 慎はどうやら野球部に入部希望らしい。僕はどの部にも入部する気はない。どこかに所属するということは、それだけ閉じた空間にいなければならない可能性が増える。

 それにまだ怖い。また何か起きてしまうのではないか、何かしてしまうのではないかと。


「ほう。やっぱり慎は野球部か。まさにテンプレだな。ふっ」


 翔が手であごをさすりながら言った。しきりに頷き、非常に納得している様子だ。


「いちいちアニメに例えてるんじゃねーよっ。お前のために気合い入れて春休みから坊主にしてきたわけじゃねえっての。そういうお前は何で早く来たんだよ翔」


「当然今日発売のこの雑誌を早く読みたかったからだ。コンビニに陳列されたのをすぐ買い、そのまま学校に来たらかなり早く着いてしまってな。まだ玄関が空いてなかったので教職員玄関から侵入した」


 翔はあっけらかんと言ったが、入学早々そんなことするなんて、彼のアニメにかける情熱、いや執念は本物だ。


「そんなに読みたかったんだ。何かの特集とか?」


「いい読みだな悠。今月号のアニフォメーションは『蝋の翼を信じて』の映画化記念特集号だ! これが気になって気になって入学式どころじゃなかったな! どれだけっ、どれだけ映画化を待ち望んだことか……」


 翔は急に饒舌になり、完全に意識が自分の世界へと向かっているようだ。何やらぶつぶつと早口で話しているが、だんだん小声になり何を言っているのか分からない。

 しかし「蝋の翼を信じて」なら僕も知っている。

 通称ロウツバと呼ばれ、社会現象をも巻き起こしたアニメだ。

 荒廃した近未来で、救いを求めて天空にあるという楽園を目指す話だ。改革派である主人公が巨大ロボットに乗り込み、楽園には手を出してはならないという保守派と戦いながら楽園を目指す、といった内容だ。

 楽園に到着するも、結局そこには廃墟しかなく、廃墟から目覚めた暴走ロボットを最終的に保守派のライバルと主人公が協力して倒し、改革派と保守派が手と手をとりあって荒廃した世界を立ち直していく。

 そんな感じで終わりを迎え、最終回は瞬間最高視聴率三〇%を超えるに至った。


「ロウツバかー、俺も見てたぜ。意外にメジャーどころが好きなんだな」


 ちょっとがっかりした様子で慎が言った。

 すると翔は首を思い切り慎の方へとひねった。彼はもしかしたらサイボーグなのかもしれない。


「メジャーかメジャーじゃないかは問題ではない! あれは様々な方面のプロ達が集まってだな……」


 どうやら慎は翔のスイッチを完全に入れてしまったようだ。翔はまたぶつぶつと何か早口で喋っている。


「はは、やっちゃったね」


 久しぶりに身内以外の人と話して楽しい気分になっていた。この気持ちはまさに新しい生活に光が差す兆しだ。


「ああ、やっちまったぜ。これからはこの手の話題は気をつけねえとな!」


 そう言って二人で笑っていると、続々と他の生徒が教室に入ってきた。気が付くともう時計は入学式一五分前を指していた。




 大半の生徒が教室に集まり、皆適当な席に座って談笑している。そんな中、突然周囲がざわつき始める。

 気になったのでざわついている方を見てみると、一人の女子生徒が教室に入ってきたところだった。

 最初は誰だか分らなかった。それは僕が一番会いたくもあり、一番顔を合わせたくなかった人物。


「おはよ、末道君。高校でも同じクラスだったんだね! 今年もよろしく」


「あ、う……ん」


 僕は驚いてまともに返事ができなかった。その女子生徒とは篠原さんだったのだ。

 篠原さんは僕に挨拶すると適当な席に腰かけた。

 髪を後頭部で束ね、薄く化粧もしている。中学校の頃のおとなしい印象から、ファッション雑誌から飛び出したかのように目立つ外見に変わっていた。

 それが所謂高校デビューなのか、あの日の影響なのかまったく分からない。


「麗しい……まるでロウツバのヒロインの」


 翔が話し始めていたが、またしてもだんだん早口かつ小声になっていくので、聞き取るのは諦めた。


「朝っぱらからあんな美人に挨拶とは羨ましい野郎めっ! こりゃあ仲良くなった俺にもおこぼれがあるのは間違いないな!」


 慎が篠原さんをじろじろ見ながらそう言った。勢いのいいガッツポーズが様になる。


「あ、うん。中学校の同級生で篠原さんって言うんだ。それにしても、前よりずっときれいになった気がするなあ……」


「そりゃあ高校に入れば変わるもんだぜ。オンナって奴はよ。まず腰回りが」


 慎は女性の魅力について熱心に語り始めると、一体いつ呼吸をするんだと言いたくなるくらい止まることなく語り続けた。

 呆れた僕は途方に暮れて誰かに助けを求めるように教室を見渡す。

 ふいに、窓の方を眺める女子生徒に目を奪われる。彼女は教室のざわめきに一切興味がないようで、虚ろな表情で外を眺めていた。

 細身の眼鏡をかけ、美しく長い黒髪と鋭く冷たいようにも感じる、少しつり上がった目が印象的だ。

 そんなことを考えていると、どうやらもう入学式の時間らしく教師が教室に入ってきた。


「皆さんおはようございます。今から入学式の進行表を配ります。最後のページに出席表がありますので、それを見ながら男女それぞれ出席番号順で廊下に並んで下さい」


 教師が機械的にそう言うと、生徒がだらだらと移動し始めた。さっきの眼鏡の女子生徒は出席番号順から考えると神田景という名前らしい。




 無事入学式が終わり、最後に体育館で記念撮影をすることになった。無論、写真屋やカメラに異常もなければ、体育館の扉は建て付けが悪かったため閉められることもなかった。悪魔の能力の効果は絶大だ。

 いざ撮影しようとすると、篠原さんが担任の方へと向かい、何か話している。話し終えると篠原さんは体育館から立ち去ってしまった。


「えー、篠原さんは入学式で気分を悪くしたようですので、今回の記念写真は一緒に撮りません。ですので皆さん一人分詰めてください」


 担任が説明すると皆素直に移動した。僕も言われた通り素直に移動する。

 記念撮影を終え、教室に戻ると出席番号順に席に着くように言われた。奇跡的に僕と翔、慎の三人は近くの席になった。しかも僕は扉のすぐ近くだ。幸運様々である。

 篠原さんはいつの間にか戻ってきていて、周りの女子とお喋りしていた。体調は良くなったのだろうか。




 放課後、慎は野球部の見学に行くらしく、翔はバイトだと言うので、真っ直ぐ家に帰ることにした。

 篠原さんはと言うと、既に彼女の周りには人だかりができていて、これからどこかに行くような話をしていた。彼女は入学初日にしてクラスの人気者だ。




 今日は早速仲良くできそうな人が二人もできて、上機嫌で家に帰る。

 玄関を開けるとラッキーが飛びかかってくるのだろうなと予想していたが、家は静かだ。静かすぎるくらいに。

 何だか嫌な予感がする。静寂を保つ室内。留守番電話のランプの点滅。周期的に点滅するランプの光が、なぜだか僕を不安にさせる。そして導かれるように再生ボタンを押した。


「ピーッ。こちら鈴城動物病院の村木です。お宅のワンちゃんが事故に遭われたので、首輪の裏の電話番号を見てご連絡差し上げました。このメッセージをお聞き次第、至急当院までお急ぎください。ピーッ」


 まさか、ラッキーが。よく見るとリビングの窓が開いている。




 全力で自転車を漕ぎ鈴城動物病院へ向かう。以前にもこんな展開があった気がする。いや、まさかそんなはずは。




 動物病院に着くやいなや受付に行き、事情を説明した。するとすぐに診察室に案内された。間違いない、これはデジャブなどではない。この流れを僕は春休みに経験している。

 診察室に行くと医師から説明を受けた。


「ここに運ばれた時には右前脚を車に轢かれ、粉砕骨折の状態でした」


 医師はカルテを見ながら続ける。


「出血もひどく、このままでは命にかかわると判断し、やむなく右前脚の関節から下を切断しました」


 医師は憔悴した僕をなだめるように、落ち着いた口調で話してくれる。


「今、ラッキー君は麻酔で眠っていますが、命に別条はありません」


 命に別条はない。思わず安堵の息を漏らす。

 しかし、これで疑心は確信へと変わった。祖父の時は自分の運を、ラッキーの時はあの空間の沈黙を扱ったがために、不幸な出来事が起こったのだ。

 能力を使った時に脳裏をよぎった映像は、「弾」として僕に消費されていく祖父やラッキーだったのだ。

 僕が、ラッキーの足を一本奪い去り、祖父を殺した。そのどうしようもない事実に今更気が付くと、その場に跪き、嘔吐した。


「き、君! 大丈夫かい?」


 そう言うと医師は僕を仮眠室に連れて行ってくれて、簡易ベッドに寝かせてくれた。

 医師はラッキーがしばらく入院する必要があることを僕に告げると、しばらく休んでいていいからと言って仮眠室から立ち去った。

 なんて愚かなことをしていたんだ。篠原さんに対する罪悪感からこの能力を手にしたのに、結局能力に溺れ、過信し、大切な人たちをただの消耗品扱いしたのだ。

 あまりの自分の間抜けさに涙が溢れた。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったんだ。ごめんなさい、ごめんなさい。




 間違っていた。能力が僕を変えてくれるというのはただの幻想だった。あくまでも能力を使うのは僕なのだ。僕自身が変わらなければ何も変わらない、変えられない。

 悪魔の能力は封印しよう。私利私欲のためにはもう二度と能力は使わない。誰も弾などにしてはならない。

 悪魔の能力は、人間には過ぎた能力だったのだ。

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