第2章Aパート
カーテンの隙間から黄色い光が差し込む。ポケットからこの間買ってもらったばかりの携帯電話を取り出し画面を見ると、三月一九日午前五時一二分と表示されている。どうやらいつの間にか家に帰り寝てしまったようだ。
制服のまま倒れたらしく、卒業式の時の花飾りもまだ胸に付いたままだ。鞄や卒業証書が床に転がっているが、家に帰った記憶はまるでない。
「あれは夢だったのかな……」
恐る恐るゆっくりと両手を開くと、掌にはしっかりと印が刻まれている。指で赤黒い印を擦ってみるが、印は掌にしっかりと焼きつけられており、まったく落ちる様子もない。夢ではない。あれは紛れもない現実だったのだ。
とりあえずタンスから適当なTシャツとジーンズを取り出し、いつものように着替える。その途中、いちいちジーンズの生地やTシャツを手にとって、触り心地や英字の柄を確かめる。どこからがどこまでが現実なのか未だに確信を持てない。
用心深く着替えをしたが、あまりにいつもと変わりがなかった。これは僕の良く知る日常だ。着替え終わり廊下に出ると、まだ早朝だというのに、リビングから光が漏れているのが見える。
「おはよう悠。今日は随分早起きじゃない」
階段を下りてリビングへと向かうと、母がいつも通り朝食の支度をしていた。
「お、おはよう母さん」
「昨日は卒業式の後どこ行ってたの? 夜になっても全然帰ってこないと思ったら、いつの間にか部屋で寝てるし」
小気味良い包丁の音とともに母が僕に尋ねた。僕は落ち着いているフリをしながら、食卓の椅子に腰かける。
「友達の家だよ、これで皆お別れだからつい話しこんじゃって……」
答えに困り、咄嗟にこう言ってしまった。苦しい。あまりに苦しい嘘だ。両親は基本的に中学校に入ってからは放任主義という教育方針らしく、あまり僕の中学校生活を話すことは少なかった。そもそも共働きで父は単身赴任しているため、両親とゆっくり話せないのもまた事実だ。
だからと言って、この嘘がバレていないということは考えにくい。僕は嘘をつかないことだけが長所なので、嘘をつく時あからさまに嘘と分かるような声の調子になってしまう。
「ふーん。それなら、いいんだけどね。でも、悪いことはしないでね。まだ中学生だから大目に見られると思ったら駄目だよ」
と母は目を細めて穏やかに言うだけだった。
思春期特有の問題だと勘違いしているのかもしれない。何だか急に恥ずかしくなる。
「そんなことしないって。ほら、暁さんのお世話になるなんて格好悪いし、それに――」
言い訳めいたことをぺらぺらと口に出している途中、毛だらけの物体が僕の膝の上をめがけて飛んできた。
「わんわん! はっはっはっはっは……」
その物体は舌をだらりと口から出し、ご機嫌で尻尾を振っている。
「びっくりするじゃん、ラッキー」
僕は愛犬の頭を撫でながら言った。
彼の名前はラッキー。生後間もないころ捨てられているのを僕が拾ってきた小型犬だ。拾ってきたから犬種は分からないが、柴犬の血が濃いと思われる。毛色が胡麻色の柴犬に見えるものの、背中に黒が混じった模様がある。
名前は僕がちょうど犬が欲しいと駄々をこねていた時に見つけたので、その時の気持ちをそのまま名前にした。今となってはとんだ皮肉である。
だが名前通りなのか、ラッキーは僕の不幸の被害に遭ったことがない珍しい奴だ。そのせいか、家族の中でも僕によくなついている。
こんなにも運がない割には自殺などを考えずに無事中学校を卒業できたのは、篠原さんと暁さん、それにラッキーのおかげと言っても過言ではない。正確には卒業式の日までは、だが。
「はっはっはっは……」
よっぽど寂しかったのかラッキーはべろべろと僕の顔をなめ回す。
「分かった分かった。せっかく早起きしたし散歩に連れてってやる。母さん! 行ってくるね。七時くらいには帰るから」
「朝から元気ねえ。車に気をつけなさいよー」
ラッキーの首輪に紐を取り付けると、朝霧がかかる外へ散歩に出た。
霧がかかっていたものの、外は日差しのおかげで思ったより暖かい。霧の多いこの町では、気温の上昇とともによく霧がかかる。冬の間身を潜めていた地を這う雲が、初夏に向けて動き始めた証拠だ。
家を出てしばらく真っ直ぐ進むと、近所の公園に到着した。ベンチの脚にリードをくくりつけ、深々とベンチに腰を下ろす。
「ラッキー聞いてくれよ、昨日夢みたいなことがあってさ」
そう言って昨日の出来事をラッキーに話しかける。ラッキーはじっと僕の眼を見つめたまま、何も言わない。もしかしてちゃんと理解できているのだろうか。そんな馬鹿な。何となく、ラッキーの頭をくしゃくしゃと撫で回す。
そしてその手を自分の目の前に持ってくる。もう痛みは取れたが、血のような赤黒い印が掌にしっかりと刻まれている。
「そうだ、悪魔の能力……本当にあるなら使ってみないとな。ここで試してみようか」
まず何をしよう。「渇望の蛇」が言うには自分を対象とした場合が一番簡単らしい。
「簡単なところから始めようか。疲れをとってみようかな。まだ朝なのにへとへとだし」
眼を閉じて印に意識を集中させる。脳髄に流れる電気信号を首、両肩、両肘、両の掌へ伝えさせる。輝き始める印。手から赤い光の洪水。光が溢れ出ている間、掌に違和感はない。
「すごい! 本当に悪魔の力が僕に……」
あの時と同様に、自分の胸に腕を突き刺す。自分の体を貫いても異物感はない。空を割くどころか、何かに触れた感覚すらない。
そして頭の中で「疲れを取る」と何度も念仏のように唱え、自分自身の体の中で「何か」を握りしめる。体内に侵入していた腕を引き抜くと、手の中には「疲労」そのものがあった。それは青白いヘドロのような物体だ。直感ですぐに理解できる。疲れを体から引き抜くことに成功したのだ。
その瞬間、砂嵐のような映像が頭によぎった。砂嵐だけでなく、その中には何かが映っていたような気もする。しかしそれは余りにも一瞬で、記憶に留めることが難しかった。
「何だろう、今の感覚は」
まあいい。そう言えば「渇望の蛇」は「目に見えないものを扱う力」と言っていた。何も毎回砕く必要はないのだ。
疲れそのものである物体を、光り輝く手で粘土をこねるようにして丸くしてみる。更に力を加えると、ぎゅっと凝縮され、一回り小さな球状になった。
「はは、本当にすごいな。よし」
丸くなったその物体を電線に止まっていたカラスに投げつけてみる。もちろん、「目に見えないもの」なのでカラスは避けようともしない。「疲労」の球が当たった瞬間、カラスは急によろよろと力が抜けたような動きをして、地面にぽとりと落下してしまった。急いでカラスの元へ駆け寄ってみる。
「良かった、死んじゃいないみたいだ」
カラスを拾おうとすると、カラスどころか地面にも手が触れられない。
やがて赤い光が消え、手が露わになっても何にも触れないままだ。試しにお座りしているラッキーのところへ戻り、触れようとしてもやはり触れない。手首より下はその形状が目に見えているだけで、そこに存在していないも同然だ。
「これが、代償……」
数分後、ようやく物に触れるようになっていた。
そして驚くほど体が軽い。それに身体的な疲労だけでなく、精神的な疲労も取れた気がする。こんな気持ちの良さは自分の運の悪さを無自覚でいられた五、六歳の頃に戻ったかのようだ。
「よし、春休みの間はしばらく、ここで能力を使う練習をしてみることにするかな」
携帯の画面を確認。ちょうどいい時間だ。ラッキーの紐をほどき、上機嫌で公園を後にした。
ちょうどその頃、僕の部屋にあった卒業証書が円筒状のケースごとぐしゃぐしゃに潰れていた。そのことに気付いたのは、家に帰ってからしばらくしてからのことだった。
しばらく訓練を重ねていくうちに、渇望の蛇が説明をしていない能力の詳細が分かってきた。
まず、「物体」は「自分」を対象にした場合と同じ感覚で扱える。能力を使った直後、砂嵐のような映像が頭によぎる感覚が、自分を対象にした時の感覚と同じだったのだ。
まだ空間や他人に対しては能力を使ったことはないが、この分だと大したことはないだろう。
また、能力使用後に物体に触れられなくなるのは五分ほどということが分かった。この能力は本当に凄まじい力だ。これを誰かに使うと思うと今からわくわくする。
そして因果に触れるのもそう遠くないだろう。渇望の蛇は「因果は因果でしか扱えない」と言っていたが、どういう意味なのだろうか。
僕はどんどん物や自分に向けて能力を試して数日を過ごした。
ある日、近所に住む祖父が僕の家を訪ねてきた。祖父は運動がてら、我が家によく遊びに来るのだ。祖父はグレーのパンツ、淡い水色のシャツに白と紺色のボーダーカーディガンを着ている。頭には釣り帽子。祖父は家に上がって来るなり、自分で茶菓子を用意して口にしている。
「おう、悠。もう学校は終わりか」
中学校の担任よりも響く声で祖父が僕に呼び掛ける。耳にキンキンと響いているように感じるのは恐らく気のせいではない。
「うん、じいちゃん。四月の初めに高校の入学式があるけど、それまでは休みなんだ」
能力の訓練をする以外は、遊ぶ友達もいないのでほとんど暇だった。
「そうかそうか、でもな悠、若い者が時間を持て余すもんじゃないぞ。必ず後悔しないように、しっかり自分の頭で考えて行動するんだ」
と祖父は格言めいたことを言った。祖父はよく格言のような言葉を量産したがるのだ。手帳に格言を貯め込んでは音読し、いずれ名言集を出版すると意気込んでいる。
「まあ俺の孫だからな、お前の行動を信じとるぞ悠!」
「大丈夫だよ、じいちゃん。最近は特にね」
能力を手にしたことで確実に良い方向に向かっている。その判断は間違っていないと、暗に祖父に褒められたような気になり得意気になる。名言量産機の祖父に褒められているのだから間違いのはずがない。
「それにしても悠が高校生か。魚市場の溝に足を滑らせて、抜けなくなったと泣いていたのが昨日のことみたいだ。うわっはっは」
祖父は僕の小さい頃の話を持ち出して、馬鹿にでかい声で笑っている。小さい頃からトラブルに巻き込まれていたので、家族の間では恰好の話の種だ。
「孫が骨折した時の話を楽しそうに話さないでよ」
と苦笑いしながら祖父に言った。悪気がないのがせめてもの救いだ。祖父が墓に入るまで延々とこのネタを言われ続けるだろう。この分ならその日もまだまだ遠そうだが。
「じいちゃんまだ家にいる? 僕はこれから出かけるけど」
「老人は暇だからな! 一日中ここでだらだらしとるわい!」
定年になってからというもの、祖父はとにかく暇なのが嬉しいらしい。定年前は祖父の家に遊びに行ってもいつも眠そうにしていた。
「それじゃ、行ってきます」
ついに今日、自分の運を文字通り掴みとる決心をしたのだ。このために今まで訓練してきた。ついに、ついにだ。今までの人生から本当の意味で脱却するのだ。
いつもの公園に到着すると、一応辺りを見回す。この時期に暇なのは春休みの学生だけだからか、公園の周りは僕一人だけだ。
何か大きいことをしようとすると、心が昂って仕方がない。悪いことをしている訳でもないのに、つい周囲を警戒してしまう。鼓動が嫌でも高なる。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。もはや運は逃げるものではないのだと、何度も繰り返し自分に言い聞かせる。何度も。
静かに目を閉じ、意識を集中させる。そして運を掴むイメージを固める。強運。豪運。幸運。僕の手で掴むのだ。来い来い来い。
すると、今までの訓練では体験したこともない量の赤い光が掌から湧き出してきた。手から溢れ出た光が、火口から立ち上る煙のように宙を踊っている。この小さな公園一帯が赤い光で包まれた。
光が溢れると同時に、金色の粒子が辺り一面に漂っていることに気が付く。これが運そのものであることを僕は直感的に理解した。金色の粒子はまるで海のように波打ち、粒子が濃くなったり薄くなったりしている。なるほど、確かにこの粒は僕の周りだけ特に少ない気がする。
おもむろに両手で空中にあるその粒子をわし掴みにする。粒子は手の中に引き寄せられ、金色の管のような形を成した。
空中から僕の両手へとつながる無数の金色の管を、自分の胸へコンセントにプラグを接続するかのように突き刺す。
体中に電流が走ったかと思わせるほど強い衝撃が襲う。頭の上から足のつま先まで強い振動が駆け巡ると、心臓がどくん、と強く鼓動した。
その瞬間、いつもの砂嵐のとともに誰かの顔が脳裏によぎる。だがその映像はいつもと違い、ついさっき見たかのような妙な違和感を感じた。デジャブか何かだろうか。
手を覆っていた光が消え去ると、ベンチに引きずり込まれるようにして腰を落とす。
「これですべてが……変わったんだ」
終わってしまうとあっけないものだ。
しばらく休んで手で物に触れられるのを確認した後、とりあえず家に帰ることにした。公園を出ようとすると出口に何かを落ちていることに気が付く。
「何だろう……?」
それは大きな紙袋。パンパンに膨らんだ紙袋だ。公園に来た時、こんな物があっただろうか。
その紙袋の中を覗いてみると中には大量の札束が入っていた。こんなものはドラマでしか見たことがない。
「そんな馬鹿な。こんなにも急に変わるものなのか、あり得ない」
そう言いながらも、あまりの世界の変貌ぶりに思わず顔がゆるむ。
「は、ははは……やったぞ! 僕は運を手に入れたんだ! もう何も怖がることはないんだ! はっ、はは、あはははは!」
気がふれたかのように大声で騒ぐ。ざまあみろ。これが僕の力だ。
少し落ち着きを取り戻すと、本当に運が向いてきたとしても、この大金をそのまま持ち去るのはあまりに危険な気がした。そこでここは一度交番に届けて、謝礼をいただくことにする。あわよくばこのままもらえるかもしれない。
思い立ってすぐに大金の詰まった紙袋を抱え、交番へ向かう。今の僕には、これまで何度も通ったはずの交番への道のりでさえ、今までとは違う景色に見える。
交番に着くと暁さんが椅子に座り本を読んでいた。暁さんは見た目どこからどう見ても体育会系だが、かなりの読書家で少なくとも一日一冊は本を読むと以前聞いたことがある。
「こんにちはー」
もうとっくに駄目になっている交番の引き戸が、がらがらと音を立てる。暁さんが本を閉じ、ゆっくりとこちらを見た。
「ん? ああ、悠君。こんにちは。今日はどうした? また事故にでも遭った?」
背中を伸ばしながら暁さんはそんな不謹慎なことを笑いながら言った。
「違いますよ! 今日は、あの、落し物を届けに……」
「何だ、違うのか。へえ、悠君偉いじゃないか」
「この紙袋なんですけど」
「どれどれ、中身は?」
暁さんに札束が山盛りの紙袋を渡す。机の上に持ち上げるだけでも大変で、机がきしんだような気すらした。浮かれた気分のままこの紙袋を持ってきたが、我ながらよくここまで持って来られたものだ。
「な、なんだこりゃあっ。こんな大金いったいどこに落ちてたんだい!?」
暁さんは漫画のように目をまん丸にして、僕と紙袋を交互に見つめている。
「家の近くの公園に落ちてました。散歩してたら偶然見つけて……」
「本当にあるんだなあ、そんなことが」
暁さんはぽりぽりと顔を掻いている。
「ま、これは署で厳重に保管しとく。三ヶ月経っても誰からも連絡なければ、全部悠君の物になるかもな」
暁さんは何だか複雑な顔をして、僕にそう言った。
「こんなにあっても困りますよー。でも本当に夢みたいだ」
「しかもあの悠君が拾ってきたことに、俺はもっとびっくりだ。ははあ、それで焦って届けようとしてどっかで転んだんだろ?」
「え? 僕、今日は転んでないですよ」
「そうなのかい? 掌が汚れてるように見えたけどな」
自分の掌を見てみたが、別に何も汚れてはいなかい。一応、ソファにかかってあったタオルで適当に手をふいておいた。
「紙袋が汚れてたのかもしれないですね」
僕がそう言うと暁さんは、ふーんだとか、うーんだとか、適当な返事をしながら二人分のコーヒーを準備してくれてた。いつも交番に行くと、暁さんはお菓子とコーヒーを御馳走してくれるのだ。
コーヒーを待ってると、突然僕の携帯に電話がかかってきた。まだ電話帳には父と母の番号しか登録していない。非通知だったが一応出てみる。
「はい、もしもし。末道です」
「もしもし? 悠!?」
母からだった。突然どうしたのだろう。なぜか携帯からではないし、妙に動揺した声だ。
「悠、急いで病院に来て! 前に悠が入院した市立病院! おじいちゃんが、おじいちゃんが……」
「え? じいちゃん?」
母の酷く狼狽した声から、ただ事ではないことは容易に想像がついた。
「すみません、暁さん。コーヒーはまた今度にします。じいちゃんに何かあったらしくて……それじゃ!」
「……おう、じゃあな」
急いで市立病院へと向かう。妙な胸騒ぎがする。でも大丈夫だ。祖父は数年前に祖母が病気で亡くなって以来、毎年欠かさずに人間ドッグへ通うほど健康には敏感だ。
まさかなんて起こる訳がない。それに僕は今日から強運なのだから。
ようやく病院に着くと、すぐに看護師が病室へと案内してくれた。
だが病室のドアを開けた時には、もう終わっていた。
医師と看護師がベッドに横たわる祖父の傍にたたずみ、母は祖父の体にうずくまったまま声をあげて泣いている。祖父の顔には白い布が被せられていた。
祖父が、死んだ。今朝普通に会話していたのは何だったのか。脚に力が入らない。扉からベッドまでの距離すら歩けるか分からない。
祖父はそこにいるだけで賑やかな人物だった。だが今、祖父は確かにここにいるのに、ここには時計の針の音と母の泣き声しかない。
「急性心筋梗塞です。病院に搬送された時にはもう……」
そう医師は告げた。こんなの、嘘だ。そう、嘘なのだから、悲しくない。
祖母が亡くなったのは僕がまだ小さい頃で記憶がないし、身内の不幸に遭ったのはこれが初めてと言えた。だからここでどう反応を示したらいいのか分からなかった。
喪主は母。だがまともに話せる状態ではなく、単身赴任先から急遽戻った父が代理している場面が多かった。急逝だったが滞りなく行われたその儀式は執り行われた。
小さな箱。あっと言う間に祖父はそれになった。死んでしまうと人間は、こんなにもあっけなく処理されるのか。
その後、残った春休みをただただいつも通り過ごしていた。午前十時くらいに起きて、遅めの朝食を食べる。ラッキーの散歩に行って、テレビを見る。春休みの食事は冷凍食品とカップ麺ばかり。
春休み中、正午になっても祖父が我が家を訪ねてくることは一度もなかった。
「じいちゃん、まだ来ないのかな」
分かっていたことだ。祖父はもう亡くなったのだ。否定し続けることなど、できない。
僕の中で何かが崩れた。涙が頬を伝い、それはしばらく続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます