13話 魔銃との契約

 『おいこらシカトすんじゃねーよ。聞いてんのかぁ? マスター様よぉ?』

 

 夢でも幻でもない。俺が持っている全体は漆黒の黒だが一本筋だけ朱が走っている折れた大剣の方から声が聞こえた。


 「ファイ、あたしは寝ぼけているんだろうか?」

 

『銀髪褐色の嬢ちゃん、ちゃんと起きてるぜぇ? 俺様はちゃんと


 「ファイ、あとは任せた。あたしは少し寝て来る。バレルに熱中しすぎて寝不足のようだ」


 ダイダラさんが頭を押さえて、僕に手をヒラヒラと振りながら工房を出て行く。なんとも感情の変化のない現実逃避を見てさすがに異世界ファンタジーでも喋る武器って言うのは規格外だと知った。


 「あっと、俺はファイス。マジで剣が喋ってるんだなぁ……」


 『ほぉ……ファァァイィィスゥゥゥは俺が喋ることに驚きはねーみたいだな。こんななりだが俺は神様の欠片だからなぁ! それも不死の賢王ノーライフキングを象徴する漆黒だぁっ! ワイズマンを象徴する聖銀じゃねぇ! だぁぁかぁぁらぁぁ、恐れろっ! 媚びろっ!! 崇め奉れっ!!!』


 俺は理解した。こいつ、アホなんだと


 「いや、折れてる大剣なんぞ怖くないし……」


 『なぁぁにぃぃ? 折れてる? 折れてるだとぉ? この俺が? 俺様が? どこをどう見て……あっれえええぇええぇ? 刀身がねぇぇっ!!!』


 しかもまだ気がついてなかったみたいだ。どんだけ鈍いんだよ。


 『ちっ、だから俺様の記憶が飛んでるんだな? でもってファイスぅ、おめーが俺様と契約したいんだな?』


 「あ、別にいいっす」


 なんか伝説の鉱石を使った銃ってことで興奮していたが、ぶっちゃけ銃であればなんでもいいし、この喋るのを使った銃なんか出来ちまった日にゃ面倒なことしか起きないって俺のゴーストさんが囁くってか叫んでる。


 『はっはっは、残念ながら俺を目覚めさせたからには契約は果たされている。真面目にいこうか、ファイス。我を手に取り、思えっ! 我の成すべき力の形をっ!』


 さっきまでのチンピラはどこ行った? でもって思えってなにをだよ。銃でいいのか?


 『はぁーーん、ファイスぅ、お前なかなか面白い武器を考えるじゃねーか。弾丸を飛ばす武器ねぇ? いーね、いーねっ! 覚えちゃいないが、今までの契約者は剣だの槍だの馬鹿の一つ覚えだったにちげぇねぇ。俺様はラッキーだったぜ。銃っ! 聞いたことも見たこともない武器。もっともっとお前の思いを見せてみろっ!』


 なんか喜んでる。しかも褒められた。もしかしてこいつ話の分かる奴? ならば異世界の銃の素晴らしさを思って語ってやろうっ! これこそ至高の武器だということをっ!!


 『あ? ああ? ファイスっ!! いい、いいじゃねーかっ! その形いいっ! 俺もそうなりたいっ! あん? オートマチック? マグだぁ? いやリボルバーの方がカッコイイだろ? ぬ? スイングアウト? トップブレイクの方が装填しやすいか……。おっし、決まったこれだぁ! これが俺だ!』


 俺の思い語りは強制的に終わらせられ、またオドを持ってかれる。つかまたチンピラに戻ってるぞ。


 『我は全ての生者に沈黙を与え』


 手に持っていた剣の柄が曲がり、太くなる。まるでグリップのように


 『我は全ての死者に安らぎを与える』


 刀身は厚く太いインゴットのようになる

 

 『神代の誓約により、我が身体武器は汝のものとなり、汝は―――』

 

 インゴットから上部に丸い孔が空き、独特なバレルが形造られ、その後ろにはレンコン型の回転弾倉リボルバーが備わっていた


 『我を用いて汝の敵を撃ち払えっ!』


 漆黒のボディで鉄塊みたいなバレルに朱が一閃。バレルには神代文字ルーンが焔の瞬きのように煌めき、鮮やかな朱色で彫られていた


 『我が名はっ―――!?』


 「お前の名は、カグツチ。カグツチだ」


 『カグツチ。いいねぇ。我が名はカグツチっ! 汝を主と認め、銃爪トリガーを託そうっ!』


 手には禍々しい黒と鮮やかな朱の魔銃、カグツチが握られていた。

 



 つかなんかノリに近い感じで契約しちゃったんだけど、なんかマズイことなんて起きないよな? な?


 『精々、俺を使わなきゃならねーことが起きるぐらいだ。マイマスター?』


 俺、騙されてないよね?

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