12話 想像上の鉱石たち
マルタンさんが鹿からまるでシャツを脱がすかのように皮を剥ぎ、心臓やレバーなどのモツを俺がレバーに感激している間に掘った穴へと埋めていた。こうなると目の前の木にぶら下がっているのはもはやただの肉だった。うん、ちょっと前まで鹿だったとは思えねぇ……。
「今日はファイス君もいることですし、矢の具合を確かめる為に狩りでしたから、この肉と皮だけ持ってもう帰りましょうか」
意外だ。俺が身体強化できると分かったらコキ絶対使われるって思ってたもん。ぶっちゃけ、慣れない狩りや足運びで疲労が溜まっている。マルタンさんの申し出は素直にありがたかった。
マルタンさんは腰にぶら下げていた袋からビニールシートみたいな物を取り出して肉の塊に巻きつけ、さらにその上から皮を巻き、肉を吊るしていたロープで肉の塊と皮が離れないように結びつけた。ロープで背負えるように工夫もしてあるようだ。流石歴戦の狩人、慣れていらっしゃる。にしてもあのビニールシートなんだろ?
「ああ、これが気になります? これはスライムの皮ですよ。スライムの
なんと、魔物産の便利グッズですかっ! やっぱり魔物っているのだっ! やったねファンタジーっ!!
「へー。ならゴブリンの肉は処分するしかないけどオークの肉は美味しいとかってあるんですか?」
俺の質問にマルタンさんは大きく目を見開いた。いつもは糸目なのに……
「えっと、ファイス君は人間至上主義なのですか?」
「? へ? なんですか? 人間至上主義って?」
「あー所謂、亜人は居なくなれって思いますか?」
「いえ全然。かぁさんはドワーフらしいですし、マルタンさんだってエルフなんですよね? 別に亜人も何も普通の人との違いが解らないんですか……」
もしかして俺、とてつもない地雷踏んだか?
「えっと、ゴブリンもオークも亜人ですよ? ファイス君。殺して食べます?」
ん? んん? …………あっ、やっべぇ。ファンタジーのお約束だからって全部一緒って訳じゃねーーんだっ!! どうやって言い訳しよう……
「あ、そーなんですね。家にあった本にはゴブリンやオークは敵だって書いてあったので」
うん、とても苦しい言い訳っ!
「はぁ……。神々の戦いで
なんか納得してくれたっ!
「そんなんですか……。これからはもう少し考えてみます」
「そうですね。それがいいと思います。これは忠告ですが、もし亜人が嫌いになってもそれは表に出さないようにした方がいいですよ?」
「それはないです。乱暴な人は嫌ですけど」
マルタンさんは冗談ですよと流していたが、やっぱり、ゴブリンやオークはファンタジーじゃ悪役その物だったというイメージが邪魔をして友好関係が築けないかもしれない。これは早いとこ意識改革していかないといけないぞ。
俺が考え込んでいるのを見てマルタンさんは色々と話しかけてくれたがほとんど頭に残らなかった。
「試作品はまた今度試すとダイダラさんに伝えて貰えますか? それとこれはお土産です」
そう言ってマルタンさんが手渡してくれたのは所謂、肩ロースと言われる部分の肉だった。解体作業中に肉の部分も教えて貰っていたので流石に遠慮したのだが、マルタンさん曰く、狩猟は二人で行ったもの。ほかの肉は自分が全部貰っちゃうからその部分は貴方の取り分だ、と
肉を包んだスライム袋(ビニール袋みたいな感じで使われる)を手にしてダッシュで家に帰る俺。まるで子供みたいだ。うん、身体は子供ですけどね? すると家の扉の前でダイダラさんが待っていた。
「ただいまぁ~っ! 狩りしてに“ファイ、帰ったかっ! ちょっと工房に来てくれ”くぅ?」
問答無用で首根っこを掴まれ工房に連れて行かれる俺。本日二回目のどなどなされました。
「今、工房にある金属でバレルを作ろうとしたのだけど、黒鉄やオリハルゴンだと硬すぎて細い筒状加工が厳しい。で、ミスリルは爆発耐性ないから耐えられ無さそうだし、アダマンタイトはあるけど、さすがに素材が足りない。だから、これを使ってみることにしたんだが……?」
えっ? まってまって? え? なに? おりはるごん? みすりる? あだまんたいと? え? なにそれ?
「えっと簡単に説明するとオリハルゴンは金、白金、ダイヤなどで造られた合金だ。ミスリルは魔力を良く通す精霊銀。ようは剣や防具を使う探求者御用達の金属だね。アダマンタイトは地中で稀に見つかる最高硬度の金属。わかったかい? ついでに黒鉄は棒状のまま発掘される金属で、硬いけど棒状以外に加工ができないから研いで剣ぐらいにしかできないんだ」
ふ、ふぁんたじーーーっ!!!
「他にもヒイロカネとかあるんだが手もとになかったから検討してない。けどあれは神樹の樹液の硬化した物だから火とは相性悪いかなって」
俺が知ってるファンタジー鉱石ほとんど出たな。声にも出してないけどダイダラさんが説明してくれた。案外簡単に手に入るものなのかな? うわっとっ! 何かをダイダラさんから渡された。
「ファイ? 戻ってかい? そいつを使おうと思う。デェンウォーブル……らしい金属だ」
「デェンウォーブル? なんか聞いたことあるような……」
「
あぁ、あの創世神話の……おい、マジか 慌ててダイダラさんから渡された物を見る。いつもは炉の上に鎮座されていたあの禍々しい折れた大剣だった。これ神様の身体なのかよ。禍々しすぎんだろ。
「まぁ本物なのかはあたしも分からないんだけどね。代々あたしの家に伝わってきた物さ。ファイの武具になるならご先祖様も怒らないだろうね」
「いいの?」
「まず溶かすことさえ普通では無理。でも魔力でデェンウォーブルを覚醒させることはできるらしい。本物なら意思を持つ鉱石らしいから加工の方法も聞けるだろさ」
なんとゆうファンタジー鉱石。会話できんのかよっ! 俄然やる気が出てきたぜっ!
ダイダラさんは俺からデェンウォーブルで出来たらしい大剣を炉の上に置き、炉の前には俺を座らせて魔力顕現するように言い、ダイダラさん自身は金床の近くに待機していた。
俺はとりあえずいつも通りに腕に焔を纏わせ、そのまま大剣を侵食するかのように焔を這わせていく。デェンウォーブルらしい大剣になんの変化も起らない。この方法じゃ駄目なのだろうか? 次は炉に魔力の炎を顕現させて鉱石を溶かすかのような勢いで、その次は魔力のマグマに浸けるイメージで……自分が魔力顕現でできること全てを試してみたがデェンウォーブルさんは一向に起きる気配がない。
「へぇ、これは本当にデェンウォーブルなのかもねぇ。普通の金属じゃ溶けて無くなってもおかしくない熱量だよ。少なくとも希少な鉱石で出来た剣だっただろうね」
俺が休憩している時にダイダラさんは関心したかのように呟いた。デェンさんは絶対俺が起こしてみせるっ!!
はい、ぶっちゃけ、もう諦めの境地です。デェンさん改めデェンの野郎は一向に変化しません。力技の俺が魔力顕現の炎で熱したデェンをダイダラさんが金床で叩くという荒業にも起きませんでした。もう無理かな……このクソ野郎っ!! 俺はデェンの大剣を両手で握りしめそのままオドを流し込んだ。その結果初めて漆黒から色を変えなかったデェンウォーブルに一筋の朱が走った。俺はそのままオドを流せるだけ流し、初めてオドが枯渇しそうな状態まで行った。その時、声が聞こえた。
『俺を起こすクソマスターは誰だぁ? あんだ? お前? かぁー! こんなチンチクリンがマスター様だとぉ? この俺様、……あー名前なんだっけ? ちっ、まぁいいや。
手にしていた折れた大剣が喋っていた。すっごいガラの悪い声で
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