閑話 ファイス誕生

 あたしは創戦のダイダラ。探求者連合の称号で創戦なんて言われちゃいるが戦闘よりも作ることの方が好きだ。それもあってか良質な鉱源があるタルメ村に籠って至高の槌造りに励んでいた。


 そんなあたしにいきなり子供を授かった。子供を産んだ訳ではない。いきなり目の前に光が群がって弾けたと思ったら産まれたての男の子があたしの腕の中にいた。そんな伝説は聞いたことがあった。亜神デミゴットは人を選んで産まれてくるって。でもなんであたしが? って思った。


 亜神デミゴットに選ばれるような女じゃないし、子供の面倒だって碌に見れる自信がない。なんでこんな女の所に誕生したんだろう。この子は?


 とりあえず、自分のベットに寝かせ、この村の生き字引とまで言われる長老の所に行く。そこで初めて自分は曖昧にしか知らなかった亜神デミゴットの話を聞く。基本的に亜神デミゴットたちは成長が早いらしく、また才能も大いに持っている。なので自分が子供の時にしてもらったこと以上のことをしなくともどうにかなると言われた。それから今度拝ませて欲しいとも言われた。

 

 長老から孫のお下がりだとかの小さな服やら新鮮なミルクだのを貰った帰り道、亜神デミゴットの赤ちゃんの名前を考えた。へーファイス―トス。鍛冶の神様の名前だ。亜神デミゴットだしそのぐらい仰々しい名前でもいいんじゃないだろうか。自分も鍛冶が好きだし。よし、ファイスにしよう。へーファイスートスじゃ長いし名前の由来がすぐバレちゃいそうだ。ファイス。ファイ。うん、いい名前だ。


 家に着くとファイはまた眠っていた。早速貰ったばかりのちいさな服を着せてみる。なかなか難しい。身体がグニャグニャしてこれ以上動かしていいのかもよく分からない。悪戦苦闘しながらファイに服を着せた。うん、かわいい。燃えるような赤髪が野暮ったい服を押しのけて可愛く見える。

 

 なんとなく抱きあげてしまっていた。するとファイはうずうずと小さな手を振り出した。かわいいのでほっぺたを指先でツンツンしてみる。やわらかい。うーん、かわいい。思わず胸全体を使ってファイを抱きしめていた。

 

 「ファイ~? おかぁちゃんだよ~?」


 なんか調子に乗ってしまいおかぁちゃんって自分で言ってしまった。あたしの母もそう言ってたから間違ってはいない筈。あ、それと高い高いもされたな。ファイにもしてあげよう。ほら、たかーいたかい?

 

 ぱっちり開いたファイの目が見えた。黒曜石のような瞳だ。綺麗だなと思った。

 

 ファイはそんなあたしをじぃーっと見ていたのであたしは思い出したかのように笑顔を見せた。かなりぎこちなかっただろうけど。ファイはそんなあたしを見ながらおしっこを漏らした。


 「あ~っ! ファイ~、おしっこ~?」


 亜神デミゴットと言っても赤ちゃん。おしっこぐらい漏らすよなとも思いつつあたしの顔はちょっとニヤけていたのかもしれない。だんだんファイの瞳に涙が溜まってきている。赤ちゃんなんだからお漏らししたぐらいで泣かなくてもいいのに


 「な~く~な~っ! な~、な~」


 ファイは不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。さっきまで泣きそうだったに


 「たあ? あ?」


 おお、喋った?


 「あーあー あい?」


 ファイが首を傾げた。かわいい。


 「ファイ~、喋ったー。えらいなっ!」


 今なら解るかもしれない。親バカってやつの気持ちが

 あたしはこの子の、ファイのかぁちゃんになる。



 ファイはみるみる大きくなった。いきなりハイハイをし始めたり、喋り出したり、本を眺めるようなしぐさをしたと思えばもう魔力顕現さえも出来るようになっていた。

 

 子供の成長は早い。いやファイだからなのだろうか?


 いつかあたしの仕事にも興味を持ってくれるのだろうか? 今、ファイは何も言わないが、頼まれた筒は私の持っている技術を全て使って最高のモノを作ろう。そして鍛冶に興味を持ってもらおう。ファイと一緒に鍛冶仕事。うん、楽しそうだ。


 この時あたしは、この筒から新しい技術を知るとは露ほども思っていなかった。

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