第10話 奴隷市場
「お嬢様、今日の日報書き終わりました」
「あら、早いわね。はい、今日の日当ですよ」
「ありがとうございます!」
「ちゃんと貯金分残すのですよ」
「はいっ!」
少女が子供達が書いた日報に目を通す。
うん、ようやく読めるぐらいの字にはなってきたか。
「ミリス、またこれを業種ごとにまとめといて下さる」
「はい、了解しました」
少女は子供達の日報を暗殺ギルドから引き抜いた事務員に手渡す。
(ほぇー、パンの焼き方に、縫製の仕方、靴磨きから鋳造の仕方まで…あんたお店でも開く気?)
そう、少女は子供達を身なりの良い姿をさせ、各業界へ低賃金で派遣を行ったのだ。
この世界、ほとんどが家族か一族経営ばかりだ。
人を雇うというのはあまり見かけられない、なんせ雇う方も雇われる方も命がけだ。
雇う方は雇われ人にいつ寝首をかかれるか分からない。そして雇われる方も貯蓄なんてできないから首になればすぐ次の職を見つけなければ生きていけない。
だがこんな現状、すぐ次の職が見つかる訳ないから、雇い主を襲うか、餓死するか。
切ない世の中である。
そこで少女は、時給制、短時間で、お手伝いと言う形で子供達を派遣する事を思いついた。
最初の頃は胡散がられていたが、時間が経てば噂が広まり、安全に、かつ忙しい時だけ手伝いに来てくれると評判になってきた。
子供達の人気も上場で、丁寧な応対、真面目な仕事ぶりと好評価を頂き、雇い主から引き取りたいと言って来るほどだ。
最初に徹底的に行儀をしこませた成果はきちんと出ている。大人ではこうは行くまい。
(でもあんまり儲からないよね?)
今はな。だが派遣の恐ろしさはこれから始まる。
一度派遣を受け入れて馴れた企業は、次からも派遣を受け入れざるを得なくなる。
派遣無しに成り立たなくなるのだ。
派遣業は一つの経済圏となる。現代日本がいい事例だ。
(その頃にはいろいろなとこが真似し始めるんじゃないの?)
「だからこその日報とまとめだ」
子供達の業務を日々まとめる、次に別の子供が行っても同じ作業が行えるように。
人に技術が蓄積されるのではない、派遣業者が技術を蓄積するのだ。
そうすることにより、後塵を拝させないレベルへと高める。
(ほぇー、良くそんなこと思いつくわね)
「ほぇほぇ言って、バカな子みたいだぞ」
(誰がバカ子よ!)
「お嬢様、依頼取って来ました!」
「…マルクス、あんたちょっと張り切りすぎじゃない?もうスケジュールはいっぱいよ」
「え、でも、子供達の為にもいっぱい取って来た方がいいだろ?」
「あんたはお嬢様に良く見てもらおうとしているだけでしょが!」
ミリスはマルクスの頭を持ってるスケジュール表でバンバン叩く。夫婦喧嘩は他所でしてくれないかなあ。
「またどっからか連れて来るしかないですわね」
「でも、もうどこのゴミ捨て場もすっからかんですよ」
少女が捨てられた子供達を実験に使っていると噂がながれて以降、簡単に子供を捨てる親が減ったらしい。そもそも簡単に捨てようとするのが間違っているのだがな。
「ダンジョン組みを回しますか?」
「いや、あちらはあちらで必要ですから」
子供達の中には血気盛んな子もいる。腕力が強い子、少ないが魔法の才能を備えた子。そういった子達は暗殺ギルドの面々に訓練を行ってもらっている。
いずれ、派遣している子供達を護衛する役目を担って貰うつもりだ。
(ねえねえ、あなたは不幸な子供達を捜している訳でしょ?)
「…そう言う言い方はあれだが、まあそうだな」
(いるわよいっぱい)
「どこに?」
(奴隷市場)
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なるほど、それは盲点だったな。と言いたいところだが…うーむ、こういう所は需要があるから供給される訳で…下手に需要を上げると…」
(大丈夫じゃない?奴隷になるってことは犯罪者か犯罪に関わった人達でしょ)
「その犯罪がでっちあげできるからな。良く考えてみろ、乳飲み子の犯罪者がいると思うか?」
(うっ、そう言われれば…)
少女はフェイリースの記憶を辿り、奴隷市場へ出向いていた。
「しかしお前も、何が楽しゅうてこんなとこ見に来てたんだか」
(どうせ私の記憶見てるんでよ!分かってるわよ歪んでることぐらい!ええ、奴隷を見て蔑んでましたわよ!)
「まあそんなお前も奴隷落ち一歩手前だった訳だが」
(ムッキー!反省してます!もう二度とあんなことはしませんから!)
しかし、意外と小奇麗ではあるな。
大きな建物の中に無数の小部屋がある。
人が多くすし詰めにされているだけあり、衛生管理は行き渡っているようだ。
「フェイリース、ちょいとぐるっと偵察して来てくれないか。そうだな、隠してる部屋とかな」
(あんた、今度は何企んでいるのよ?)
なにも企んじゃいねえよ。ただな、あまりにも『健全な奴隷が多すぎる』のが気になるだけだ。
フェイリースは壁の中に入ったり、地面に潜ってあちこちを探索している。
そのうち、
(ヒィィイイイイイ!ヒギャァアアア!)
なんか悲鳴を上げながらこっちへ飛んできた。
思わず、
「コワッ!顔コワッ!うへぇえ!」
少女も逃げ出してしまった。
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